第83話
〝竜騎将〟ジュノーンは開戦と同時には参戦せず、空中から戦況を見守っていた。
もちろん、怖気づいているわけではない。〝賢王〟フリードリヒの命により、その役割を与えられているのである。
ローランド帝国がどういった戦法を採っているか、どんな兵器を用いているか、そしてそれはジュノーンの記憶と相違ないか、それらの確認を行う為である。
矢の一斉発射機〝ブラッドレイン〟新型弩での牽制、そして歩兵隊を下げて敵部隊を引き込み、そこで矢の一斉発射機と新型弩と投石機により粉砕──ローランド軍はジュノーンの予想通りの作戦で行動していた。その間、自軍が敵にやられていく様を見るのは胸が痛んだ。
そして、その中でも深追いしてしまったバーラッドの部隊の損害が思ったより酷い。加えて、ハイランド軍が不慣れな〝時代遅れ〟とも言われる戦車部隊をローランド軍が投入してきた。バーラッドとしては絶望的だ。
戦車部隊の投入はジュノーンとて想定外だった。最前線では、常に将軍が戦術を考えている。この平野をどう生かして戦うかを常に考えていた将校達の案なのだろう。
ともかく、戦車部隊は騎兵隊がほぼ壊滅したバーラッド部隊を粉砕するには十分すぎる戦力だ。これではハイランド軍はローランド軍まで近づけまい。
おそらく、今のローランド帝国の目的は時間稼ぎ。できるだけ時間を稼いで、ケシャーナ朝を迎え討った部隊を引き戻しハイランド軍を一掃するつもりなのだろう。このまま戦いを続けていては、まさしくその狙い通りに事が進むだろう。
だが、バーラッド部隊が多大な損害を支払ってくれたからこそ、解った事がある。それは、矢の一斉射撃機〝ブラッドレイン〟の装填時間だ。短く見積もっても一時間近くはかかっていた様に思える。
ジュノーンの記憶にあるローランドの対ハイランド資料によれば、〝ブラッドレイン〟は矢を同時に広範囲に千本発射でき、それを西・中央・東の各部隊に二十機ずつ設置されている。
即ち、各々二万本の矢を同時に広範囲に打ち込んでいるのだ。さしもの竜騎士と言えども、二万本の矢を打ち込まれると無事ではすまない。だからこそ、〝竜騎将〟たるジュノーンはどれだけの装填時間が必要なのかを見極める必要があったのである。
だが──これで暫くは西軍の〝ブラッドレイン〟の攻撃は無い。
ジュノーンはそう判断し、戦車部隊に襲われているバーラッド部隊の救出に向かうべく、火竜を空から急降下させた。西部戦線の大将をここで失うわけにはいかない。
(さあ、ルドラス。俺達の力を見せてやろう)
ジュノーンは心の中で念じ、火竜に思念を伝えた。
彼の友人はそれに応えるかの様に咆哮を上げると、地上に向かって急降下していく。
火竜を駆る〝竜騎将〟の戦いの始まりだ。
「な、なんだあれは……鳥か⁉」
「いや、あれは……まさか……そんなバカな!」
空から急降下してきた、ローランド軍にとっては未知の生物に戦車部隊は驚いた。彼らの驚きも当然だ。それはまさしく、伝説の生き物に他ならなかったからだ。
火竜は、戦車部隊とバーラッド部隊の間に降り立ち、追撃を阻止する。
「ジュノーン!」
バーラッドは救世主の名を叫んだ。
「待たせたな、バーラッドさんよ。生きてるかい?」
ジュノーンは軽口で応えた。
〝疾風迅雷〟の異名を持つ男は「辛うじてな!」と鼻息荒く返した。
「そいつは良かった。一端部隊の建て直しの為に戻ってくれ。戦車部隊は俺が片付けてやる。ついでに、あの鬱陶しい兵器もな」
ジュノーンが口角を上げてそう言うと、バーラッドは拳を挙げる事で応えた。
「見せてもらうぞ……〝竜騎将〟の実力!」
バーラッドは高鳴る胸を抑えつけ、憎たらしい男に対して声援を送った。
彼にとってジュノーンは邪魔な存在でしかない。だが、それはハイランド王国が存在してこそだ。この戦に勝つにはもはやジュノーンの力なくして不可能であり、味方としてこれほど心強い者は他にいない。
つい先日まで揉め合っていたが、ジュノーンがいなければバーラッドはここで戦死していた事は間違いなかったのだ。
「さて……ここは一つ、派手に決めるか!」
ジュノーンの呼応に応えるように、火竜は迫ってくる戦車部隊に威嚇するように大きな咆哮を放った。
この世ならぬ竜の咆哮により馬は恐怖により錯乱し、騎手の言う事を全く聞かなくなった。戦車に繋がれた三匹の馬は各々別々の方向に走り出し、戦車が制御不能となって横転したものもある。
辛うじて制御を守った戦車に対して、火竜の空からの火炎の吐息で一瞬で丸焼きにし、その大きな二本ある足の鉤爪で戦車ごと掴み、遠くに投げ捨てた。
ジュノーンもただ乗っているだけではない。竜上から黒炎を放ち、戦車や騎手を焼き尽くした。
数十車あった戦車部隊は瞬く間に蹴散らされ、撤退命令が下るまでもなく殲滅された。
〝竜騎将〟の力は、圧倒的だった。
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