第9話

部屋の外に出て、エレベーターに乗って地下に出る。

ものすごい現実感だ。

匂いも音もリアル過ぎる。

すっげぇな。

一瞬本当に地上なんじゃないかって思ったよ。

けどさ。

カンザキが、俺とデートしようなんていう訳ないじゃん?

だからここは地獄でダンジョン。


ところで。


カンザキの姿をした個体が、めちゃくちゃ格好良い。

白のポロシャツに青のカーディガンを着ている。

ズボンはしゅっとした黒。

足元の革靴は、硬そうだが動きやすそうな感じだ。

こんなカジュアル姿を、俺は想像したことがない。

俺を喜ばせる為のオリジナル要素、ということか。

モンスターのくせに、ときめいてしまう。


俺は白浜の姿をした個体が用意した服を着ている。

カーキー色の半袖のシャツに、ジーパンにスニーカー。

…義手は俺のじゃないやつを与えられた。

なんのギミックもない普通のやつだ。

まぁ力入らないけど人並みな感じ取り戻したわけだが。

これが、今、似合ってるのか、分からない。

本物じゃないのに、反応を期待してしまう。


「…さすが白浜様、馬子にも衣装だな。…良く似合っている」


「っ」


俺の望み通りの言葉過ぎて焦った。

なるほど、俺を骨の髄まで楽しませようってことか。

いい、だろう。

気分よく終わらせてもらおう。


「お前こそ、スーツ以外も着るんだな…おお…かっけぇ…え、かっけぇ車なんですけどもしかしてこれに乗るんですか?」


カンザキがある車の前で足を止めたので見ると、めちゃくちゃカッコイイシルバーのスポーツカーだった。

はわわわぁ、となるほど流麗なボディラインに、めっちゃスピード出そうな佇まい。

車のことはよく知らないが、心惹かれて痺れるマシンだって感じられた。


「ああ、そうだ。車の乗り方は分かるかな、お嬢さん」


「わ、分かりますぅ!ドアをこうっ座ってシートベルトだっ!」


俺は素早く車に乗り込んだ。

ちょっとルーフに頭ぶつけそうになったが、そこは俺、誤魔化した。


ははは、とカンザキの姿をした個体が笑う。

手の平の上で転がされている。

いいんだ。

デートだ。


「それじゃあ、上を開けるぞ」


カンザキの姿をした個体が、地下駐車場から出て少ししてからそんなことを言った。


「うえをあけるぞ?…おおおおお!オープンカーぁ!!」


オウム返ししてる合間に、車の天井がじょむじょむ開いた。

何処に収納されてんの?

窓だけ残しとか、かっちょえええ!

今の車ってすげぇのな。

車と縁がない人生だったから、まったく知らなかった。


青い空に、太陽。

その下を平和然と走行するスポーツカー。


「嫌、だったか」


危なげなくスピードを上げるカンザキの姿をした個体に、俺は元気よく答えた。


「最高だっ!お前モンスのくせになかなかやるなっ!」


「…」


俺のテンションを上げることに成功したというのに、カンザキの姿をした個体が苦虫を噛んだような表情を浮かべる。

どうしたどうした、望んでたリアクションと違うか?

残念ながら俺はひゃっほい!両腕を上げ、風をスピードを楽しんだ。

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