第11話 生活拠点

某市内の一角に3棟並ぶ、窓が縦5つに横4つ配置された白壁の四角い建物。側面に『市営 1A』と書かれたこの建物群の一室が殺し屋であるアイリーンの生活拠点だ。


3DKのこの部屋にはアイリーンの他に、彼女の夫と娘が暮らしている。夫はアイリーンの上司が経営するハウスクリーニング業者に勤め、派遣先の邸宅で使えそうな情報が手に入れば、その日の夕飯時に世間話でも話すがごとくアイリーンに伝えている。

娘は近隣の保育園でのびのびと過ごしている。年中に上がった頃からは少しませてきて「ママみたいにしたい」と化粧道具の玩具を欲しがるようになった。


この仲睦まじい家庭に、時々踏み込んでくる者がいる。

筋肉に覆われた肉体を厚手のパーカーで隠し、我が物顔で部屋に上がり込んでくるその人物は、アイリーンの同業者である副権造。何かと夕飯を食べに来るこの男のことを、アイリーン一家は国民的アニメのキャラクターに例えて『ノリスケ』と呼んでいる。

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