第10話 火曜日

みゆさんと出会って、もう一週間か

まだたったの7日しか経っていないのに、なんだかものすごく密度が高い一週間だったと思う

充実していたといえば、そうだったと思う


久々に他人と一緒に行動を共にしたのだから


それにしても、これはどう考えるべきだろうか?

今朝のみゆさんからのメッセージなのだが


「おはようございます、今日も頑張りましょう!」


と、書いてあったのだが…最後にが付いていたのである


これはひょっとして好きだという意味なのではないだろうか?

いやいやまて、そんなはずはないだろう?俺なんかにこんな絵文字は使うはずがない

きっと間違えてつけちゃったに違いない


おそらく彼女の端末ではこのメッセージが削除されていると思うのだ

でなければおかしい


だが、それでもだ。


「なんか嬉しいぞ」


声に出して言った


「嬉しい」


大事な事なので二度言った


と、そこでいつものアレがやってくる


あんまり調子に乗るなと、そんなハートの文字などつい日常でも使うことがあるはずだ。だから気にしていたのでは身が持たないし、期待などしてはいけない


ただの社交辞令に他ならないのだから


「ふう、なんとか平常心をとりもどしたな」


ただ、問題なのは今日夜の事だ


なんとみゆさんから晩御飯食べに行きましょうと、メッセージを送って来てくれたのだ


というか、ここまでされたらね?わかるだろ、嫌でも期待しちゃうんだ

そもそも一週間で何回会ってんだって話だよ。ほぼほぼ毎日に近いくらい会ってないか?土日に至ってはもうデートだろあんなん


だからきっと、もしも


俺が好きだと言ったら受け入れてくれるんじゃないだろうか?


みゆさんは俺の事が好きで、嫌いじゃないんじゃないだろうか?


もう中学生や高校生じゃないんだから罰ゲームでこういう事してるとかきっとないんだ


だからきっと…


ああ、でもだめだ、俺は振られる

きっと恋愛対象なんかじゃない

友達とか、父親とかそういう感じでみているのかもしれない

もしかしたら、本当に「お兄さん」みたいなのかもしれない


そうだよ、まだ彼女の家族構成すら知らない

俺もそこまで話してない


まだまだ知らないことが沢山ある

そんなに早計に好きだとか付き合うだとかおかしいじゃないか

俺もう39なんだぞ?来年はもう40だ。おっさんどころか下手したらおじいちゃんでもあり得る年齢だよ!

事実同級生で孫が産まれたって奴居るし!


だがそんな事を言っても仕方がない

時間が経てば夕方は刻一刻と近づいてくる

逃れられないのだ、その時間からは


だから俺は、意を決して行くのだ


もう心臓にわるいから、ほんとに今日以降は距離を置こう…


誘われても次からは行かない


期待している自分が滑稽で、恥ずかしいのだから…哀れだってのもあるなぁ






時間は過ぎて、仕事が終わる

意を決してみればどうということはなかった


なんだ、住む世界が違っただけだと納得した

俺には女性と一緒に遊ぶとか付き合うとか、そういうのは俺には似合わない


それだけのことだったんだ


車を走らせ、一度自宅に帰って着替える

その後みゆさんを迎えに行く


アパートの駐車場に車が着くと、みゆさんの原付が目に入った

俺はメッセージを送る


「着いたよ」


少し待つ、なんだか通行人の目が気になる

なんでこんなところにいるのかとか言われそうだなぁと思って、もしかして犯罪の下見してるとか思われたら嫌だと思った


「お待たせしました!」


「あ、待ってないよ。んじゃ行こうか」


俺は車を走らせる

今日はなんでもパスタを食べたいとの事だった

一人で行くのは嫌なので付き合ってほしいとのこと


車内での会話は、さしさわりなく、特に特別な感情は沸かない


今日仕事でこうだったとか、明日はどうとか

いついつクレーンゲームの新作プライズ出ますねとかそういう他愛のないお話はもう俺のストレスにならない


ざわつくのは土日の話題で、楽しかった思い出が呼び起こされる


楽しいんだけども、楽しんではいけないという自分がいる感じがして苦しむのだ



ああ、ダメだな俺は。なんか考え過ぎて



まあ、見栄とか、そんなもん張らなくていいだけ気は楽なとこあるけどな


こんな可愛い女の子と一緒にいるのに俺はボロボロの服装だ。いつもだいたい似たようなコーデで


どうにかした方が良いのかな


それこそみゆさんに聞いても良いだろうか?


ああ、ダメだ。本当に…


俺はもう、この娘と付き合えるとかそう言った夢しか見ていない



そして、飯を食べて


店を出る



記憶が無い…俺はこの娘といると、幸せで、それが大きい分


怖いんだ


いつ会えなくなるのか、告白もしていないのに、振られるように誰かとみゆさんが付き合い始めて俺はお払い箱になって…


これは、病んでるな


みゆさんと今日、何を話したのか殆ど覚えて居ない

重症がすぎるだろう、これは


「あ、岡田さん」


「ん?どうかした?」


「いえ、今日なんかあまり楽しそうじゃないですね?」


「いやそんなことないよ?すげぇ楽しい」


楽しいに決まってるだろ?・・・ 


楽しいが大きいだけ物凄く怖い・・いや、嫌なんだ



「えっと、あのですね岡田さん…私と…」


「私と?」


なんだ、まさか付き合ってくれとか言わないだろうな?

はっ、俺はこの期に及んでそんな自分に都合のいい妄想を…



「付き合ってください」



みゆさんが真剣な顔でこっちを見ていた







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