第43話 総合内科の仕事

 総合内科が立ち上がる前は、循環器内科、消化器内科、呼吸器・一般内科と内科が分かれていたものの、そのたてわけは厳密ではなく、各内科に振り分けられない患者さんは、その患者さんを入院させた当直の内科医が主治医をしていた。なので、循環器内科の先生がてんかん重積発作の管理をしたり、消化器内科の先生が急性薬物中毒の患者さんを診たりしていた。そのような状態なので、それぞれの診療科が十分なパフォーマンスを出せない状態であった。

 鳥端先生が来られて「総合内科」を立ち上げたのは一つには、各専門診療科に、その専門性を十分に発揮してもらうためであった。

 また、総合内科が領域にこだわらず、あらゆる分野の内科疾患を扱うので、研修医の教育にも適切であり、また鳥端先生が研修医教育にも大変力を入れておられたので、「教育内科」としても総合内科が適切であった。


 総合内科が立ち上がると同時に、内科での主治医決定方法も変わった。先ほど述べたように、それまでは当直帯で入院をさせた患者さんはその当直医が主治医となっていた。総合内科が立ち上がってからは、主治医名として「内科医師」という名前で入院を上げることができるようになった。各専門科の先生が、「これは自分の診療科で診るべき」と判断すれば、従来通り、ご自身の名前で入院を上げることも可能であり、また、「自分の診療科ではないよなぁ」というときには、当座の入院指示と、主治医名として「内科医師」として入院を上げると、翌朝、総合内科が朝のカンファレンスで主治医の振り分けをする、という形になった。このスタイルは結構うまく機能し、専門診療科はその科の治療に専念でき、総合内科は時に難しい症例に当たるたびにみんなで勉強してレベルアップを図る、という良い流れができた。


 総合内科は朝の7:30に集合。この時間は、ER当直医とER日勤医の交代時間であったことから決定された。集合場所は、時期と事情によってERに集合、とした時期もあれば、医局に集合、としていた時もあった。集合するとまず、先ほどの「内科医師」を主治医とする患者さんを電子カルテで検索する。そうすると主治医が未定の患者さんがリストアップされる。その患者さん一人一人のカルテを確認し、どのような病態で入院したのかを判断し、鳥端先生がおられたころは鳥端先生が、その後、諸事情で鳥端先生が九田記念病院を離れられた後は内科チーフレジデントが振り分けを担当した。振り分けが終われば、新入院の患者さんの中で総合内科に入院された方の回診に回った。時間によっては新入院全員ではなく、その中でも重症そうな患者さんを中心にみんなで回診した。8:45からは朝食の時間+内科全体のsign in conferenceが行われた。このカンファレンスは、当直帯→日勤帯への引継ぎカンファレンスなのだが、総合内科が立ち上がってからは、前日の当直医からは、病棟の急変などの報告があり、新入院患者さんの振り分けは総合内科が提案し、その時点で主治医が決定、このカンファレンスの後、日常業務が始まるのであった。


 総合内科は、守備範囲が広いので、どうしても、内科以外の診療科と重なってしまう分野が出てしまう。例えば、脳血管障害は、どの状態の人は脳神経外科が見て、どの状態の人は総合内科で見るのか、尿路感染症については、どの状態の患者さんは泌尿器科が担当するのかなど、それぞれ調整が必要だった。これは院内の約束事なので、特に根拠はないが、脳血管障害については、クモ膜下出血については原則脳神経外科だが、CPA蘇生後の方や、Hunt&Koznik分類で4以上の手術適応のない方は総合内科が担当、脳神経外科がサポート、脳出血については原則脳神経外科が対応するが、高齢者で手術適応のない脳出血は総合内科が担当。脳梗塞については75歳以上で血栓溶解療法の適応のない方は総合内科が担当するが、小脳梗塞で外減圧術が必要な方は脳神経外科に転科、その他状況に応じて判断する、という取り決めとなった。尿路感染症については、単純性尿路感染症は総合内科、複雑性尿路感染症は泌尿器科が原則対応するが、これも状況に応じて臨機応変に対応することとなった。


 外来がないときは、病棟の患者さんの回診をして、手技が必要な時は、できるだけ人を集めて行うようにした。一日の仕事の終わりは在って無いようなもので、自分で「ここまで」というところまで行なって終了としていた。夕方から夜に、カンファレンスや勉強会を行なうことも多かった。


 鳥端先生は仕事が終わった後も、後輩の面倒見がとてもよかったのだが、家庭を持っている私は、あまり付き合いの良くない方であった。


 そんなこんなで、総合内科で都合3年間、バタバタと仕事をするのである。



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