29.まさかこれが噂の呪いのお手紙とやら?
「ってことで、なんか避けられてる」
ビクッ
みっちょんのその言葉に、琥珀の肩がびくりと跳ね上がりました。びくびくっ。
いけないいけない、ぼーっとしてたよっ。
琥珀はうなだれているみっちょんを見る。
ちょっぴりショックを受けているような様子。
教室の私の前の席に座って腕を組み、机に伏せているみっちょん。
そこみっちょんの席じゃないけどね。
つい先日のことがあって、琥珀が咲くんのことで頭いっぱいにしてたのに気付かれたのかと思っていたら。
「黒曜のメンツ、車が歩行者を避けるかの如く私のこと避けてくのよ。失礼すぎない?」
そうして琥珀に聞いてくるみっちょん。
握りしめた拳をドンッと机に落として、激おこプンプン丸のみっちょんがそこにはいた。
直後、キーンコーンカーンコーンと予鈴が鳴る。
「……黒曜のメンツ?」
…………咲くんじゃなくて?
黒曜の話だった!!?
咲くんの話じゃなかった……ふぅ。
琥珀は少し安心しちゃいました、バレてないのかな。
「そんな酷いことした覚えはないんだけど?どう思う琥珀?」
「黒曜のみんなのことはわかんないけど、予鈴鳴ってると思う……」
「やっば、準備しないと」
そう言ってみっちょんは自分の席に戻って行った。
黒曜のみんな、どうしたのかな?
みっちょん怖くなっちゃったのかなぁ?
不良さん達のが怖い気もするけれど……。(見た目は)
……それから実は、琥珀もあの日から、咲くんと目を合わせられていない。
お迎えの車に乗っても端っこに座り、黒曜に着けば足が勝手に走り出し、修行中(ペンテク&トーン削りレッスン)は、咲くんに会うこともなく一日が終わる。
気まずっ!!!!!!
琥珀、過去一気まずいカンケイの人ができてしまっていて、大混乱しています!!!
だっ!て!な、な、なっ……!!!
なめっ…………!!?!?
今でもあの時のことを考えると、琥珀の思考はどっかに飛んで行ってしまう。
ぴゅーんって。
それくらいに未知の体験で、今でも何が起きたのかよく解っていなくて、もはや夢だったんじゃないか?と考え始めています。
そうして授業中もあのことがぐるぐる、今もぐるぐるぐるんと頭の中を回っているのです。
次の授業の準備をしようとすると、ふと机の中に入っている小さな紙に気付く。
開いてみると
『ザケんなてめぇ キメェんだよブリっ子 甘ったれてんなクソ セコムつけていきがってんじゃねぇ 咲さんたちに何して付け入ったわけ? 弱みでも握って脅してんだろ』
……なんかいろいろ書いてあった!
それに、てがみの端っこにはカッターの刃が付いていて……。
琥珀は親指を見る。
大丈夫、切れていなかった!
手紙の折り目のところを持って開いてたからね!
デザインカッターの刃ならまだ使えるものの、折るタイプの刃だともう使えないかな……と、残念に思いながら刃折処理機にぽとりと入れる。
なんでこんなもんを持ってるかというと、トーン処理の練習にカッターをよく使うし、それが放課後の時間、学校の後だから、持ち歩いているのだ。
ふふん、便利だなぁ。
まだ使えそうなのが勿体なかったけど。
でもね、うーん、琥珀お手紙貰えることは好きなんだけど、誰が書いたのかこれじゃわからないし……なんかお口の悪いこと書いてあるのはわかるけど、ザケる……キメェってなんだろう?呪文かなぁ?
そんな漫画どっかにあった気がするんだけど!
ざける!ちゅどーんって!
呪文?
はっ……!!
まさかこれが噂の呪いのお手紙とやら!?
でもこのセコムさんはみっちょんだな!
琥珀が脅してること?ないけどなぁ。
呪いのお手紙にみっちょん関係あるのかなぁ?むぅ?
授業の用意をしながらも、琥珀はまた混乱することにぶち当たっていました。
咲くんの弱みも特に握ってないし、このお手紙、何のために机の中に入ってたのかよくわからない。
お返事はいらないのかなぁ?
なんて返したらいいかもわからないけれど。
……あとでみんなに相談してみよう!
(琥珀は事の重大さに気付いていなかった)
と思っていたのがつい2時間前。
トイレに入ったら出られなくなったのがつい5分前です。
む?
どうしてこうなったのでしょう?
うーん、んむー……。
体育着のままな琥珀は悩んでいます。
スマホを持っていません。
呪いのお手紙の効果でしょうか?
今琥珀は、とってもとっても困っていました。
「閉じ込められちゃった!」
琥珀ちゃん、ぴんち!!!
お昼ご飯が食べられないわっ!!
先生が呼んでいるとのことで、みっちょんは先に戻ってしまって、琥珀もマイペースにルンルンと帰ろうとしたところ、トイレに行きたくなり。
そのまま体育館の近くのトイレに行ってからいざ教室へ!……と思いきや。
扉が開かなくなっちゃったのです。
何か引っかかっているのか、開こうとするとゴッゴッと音はする。
むむぅ、困った。ここは二階。
一階なら窓からぴょーんっって飛んで出られもしたけれど、二階となると飛んで降りられない。
手洗い場があるし、しばらくは水には困らないとしても、さすがに体育の後でお昼休みでお昼を食べていない琥珀ちゃん、とってもはらぺこあおむし。ぐぅ。
一番最初に琥珀が戻らないことに気付いてくれるのはきっとみっちょん。
それと、黒曜の子が同じクラスにどうやらいるらしく、普段はその子も琥珀のことを見守っててくれているらしいことを、いおくんから聞いている。
琥珀がいないことに気付いてくれるのも時間の問題だと思うけれど、みんなが探してくれるとしても範囲がわからないかもしれない。
体育の後、それから教室までの間……そのルートからここはちょっと外れた所にあるのだ。
お昼休みの時間にも限りがあるし、何より琥珀も時計を持っていない。
窓の外を眺めて、だれか来ないかなーっと眺めているも、道路を走っている車しか見当たらない。
と、思っていたら、塀の向こう側でふわふわと移動する白色の髪が移動していた。
ふわふわ、ふわふわ、歩いているようなペースで…………人だ!!!!!!
「すみません!!すみませんそこの白い髪のお方!!!」
届くか!?この想い!!!
琥珀はめいいっぱいに叫ぶ。
すると、その白髪の人はふわりふわりとした動きを止め、その人と塀の上からちらりと目が合った。
……あれ、意外と若そうな人……?
と思ったら、ぴょんと塀を軽々と登ったその人は、近くの木に手を付けて塀の上に立った。
白髪の彼は表情を変えず、ボーッと琥珀を見つめる。
あれ……この人なんだか、見覚えが……?
「あれ、女神さんだ」
こてん、と首をかしげるその人に合わせて、琥珀もこてんと首を傾げ――……女神さんというワードにハッとする。
「黒曜の子?」
「はい。一回会ってますよ、アシで」
「……!!!!」
わかった!!!
フランス色の時の白髪くんだっ!!!!!
「あ、あのっ!私閉じ込められててっ」
「……そこ女子トイレです?」
「そう!誰か連絡とれるでしょうかっ!?」
そう聞いてみると、スマホを取り出した彼は「あ。」と何かに気付く。
「ほんとだ、捜索しろって通達来てた」
「通達!!?」
通達って何ですか!!?
え、みんな今琥珀のこと探してくれてるってこと!?
「今いおりさんに居場所伝えたんで、近くにいる奴がすぐ開けてくれると思います。俺もそこ行きますよ」
「……ほんと?」
彼はこくりと頷いてから、ふわりと笑った。
「今日、遅刻してきてよかったです」
「……それは、よかったのかなぁ……?」
彼も立派に不良さんしていたようです。
「琥珀!!!!」
ガキンッという大きな音の後、みっちょんのその大きな声が聞こえてから扉が開かれた。
閉じ込められていた時間はわからないけれど、大きな安堵感が胸いっぱいに広がる。
「よかった、みつかって……怪我は?水ぶっかけられたりはないわね?嫌なこと言われたり?」
「大丈夫だよみっちょん、なんかわからないけど閉じ込められちゃっただけ」
その後ろには咲くんやいおくんもいて、私が白髪くんにお願いをしてから五分も経たずに駆けつけてくれた。
「私達ずっと体育館の方探しちゃってて、黒曜のみんなも教室付近とか探してくれてたんだけど、まさかこんなところだと思わなくて」
このトイレは教室から遠く、体育館の近くといえどあまり人が立ち寄らない。
「ううん、ありがとうみっちょん、いおくん……咲くん、も」
ちょっぴり、ちょっぴりだけ不安だった。
最悪、放課後まで待たないと誰も通りかからないかと思っていたし、窓から外に声をかけるか扉に声をかけるかでも迷っていた。
そしたら琥珀の空腹が限界を迎えちゃうことだっただろう。
窓か、廊下か、どちらが人の通る確立が高いだろうか?
でも扉だと私の姿が見えない分、気付かれないんじゃないだろうか。
登下校で使われる道路も、昼休みは人通りが少なくて。
「琥珀ちゃん、何もなくてよかった」
ぽんぽん、優しく頭を撫ででくれる咲くんの手のひらに、また心が緩んでいく。
思っていたより、体はがちがちに固まっていて。
みんなを見たら疲れがどっと襲ってきた。
三人の後ろから、白髪くんも現れる。
どうやら彼も来てくれたらしい。
「助かった、ハクト。お前の遅刻癖が役に立つ日が来るとは思ってなかったぜ」
そう言ういおくんに、彼は……ハクトくんは、ペコリと頭を下げた。
「また近々、原稿するみたいなんで。またアシ一緒にしましょうね」
手を振るハクトくんに、琥珀も手を振り返す。
「あり、がとっ」
遅刻魔らしいヒーローは、そのまま教室へと向かったらしい。
「え、琥珀は誰かに閉じ込められたの?」
「逆になんでドア開かなくなったと思ってんだお前」
お昼休みはあと10分というところで、琥珀は急いでお弁当を食べていた。
スライド式のドアに棒が立てかけられていて、開かなくなっていたらしい。
なんてこったい!
「ねぇ琥珀、ほかにもなんかないんでしょうね?あったら今のうちに咲さんに言っときなさい」
「何か?なにか……あ」
「あ?」
「あってなに」
「琥珀ちゃん、小さいことでもいいから、気になったことがあったら話してみて?」
優しくそう聞いてくれる咲くんに、既に制服に着替え終えていた琥珀はスカートのポケットの中から例の呪いの手紙を出したのだった。
「あのね、実は呪いのお手紙が――」
凄まじい勢いでそれを取って開いたみっちょんの額に、青筋が立つのが見えて、琥珀は「ひえっ」と弱弱しい声を漏らした。
「琥珀、これいつ?」
「……二時限の終わり頃、です」
「移動教室の後ね。どこが呪いの手紙よ、脅迫文じゃない。あとセコムじゃねぇよぶっころしていい?」
「みっちょん、お口が!お口が悪くなってるよっ!!」
「ここ、なんか紙が剥がれてるの何?」
「あ、そこはカッターが挟まってたから、処理機に──」
「「「カッター!!?」」」
ぴぃ!!!
みんなの視線が一気に怖くなりました。
ガッと、素早い動きで琥珀の手を掴んだ咲くんが、琥珀の手をまじまじと端から端まで確認する。
「……あの、刺さってないよ?」
「念の為消毒しに行こう」
真剣なその真っ直ぐとした眼差しに、ドクンドクン、琥珀の胸がまた騒ぎ出す。
「どうも俺に執着してる子っぽいから、そういう子片っ端から当たっていけばそのうち……」
「お前悪いこと考えてそうだから却下」
「こんなことされて黙ってられないからね」
その笑みは一体何に対しての笑みなんでしょうか。
一瞬背筋がぞぞぞってした。
「でもまぁ、こんだけ恨みが駄々洩れだとそのうちボロ出してくるんじゃねぇ?」
「いお、琥珀に危ないことが起こる前に食い止めたいの。わかってる?」
「既に俺らが出てって咲が自ら注意した上でこんなことしてくる奴ぁ頭が悪ぃ」
「でも琥珀、だれがやったのかわかってないわよね?」
ぽわりぽわり、考えてみるけれど、特に誰がってわかりやすいアクションを起こしていた人はいなくて、琥珀は首を傾げる。
「わかんないよ。特に怖い顔してた人見てないと思うけど」
そもそも琥珀はまず、咲くんのことでなんで琥珀になにか悪いことしてくるのか?っていうところから、よくわかっておらず。
「やっぱり片っ端から……」
「早まるんじゃねぇ、咲」
意外と脳筋?
「私も周りで違和感ないか警戒して見るけど、この分じゃ顔伏せたまま何かしてくる気がするわ。一人なのか複数人なのか、それこそ男女どちらかも」
「前回みてぇにわかりやすくねぇのがめんどくせぇな」
みんなして琥珀のことを考えてくれてるんだっていうことがすごくすごくわかって、それだけでも琥珀の胸はいっぱいだった。
みんなごめんね、琥珀の為を思ってくれてありがとう。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□
ようやくラブコメらしさのラの字が出てきたと思ったらに琥珀ちゃんのぴんち!
⇓ついった⇓
@rim_creator
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