第9話『暗がりは何方に』

「ホントにゴメン!」


「別に、怒ってないから」


そう言うユウキはプイっとそっぽを向き、見るからに怒っているかのような素振りを見せた。


「最初にあった時と大分印象が変わってたから、全然気付かなくて――」


「あれはコスプレしている最中にあーなったからあの格好なの。どうせ私服は地味ですよ」


拗ねたような口振りでユウキはそう言った。ご機嫌ななめなユウキをたしなめようと模作しても、ユウキの機嫌は治らなかった。


「ゴメン!この通り!」


頭を思いっ切り50度位まで下げ、両手を頭の前でパチンと合わせた体勢で、俺は只管ひたすらに平謝りを繰り返した。


「はぁ……。分かった、分かった。私も悪かったから、ごめんね。それに別にもう気にしてないからいいよ。ほら、頭上げて」


許しを乞う俺の様子に、ユウキは半ば呆れた様子で俺に頭を上げるよううながした。


「――それより、作戦会議だっけ?みたいなことする為に集まったんでしょ」


その通りだ。今回俺達が集まったのは、親睦を深める会でもなければ、立ち話をする為でもない。俺達は、今後の王様ゲームに向けてお互いの行動を把握しておく必要がある。この先何が起こる分からない。その為にも頼れる仲間が1人でも必要なのだ。


「その通りだ、ユウキ。先ずはそうだな……。俺達の互いの王権について、把握した方が良さそうだな」


相手に王権を教えるという行為は、場合によっては相手に自分の心臓をさらけ出すも同義だ。しかし、裏を返せばそれは信頼の証なのだ。勿論、ユウキが裏切る可能性だってあるわけだ。だが、俺はあの時はっきりと言い切った。信じると彼女に。


「俺の王権の名は素王。その能力は、陥った状況を打破するために必要な能力を随時俺に授けてくれる能力だ」


自分で思っていた以上にすんなりと、俺はユウキに自分自身の心臓を曝け出した。ユウキは初め、驚いたように目をぱちくりさせていたが、直ぐに俺の意図を察してくれたらしく、口をゆっくりと開いた。


「私の王権の名前は覇王。能力は衝撃波を自由自在に操るって感じかな。――にしても、佐野くんの能力、なんていうか凄すぎない?それってもう無敵なんじゃ――」


「そう思うだろ?――ユウキ、今って王権は使えるかい?」


俺が質問の後、ユウキは首を縦に振った。その後、ユウキが地面に向かって人差し指を向け、第二関節辺りをクイっ、と曲げた。すると、それに応えるようにちょうど彼女が指を指していた辺りの地面は、積もっていた砂が見えない何かに弾かれるように散布し、その部分だけが綺麗にハゲた。


「こんな感じで割と普通に使えるよ。もしかして、佐野くんの能力って普段は使えない感じ?」


「嗚呼、そうなんだ。しかも陥った状況って言っても、今のところゲーム参加者との戦闘中にでしか発動してないからな。その上、かなり限定的な効果だったりするんだ」


だが、決して使えない能力ではない。この能力は強いか弱いかの部類で言ったら間違いなく強い部類には入る筈だ。しかし、手放しで喜べるかと言ったらそれは否だ。実際、俺は能力込みで何度も死にかけたわけだ。


「限定的ね……。例えば、どんな能力だったりするの?」


「触れた物に帰巣本能を与える能力だったり、直近で言ったら剣を盾に、盾を剣に変える能力だったりかな」


ユウキは何とも言えない表情をしていた。無理もない。俺も思ったが、あまりにも能力のチョイスが微妙過ぎる。だがその微妙な能力で何とかやってこれたのだから、やはりこの能力は馬鹿に出来ない。


「逆にユウキの能力は、結構使いやすくて、それでいて強い感じだよな。――ちょっとだけ、羨ましいな」


俺の言葉に、これまたユウキは何とも言えないような表情をした。しかし、今度はその理由が分からず俺は首を傾げた。初めて戦った時、彼女はかなり能力を使いこなしているようであった。正確無比な不可視の攻撃は、土壇場のひらめきが無ければ攻略不可能だっただろう。


「実はね、昨日の戦い以降――、というか昨日の戦い以外で、あれだけの威力が出たことないんだよね」


彼女は苦笑いしながら、弱々しげにそう言った。


「さっきさ、少しだけ能力見せたじゃん?正直、今はあれくらいの力しか出せないんだ。――ごめんね、期待に応えられなくてさ」


申し訳なさげにユウキは謝った。その様子を見て俺は胸が苦しくなり、逆にこっちが申し訳ないくらいだった。


「それくらいのことで謝らなくていいよ。何であの時だけ使いこなせるようになったのか。その理由も気になるけど、逆に言えばきっと練習していけばあれくらい強くなるってことだよ」


出来るだけ優しく、彼女をたしなめるように言葉を選んだつもりだ。だが、己のワードセンスの無さには嫌気がさす一方だ。


「あはは……。お気遣いありがと」


愛想笑いを浮かべて、ユウキはそう言った。気まずい時間が二人の間に流れていた。何とか会話の糸口を探そうと模索したが、今口を開いたら余計なことまで喋ってしまいそうで怖い。


「私さ――」


不意にユウキが口を開いた。まるで先程まで何も無かったかのようなあっけらかんとした口調だったが、それが演技であるのは震える声音と唇からよく伝わった。


「私さ、謝る癖っていうの?そういうのがついちゃっているんだよね。自分でも直さなきゃなってて、最近は大分制御できるようになったんだけど、さっきみたいにやっぱりついつい癖って出ちゃうんだよね。でも、それでもいいのかなーって、なんちゃって」


そう言うと、彼女はあははと笑った。本当なら笑った方がいいのだろう。だが、俺は笑うことをしなかった。きっと今、俺はまるで鯉のようなあほ面をしているのかもしれない。謝ることが彼女の癖のように、まるで心臓を刺されたような鋭い言葉が心に響いた時、俺はそんな顔をしていつまでも引きずってしまう。


ユウキは、言葉の最後に小さく呟いていた。それはきっと俺に聞かせるものではなく、自分に言い聞かせる為に呟いた言葉なのだろう。その言葉が、俺の心に刺さっては抜けなかった。


「――だって、そうでもしないと明日生きれるか分からないもん」

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王様ゲームの始まりです 星宮 司 @TukasaHosimiya

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