第224話 OLと(1)
姉さん:姉さん。性的に狙われているらしい。ね。婚約って意味を見つめなおしたほうがいいと思うの。
トウイ:恋人。毎日通話してて、なんかこう、お互い声フェチになりつつある。
サクラちゃん:失恋済み。でもまだ噛み跡は残ってる。十分だ。
カケル:恋人候補。じきに恋人にしてみせる……いけそう。
シトギ先輩:両想い。少なくとも矢印の向き的には。じきに堕とされてしまいそう。
キサラ先輩:両想い。虎視眈々と
メイちゃん:保留。ほかのみんなを見てまた考えるらしいけど、ファーストインプレッションは大事にしないとマジでフられかねない……
みうちゃん:告白したい。なかなかいいタイミングがないんだよね。
ユラギちゃん:返事待ち。まあ、気長にね。
アイ:恋人。
双子ちゃんズ:未来の恋人。そのためにはこれからも彼女たちに好きでいてもらわないといけないわけで、まあ長丁場になりそう。
先生:先生。個人で連絡先を交換した。一歩降下だ。
「……死んだ方がいいなコイツ」
コイツっていうか、紛れもなく私なんだけど。
とりあえず全員への『告白』というか宣戦布告……?
みたいなそういうことを終えて、その返事をもらって。
そうしていったん落ち着いた関係をまとめてみたら……なんだ、この、なんだ。
ずいぶんと、酷い名簿になってしまったものだ。
正直何人かには刺されておかしくないと思ってたし、っていうかバチバチに嫌われてマジで顔も合わせてくれなくなるくらいが普通だろうはずなのに。
怖気が走るほど―――私に、都合がよくないか。
とはいえまあ、その辺はお姉さんによって否定されてることだ。
今更彼女たちを疑うつもりはない。
少なくとも今回は……リルカに、頼ったりしなかったわけだし。
正直何度か頼りたい場面はあったけれど。
あったけれど。
切に。
マジで。
なにせ、ひとまず頑張ったもんな、みたいな気持ちで、今腕の中に金庫があるくらいだ。
ただ、開けるつもり、だったんだけれど。
前にすると、なかなか出来なくて。
このまま封印しちゃった方がいいんじゃないかと、そう、思っている。
「―――という訳でお姉さんの意見を聞きたいんですけど」
『いやウチめっちゃ仕事中なんやけど』
「え。……お姉さん土日とか知らないんですか……?」
『アホ言えちゃんと振り替えとかあんねん』
「でも取ってくれましたもんね」
『そら……まあ、ユミちゃんやし』
そういう嬉しいことを言ってくれるのが憎いところだ。
ついニマニマ。
しつつ。
「まあそれなら後でいいんで。仕事」
『あうん悪いなぁ……って仕事の方かい。どんだけ自己中なんよ』
「通話できないときに応答しないでくださいっ!」
『めちゃ逆ギレやねんけどそれ……?』
プンプンと怒るポーズをすると、深々とため息が返ってくる。
『まあええわ。ちょっと早いけど休憩とろ』
「そうですか? じゃあまた終わったころにご連絡しますね」
『気遣いの的ズレ過ぎてんのよ。……ちょっと20分後くらいにまた連絡するわ』
「あ、はい。すみません、お忙しいのにありがとうございます」
『まったくやわほんまに』
からからと笑う声で通話が途切れる。
金庫を転がして待っていると、またしばらくして電話がつながった。
『もしもしー?』
「あ、もしもしどうも」
『そんでどないしたん。さっそくやけど聞こか』
「ああえっと」
軽く説明。
する度にひしひしと感じる呆れとかの気配。
『……まあ、ひとまずはおめでとうとでも言っておこか? いやあんま祝うべきじゃなさそうやけど……お疲れ様の方がええか。おつかれさん』
「いえ。やると決めたことだったので」
『さよか。まあその辺はユミちゃんが頑張ったことやからなんも言わん。んで、カードをどうするかって話な』
「はい」
むう、と考えるように唸る。
『……まあとりあえず、いっぺん取り出すには取り出してもええんとちゃう?』
「えぇ」
『今回の件で、ちゃんと向き合ってみたんやろ? しかも前なんぞおかしなこと気にしとったやん。カードがウチをおかしぅしとるみたいな。しょーじきまだちょっとビビっとるやろ』
「…………まあ」
『せやったら今のユミちゃんなら十分自重できるんとちゃうん。困ったときすぐカードに頼るみたいなことはせぇへんと思うよ』
「そうでしょうか……」
お姉さんに見透かされるのは癪だけど。
それはそれとして、ちょっとそこまで自分を信じられない。
いや、使うぜコイツ。
絶対。
欲望のままに。
『っちゅうかさ、本気でやるっちゅうんならためらっとるヒマないんとちゃうん』
「え?」
『聞いたところ13人やっけ』
「お姉さんも入れたら14人です」
『………………ともかく』
あ、はぐらかした。
といってもなにげにお姉さんにはまだ何も言ってないから、まあそのあたりはまた今度といったところだろう。
なんだか後輩ちゃんよりよっぽどタイミングを逃している気がするんだよね。
『ともかくよ。そんな大人数相手にマトモなやり方でどうにかできんの?』
「どうもこうも……やるしかないじゃないですか」
『せやから、使えるもんはなんでも使うんとちゃうの』
「使えるものは……」
『普通に考えてじゅ、……十人以上をひとりで相手すんのムリやろ』
日和った。
さておき。
「まあそれは、そうかもですけど」
確かにお姉さんの言葉には一理ある。
なにせ実際、先輩ズには激しい攻勢に出られているわけだし。
それを私のごとき凡人が太刀打ちするには、多少ダーティな行為にも手を染めないとダメなんじゃないかと……そういう思いも、まあ、元からないではなかったんだ。
「おねぇさんはそゆの否定派じゃないんですか」
『ゆみちゃんが全員とヤりあうなんて決めたからやん』
「……ぅ」
『いかがわしい想像してんちゃうぞオドレ』
「カード……やっぱりないほうが……」
だってやりそう……その方向には信頼がある……ヤだよカードで一線超えるの……
『なんでそない自信ないん』
「私の行い見て言ってます……?」
『ゆみちゃんを見て言ぅとんのよ』
「……」
どこから降って湧いた言葉なのか……とか。
あんまり、そう思いたくはないけれど。
なに言ってるんですの……?
『おっと、そろそろ到着や』
「あ、お外でご飯なんですか」
『まあ昼休みやもん』
「なるほど」
そういえば私もおなか減ってる。
お姉さんのお昼ご飯をあんまり邪魔するのもあれだし、そろそろ中断っていうことでいいかもしれない。
『もうあと10、9、はーち、』
「カウントダウンいります……? ちなみにお昼ご飯ってなんですか」
『ゆみちゃんなに食べるん?』
「え。まあ、適当にラーメンでも。野菜炒めて乗せたりして」
『ええやん。ちょうどラーメン食べたかったんよ』
「は?」
『ピンポーン』
……?
二重音声で聞こえる……
「は、はーい?」
『「おーう開けてー」』
「……マジですか」
『「マジやで」』
扉を開けたらオフィスカジュアルなお姉さんがいた。
ぴ、とスマホを切って、彼女は笑う。
「お邪魔します。っちゅうかゆみちゃんなんでそないなん持ってんの」
「え。あ、これ件のカードなんですけど」
「ほぉーん、ええやん開けよ開けよ」
「え、ちょちょちょ」
え。
え?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます