第十五話 駆け抜ける戦場(1)
友軍に襲いかかっていた、魔物の群れを殲滅した。納刀し、負傷者がいた味方の隊の元へ駆け寄る。
「ここにいるので全員か? もし行方が分からない仲間がいるのなら、俺が探そう」
そう話しかけた俺に対し、小隊長と思われる男は一歩前へ出て、敬礼をした後、口を開いた。
「改めて救援感謝します。我が小隊には見ての通り負傷者はいますが、行方不明者及び死傷者はおりません」
「了解した。ここに来るまでの道にいた魔物どもは全て片付けている。一度帰投しろ。君たちの持ち場は一時俺が請け負う」
森の先。西方より聞こえるは、魔物の大音声。近くにも奴らの気配がする。時間がない。
その場を立ち去ろうとした俺に、足を負傷して仲間の方を借りる兵員が、止めるように声をあげた。
「あ゛りっ、あ゛り゛がどうございます、俺、新兵で、みんなの足を、ひっぱ......」
彼は感謝を述べようとするのとともに、謝罪の言葉を紡ごうとしていた。彼の自分を責めるようなやり方は俺の好みではない。皆、誰かに助けられて立っている。
昔、自分があの地で助けられた時、助けられた分代わりに人を助けろ、と言われたのを思い出した。少しはこれでツケを減らせただろうか。いや、まだまだ足りない。どれだけの人を救えば、俺は許されるのだろう。
「戦場は助け合いだ。気にするんじゃない。いつか共に戦おう」
その場を離れた俺は、体に霊力を
周りの様子を伺っていた魔物がこちらへ振り向き、その眼光が煌めく。
再び抜刀して、力強く大地を蹴った。
本部霊信室。機械音は未だ鳴り止まず、凄まじい速度で情報が交錯していく。もし一つでも何かを見逃すことがあれば、致命傷になりうるかもしれない。そうした緊張感の元、皆が集中していた。
指揮官の立場にある、タマガキの郷長である山名は、部屋の中央に陣取っている。彼は霊信兵から情報を受け取り、時に伝令からも受け取っていた。
彼が立っている場所の近くには、タマガキを中心とした西部全域の地図が広げられており、その上に部隊規模に合わせた大きさの駒がずらりと並んでいる。
同じく魔物を表すであろう駒も置かれ、数名の参謀と共に盤面を動かし、指揮を執っていた。
今彼らに注視されているのが、交戦区域であるタマガキ近辺である。その中でも、彼らの視線はある一つの小さな意匠を凝らした駒に置かれていた。
機械音に気を取られていた玄一は気づかなかったが、霊信室には霊信号の他に伝声器と呼ばれる鉄のパイプのような形をした連絡手段もあり、それぞれの伝声器は山城内にあるタマガキ近辺を見渡せる櫓に繋がっている。
タマガキ近辺で行われる戦闘を、彼らは緻密に進行形で把握していた。
伝声器の前に座っていた兵士が声をあげる。
「観測より報告。現在、出撃した防人の新免、南西方向の魔物の群れを殲滅し、突出し孤立していた友軍の救援に成功。続いて北へ転進。凄まじい速度で移動しつつ、道中にいる魔物を撃破しています。......新人にしては信じられない手際とのことです」
その報告を聞いた参謀達は、盤面のあちこちをアホみたいに動き回る駒を唖然としながら見つめている。
もしこれが遠方の話であれば報告を疑うところだったが、これは櫓からあげられたものであり、観測兵の目が腐ってたりでもしない限りは正確である。
これは喜ばしい情報だ。新人の防人が都合よく対群戦闘に優れており、主力として駆け巡っているのだから。この中で最年長の参謀の一人が、笑みを浮かべながら口を開く。
「なんたる僥倖。まさか機関を卒業したばかりの防人が即戦力級かつまだ成長途中とは。この殲滅力を見たまえ。
それに対し、別の参謀が訝しげな声を上げた。
「しかし、この速度は移動に関する
それまで無言を貫いていた山名が、口を開く。
「それは奴の基礎的な霊技能の扱いが卓越しているからだろう。奴の霊力は多い方ではあるが、決して莫大な量ではない。おそらく奴は霊力を効率よく使う方法を熟知しているな。......識君め。やってくれる」
「識君......? まさか新免は
「関係者も何も奴はあいつの弟子だ。おそらく基礎のみに絞り叩き込んだな。識君は霊技能の巧者であるし、可能だろう」
戦場に似合わず懐かしげな表情を見せた山名は、すぐに顔を引き締まった表情に戻した。
「総員。戦いはまだ終わっていない。増援が来る可能性もある。油断するな。引き続き気を引き締めて掛かれ」
そう大きな声で言った山名が、盤面を再び見つめる。生の情報を取得する彼は、その豊富な現場指揮経験をうまく利用し、頭の中で戦場を実際に見ているような感覚になっていた。
(しかし......このままだと坊主が突出しすぎるな。オレが出るか)
盤面上の戦は、まだ終わらない。
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