第4話「隠蔽工作」

「ふふっ。僕の挑戦を受け入れてくれるなんて、嬉しいな」


突如、背後で響いた声。それを聞いた俺の身体は、考えるより先に反応していた。噂をすれば、そこには黒いパーカーを着た青髪の美少女が手を後ろに組み、やや前屈みになるような体勢で、俺を見上げていた。


「ふふっ。そんなに僕のことを考えてくれているなんて、ちょっとだけ好きになっちゃいそうだな。そう思わない?佐野悠馬さのはるまくん」


「あんた、どうやって俺の事を調べたんだ――」


薄々そんな気はしていたが、やはりレギナは俺達ゲームの参加者について、何処からか情報を仕入れているみたいだ。彼女が言った佐野悠馬という名前は、俺の名前だ。情報源について気になるところもあるが、一体どこまでの情報を握られているのか、危惧するべきはそこだ。


「うーん、そうだな……。前にも言ったけど、僕はちょっとした組織の幹部的な地位の人間なんだ。もう、これ以上言わなくてもわかるよね?」


「なるほど。つまりはその組織から俺達の情報を仕入れていると?」


俺の問いに、レギナは答えようとはしなかった。向こうの情報は一切として分からないのに、此方こちらの情報は洗いざらい調べ挙げられているのは、気分が良いものでは無かった。いや寧ろ、それだけで済んだら良い方だろう。今日の情報社会において、個人の情報というのは交渉という名の恐喝において、絶大な価値を誇るのだ。つまり――


「あんた、その情報で俺達を脅すつもりだろ?確実にゲームに参加させる為に」


「ふふっ。ご名答。流石、僕の愛しの悠馬くんだね」


おどけた口調でいるが、レギナが言っていることはかなり凶悪でえげつない内容だ。その凶悪でえげつないことをいとも容易く行うことが出来る。彼女が所属するという組織は、こんなゲームを行えるくらいだ。俺の想像が及ばないレベルに巨大な組織なのかもしれない。


「にしても、悠馬くん。随分派手にやってくれたね。どうするの?あれ」


レギナは爆発男の残骸を指さしながら、俺に上目遣いで聞いてきた。確かに、こんな異様なモノが街中にあれば騒ぎになってしまうだろう。そう思った俺だったが、ふと気が付いてしまった。いや、もっと早くに気が付くべきだったのかもしれない。俺は可憐な笑みを浮かべる青色の悪魔に、向き直った。


「どうしたんだい?そんな真剣な顔をしてさ。あっ、もしかして愛の告白?そんなぁ。どうしちゃおっかなぁ……」


「ほざいてろ。朝っぱらから殺し合いおっぱじめて、なんで騒ぎの一つも起きやしないんだ?」


よくよく考えればおかしい事なのだ。普通、何度も何度も爆発音が響けば、近隣住民からの苦情や通報があってもいい筈だ。否、寧ろ無い方がずっと不自然だ。それにもかかわらず、苦情や通報どころか、野次馬のひとつも出来てはいないでは無いか。そもそも、最初からその場にいた警察を除いて、あの時爆発男と俺以外の人間が他に居ただろうか。別に、ここは人通りが多いわけではない。だが、だからといって全く人が通らないなんてことは無い筈だ。


「答ええろよ。レギナ」


悪魔は尚も答えようとはしない。ただ、飄々した態度を取り繕っているだけだ。未だコイツは腹の底が知れない危険な奴だ。一体何が目的で、こんな事を始めたというのか。


互いを見つめ合う俺達の間には、無限の時が流れているかのように思えた。だが到頭とうとうを痺れを切らしたのか、それとも単なる気まぐれか。レギナは一瞬真顔になった後、再び口角を上げた可憐な笑みを浮かべて語り出した。


「君を甘く見ていたみたいだね、悠馬くん。まあ、分かりやすく言うならそうだね……。隠蔽工作ってやつかな?詳しい原理は企業秘密だけど、僕達の技術を用いればあら不思議!都合のいい事柄だけを改変できちゃうんだ。いやぁ文明の利器はすごいねぇ」


レギナが言ったことが真実なら、冗談抜きで恐ろしすぎる技術だ。彼女がその気になれば、この場にいる俺の存在は消されるやもしれないということだ。情報という名の武器に加え、更に事象改変というチートすぎる技術。お前達に抗う術は無い言わんばかりの、最強布陣では無いか。


「お互いに、王権とこのゲームのことが表沙汰になったらマズイからね。だから、こいつも――」


レギナがそう言うと、爆発男の残骸は、まるで塵と化すようにみるみる内に消えていった。


火縄轟李ひなわごうり。都内の企業で働く真面目なサラリーマン、だった人だね。既に能力で15人の人間を殺めている凶悪犯さ。怖いねぇ……。まあ尤も、その存在は既にこの世界から消えて無くなったんだけどね。まあ、凶悪犯には消えてもらわなきゃね。世界平和大事。うんうん」


レギナは一見おどけた口調で、だがどこか淡々とした様子で述べた。まるでそれがさも当然かのように。確かに、火縄と呼ばれた爆発男は、大勢の人間を殺めたのは変わりない事実だ。だが――


「ふざけるな。それをお前が、いやお前らがいう権利なんてある訳ないだろ。その火縄も、言ってみればお前らの被害者じゃないか!」


余りに冒涜的なその台詞に、気が付けば俺の怒りの言葉を述べていた。そんな俺の様子を見て、レギナは明らかに不機嫌そうな表情を浮かべたかと思えば、思いっきり舌打ちをした。その態度に俺が何も言えずにいると、彼女は俺との距離を詰めて、睨みつけるようにこっちを見つめた。


「ハッ!正義の味方のつもり?アイツも君も、1人殺した時点で同類なんだよね。つ、ま、り、あなた達にも僕達のことをとやかく言う権利はありませーん!それとも、自分が犯した罪を裁い欲しいのかな?いいよ。僕達がその気になれば、君だけじゃなく、君の家族や友人のありとあらゆる情報を全世界に発信することが出来るんだ。ね?分かったら、口の利き方には気を付けようね?悠馬くん」


レギナは俺の目と鼻の先まで接近し、自分勝手に己の主張を述べた。それは、既に犯した罪を開き直っている犯罪者のそれだった。その犯罪者が述べた内容は要するに、自分と身の回りの人間の安全が惜しかったら、自分達のやることに文句を付けるなということだ。どこまでも身勝手で、その身勝手が通用してしまう恐ろしい連中だ。


「まあでも、僕は悠馬くんを特別扱いするつもりだから、多少のワガママは見過ごしてあげるね。ふふっ。じゃ、僕はそろそろ行かないといけないから、悠馬くんも学校遅れないようにね?じゃ、バイバイ」


レギナがそう言った瞬間、不意に突風が巻き起こり、俺は思わず目を瞑った。そして、瞳を開けた時には、既にその姿は見えなくなっていた。


「いいさ。今のうちに好き勝手やっていろよ。最後には俺が、全部終わらせてやるよ」


俺なんかでは遥かに及ばないのはわかっている。故に、このゲームにおける俺の最初の目的は――


「賢い王は、支配よりも共闘を選ぶんだ」

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