第102話 師匠、病に倒れる
とある月曜日の午前中、回診を終え、医局でカルテ記載、指示出しをしていたところ、つらそうな表情をした師匠がやってきた。
「ほーちゃん、申し訳ないけど、私の胃カメラと、腹部CT、腹部エコー、血液検査の指示を入れてくれないか」
とのこと。お話を伺うと、同日の朝から心窩部に波のない痛みが持続しており、痛みがひどくなってきているとのことだった。
自分自身の投薬や検査の指示は、自分でできないことになっているので、私は大急ぎで師匠の電子カルテを開き、指示を出した。師匠はご自身で各部署に連絡し、緊急検査をお願いしていた。
師匠が検査から戻ってきて、ご自身で検査結果を確認しておられた。血液検査は炎症反応の上昇はなく、アミラーゼも基準値内。上部消化管内視鏡(胃カメラ)では特記すべき病変を認めない。腹部CTでは、石灰化した胆石が胆嚢内に充満しており、腹部エコーも同所見であった。
「多分これだよなぁ。5年前に検査をしたときは、何もなかったぜ」
と師匠はつぶやかれていた。血液検査で急性の炎症所見が見られなかったので、診断名としては「胆石症による疝痛発作」という診断になる。
師匠は外科の村野先生に、腹腔鏡下胆嚢摘出術を依頼され、外科での入院管理となったが、「師匠の外来」をどうするか、という大きな問題が起きた。
手術は翌日の午後、最後の枠での予定手術ということに決まったのだが、本日午後の予約外来、翌日午前の予約外来をどうするのか、指導医クラスで話し合いがもたれた。結論としては、月曜の午後の診察枠については、呼吸器内科No.2の栗原先生が代診をされ、火曜日午前からの外来枠は、師匠ご自身が絶食、点滴の状態で外来診察を行なう、ということになった。
月曜の午後診の代診をされた栗岡先生は、
「いやぁ、狩野先生の患者さんは、みんな病気も、家庭など周囲の環境も、本人のキャラクターも濃くて、すごく難しかったよ」
と仰られていた。あの栗岡先生がそういうほどなので、相当外来が濃かったんだろうと思った。
火曜日は10時から師匠の呼吸器内科外来が始まるのだが、師匠は病衣の上に白衣を着て、点滴をつないだ状態で外来に降りられ、当日の予約診の方の診察を行なっておられた。
本当に大変そうだったが、その時間枠の患者さんは数年来師匠がfollowされているので、患者さんが診察室に入室すると、まず点滴をしながら外来をされている師匠に、
「狩野先生、お身体は大丈夫ですか?」
と驚かれるばかりだった、と仰られていた。まるで漫画のような構図である。
そんなわけで、火曜日予約枠の患者さんの診察を終え、午後からは村野先生が執刀される腹腔鏡下胆嚢摘出術を受けられた。
翌日からは、総合内科朝の回診時の最後に師匠の部屋を訪室し、
「お加減はどうですか?」
と回診していた。さすが腹腔鏡下手術。手術はうまくいき、術後合併症もなく、その週の土曜日に退院となられた。発症から手術、術後の経過観察から退院まで、1週間で終わるのは、さすがだと思った次第である。腹腔鏡手術、すごいなと改めて思った。
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