第8話

「では、廊下でコソコソと屯う鼠も入れてこれからの流れを説明しましょう」

 そう言うとカロサリーもドアにそっと近づきノブを回して扉を開ける。

 兄たちと巻添えを食らったであろうステラがそこには居た。

 しずしずと三人が入室したところで口を開く。

「ステラ、どこから聞き耳を立てて?」

「私はピーターさんが出来ません、と仰った所からです」

「僕とデヴィッドはレディテで浸水があった、という所から…かな」

 二人はそんなに前からか居たらしい。ということは感じた人の気配はステラだったということになる。

 なら、話は速いに越したことはない。

「ローレンスお兄さま、デヴィッド兄さん、ステラ。手を貸して頂けますか?」

 いま不平不満を聞いていたら、それこそ時間が足りなくなる。

 ただでさえ説明ベタな自覚があるぶん不利でしかない。

 じとっと顔を見比べると、三種三様の表情を浮かべ最後には皆そろって頷く。

 では、とカロサリーもそれに答えに口火を切る。

「屋敷の一階を避難所とし、最初は一部ですが、避難者の人数によっては一階を全て解放します。いま、避難者が集まっている所は仮の避難所として可能な限り屋敷に避難させてるつもりです」

 ポカンと口を一様に揃え固まっている。

 でも、気にしたら負けだ。

「おい、お前……正気か」

 デヴィッドがカロサリーの肩をグッと掴む。

 服の上からでもはっきりとわかる、食い込み具合にカロサリーは下唇を噛んで耐える。

「勿論、正気ですよ。これも、一時的な策でしかありませんが」

 正気かだなんて今更問われたくもない。

 一番疑っているのは自分自身なのだから。

「もうよろしいですか? あなたに構っている時間が惜しいです」

 らしくもない、どこから出たのだろうと思うくらいに冷たい声がする。

 妹らしからぬ毒を吐いている自覚はある。

 でも、これでいい。カロサリーがデヴィッドに嫌われるのなんて今更だ。

「ピーターはわたくしと此処で待機、詳しく教えるから自衛団と協会のシスターに協力要請の書状を書き始めて。

 ローレンスお兄さまは隣の事務館から副総長を執務室に連れてきてください。手持ちの情報が欲しいです。

 デヴィッド兄さんとステラは屋敷に居る全員を、仮眠中の人も首根っこ掴んででも玄関ホールに集めて、問答無用でこれからの詳しい説明をします。

 全員集めたら報告に三人の誰か一人を寄越して」

 各々の顔を見渡し、パンっと両手を打つ。

「それでは、行動開始っ!」

 これを合図に三人は一斉に退室し、またピーターに向き合い作業を進めるように視線で促す。

「協会のシスター宛の協力要請は概ねいつも通りでいいわ。自衛団から二人とウチから一人は派遣するつもりだから追記しておいて。三人のうち二人は子供たちの監視用よ」

 ピーターは黙々と筆を動かしつつ、コクンと頷き返してくる。

「これに関して質問は?」

「子供らの監視とは…川と何か関係があるのですよね?」

「好奇心は猫をも殺す。それは人も等しく同じよ」

 今朝のローレンスとデヴィッドを思い返したのか、ピーターも口をつぐんだ。

 二人にはしっかり説明し理解してはくれたが、果たしてそれを全ての子供たちが出来るかと言えば無理な話である。

 バーネル領にある協会は一つ。

 そして、この協会には孤児院も併設されていて、見習いを含めても大人は三人。対し子供たちが二十人近く生活している。

 只でさえ大人不足の孤児院だ。

 ここに、学童保育のような通いの子供たちがさらに追加される。

 いくらシスターが言い聞かせようとも、川の様子を観に脱走しようとする元気な子が絶対出ないとはとても言い切れない。

 だからこそ、言い方は悪いが『監視』なのである。

「ウチから出す人間はピーターが選抜してちょうだいね。協会の方は以上よ」

「畏まりました」

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