第105話 総合内科専門医受験への準備

 九田記念病院 内科後期研修のゴールの一つが、総合内科専門医取得、と明言されており、私も後期研修4年目として、総合内科専門医試験の準備を開始した。正確には記憶していないが、内科の9分野から各2症例、救急症例2例、外科転科症例2例、解剖症例2例が症例レポートの課題だったように記憶している。


 前もって、自分の担当した症例の退院サマリをファイリングしておけば、症例探しには苦労しなかったのだろうが、本来いい加減な性格の私、そんなことはしておらず、症例探しに苦労した。4年間の担当患者さんリストをプリントアウトし(私の主治医担当症例だけで900例、1年次研修医を主治医にし、実質私が管理していた患者さんを含めると1300例近く)、自分の記憶をもとに、この人だったかな、とサマリを確認したり、確かこの時期に経験した症例だったよなぁ、と思いだしながら、その時期の担当患者さんのカルテを全て確認したりして、症例探しは少し苦労した。


 他科転科症例は以前に記載した、胆嚢捻転の患者さんと、硬膜外膿瘍の患者さんの症例を使った。救急症例はたくさんありすぎて困ったのだが、右季肋部~右前胸部痛で受診され、胸痛、腹痛の両方の鑑別診断を挙げ、順序だてて問診、検査を行ない急性胆嚢炎と診断した症例と、以前に書いた、他院でパニック発作と診断された完全房室ブロックを伴う心筋梗塞の症例を提示した。症例としては一般的だが、救急の現場で、短時間で漏れなく鑑別診断を挙げ、適切な診療、検査で診断をつけた、というものと、見逃しやすい教育的な症例を選択した。専門診療科がないため、症例数が少ない腎疾患、血液疾患、膠原病疾患は症例をあまり選べなかったが、その他の領域のレポートは、2例とも可能な限り教育的で、一つは比較的急性の結果を辿ったもの、一つは慢性的な経過、あるいはその疾患の背後に何らかの社会的問題点を有しているもの、ということで症例を選択した。


 症例のバランスを考えながら症例を選択し、レポートを書いていると、その患者さんのことがいろいろ思い出される。どの症例も患者さんを診ているときは一生懸命に、抜けの無いように治療に当たったつもりだが、レポートとして症例をまとめてみると、

 「あぁ、この時点でこういったことに気づいていたらなぁ」

 「この時に、この検査も追加しておけば」

 などと、足りなかったことが見えてくる。症例レポートの提出には、このような振り返り学習の意味も有しているのかもしれないなぁ、と思っている。


 当院の教育責任者は院長の本田先生なので、ある程度書きあがったレポートがたまると、先生に提出し、添削してもらう。指摘されたところを訂正し、再度提出し、責任者の印を押してもらってレポート完成。合計で確か22症例のレポートを書き上げた。学会発表の2例は「H.parainflenzaeを起因菌とする髄膜炎の1症例」と「冠動脈疾患高リスク患者に発症したトロポニンT、CPKの上昇を伴い診断に難渋した気腫性胆嚢炎の1例」、どちらも内科学会地方会に提出したものを提出した。どちらも、症例報告で「あっ、そんなこともあるのね」というような発表だったので、学会でもあまり質疑応答も盛り上がらなかったものであった。


 解剖症例は、「他院より『肺塞栓の疑い』で紹介されたA群溶連菌感染に伴う壊死性筋膜炎(人食いバクテリア)」の症例と、「長期の経過で永眠された肝臓がんと直腸がんの二重癌」の症例をレポートにまとめた。


そんなわけで、総合内科専門医試験に向けて、準備を進めていった。

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