第46話ネル・タクヤ

「ふぁ〜」


ムニャムニャ

俺はあくびをしながら、ゆっくりと目を開ける。

「…あれ…?俺…」


何してたっけ?


俺は寝起きでぼやける視界を整えながら、ゆっくりと上半身を起こす。

確か飯食って…それで…。


「ふっ」


倒れる前の記憶を取り戻した俺は、その理由に少し恥ずかしくなり、自分で笑う。


ここは…俺の部屋か。


俺はようやく覚醒し始めた意識を、自分の居る部屋に向ける。

木の枠で出来ている俺の部屋の窓からは、もう昼間のような光は入って来ておらず、白く微光な月明かりだけが入ってきていた。


結構寝てたんだな…。


フィスばぁの修行のこともあり、今日は疲れていたのだろう。

俺はとりあえず今の状態を理解して、もう一度布団を被り、寝ようとする。

すると。


ガチャ


扉の開く音と共に、薄く白い生地のシャツを着たネルが現れた。

淡い月光がネルの白いシャツを照らし、よりシャツの白色を艶めかしく映えさせていた。


おぉ。

ネルは何を着ても似合うな。


俺はそう思いながらも、ちょっと薄着すぎて目のやり場に困るので、ネルからにわかに目をそらす。

するとネルが。


「あ!起きたんだね!大丈夫?クラクラしない?」


上半身を起こしこちらを見ている俺に気がついたのか、ネルは俺が寝ているベットの横に来て、心配そうに言ってくる。


「大丈夫だよ。そんなに心配すんなって」


俺はそう言って苦笑しながら、ネルの頭を撫でる。

頭を撫でてやると、いつものように喉を鳴らしながら「ふふふっ」と笑うネル。


かわいい。


「ネル、どうしたんだ?もう外も暗いしミトも寝てるだろ、ネルは寝なくていいのか?」

俺がネルの頭から手をどかしながら言うと。


「あ…その…」

と言って、両手を足の間に挟み、モジモジと体を揺らすネル。

そして、弱い月明かりでは分かりずらいが、ネルの顔はなぜか赤くなっていた。


「?」


なんだ?

もしかしてギルドに行く時に言ってた、「一緒に寝よう?」か?!

マジか?!ほんとにそうなのか?!?!


俺は心の中の歓喜の叫びを押し殺し、心の中で羽目を外している事を悟られないように、落ち着いた口調でネルに言う。


「どうした」


「その…ギルドに行く途中で私が言ったこと…覚えてる…?」


「いや…なんだっけ?」(←本当は覚えてる)

俺の言葉を聞いた途端、より一層顔を赤らめて…!


「一緒に寝よう…?」


…。


ハイキターーーー!!!!

やって来ましたモテ期!ついに俺にもモテ期がやっって来ちゃいましたーーー!!


「…もちろんいいよ」


俺は顔を赤らめるネルに優しく言う。

というか、宿屋の混浴の時にお互いの裸を見ているのに、なぜネルは今更照れているのだろうか。


ハツ…!

何かにきずく。

そうか分かったぞ……!!

男とあろう物がこんな事にもきずかないとは…!

男として不甲斐なし!!

ふっ…思えばヒントはいくらでも散りばめられていた…。

いくら夏と言えども【夜】に異常なほどの薄着!

そして互いの裸を見る時よりも赤くなっている顔!

これは正しく………………夜這いだ!! (←最低)


俺がタメたっぷりに思うと。

ガサッ

掛け布団をどかし、ネルは片足からベットに入ってくる。

俺はネルに場所を譲る様に、ベットの端に移ろうとする。

と、裾がクイッと引っ張られた。

そして…。


「もうちょっと…引っ付こ…………?」


なっ?!

ななななななななななななななな……

ヤバい、心臓がバクバクだ。

態度では平常心を装ってはいるがこんなに心臓がやかましいと、俺が変に緊張しているのがばれてしまう!

俺がそんな心配をしていると。

フワッ

「っっ!」

ネルが俺の背中に、抱きついてきた。

腕を俺の首元で繋ぎ、優しく、それでいて強く、抱きしめてくるネル。そして2つの球体が俺の背中にあたる。

その感触を背中全体で感じた俺の心臓は…。

バクバクバクバク!

もう断ち切れる寸前だった。


「ね、ネルさん……?」


俺は震える声で言う。

するとネルは、俺の背後を抱いたまま。


「タクヤ…私ね…好きな人が居るんだ」

と、言った。


「…え?」

は?

ちょっと待って。

好きな人?

それって俺じゃないの?!

ただの恋愛相談なの?!

俺がそう勝手な発想を巡らせ、うろたえていると。

ネルが言葉を続ける。


「その人はね、優しくて、いいの匂いがして、誰よりも私の事を考えてくれる。」

お!

これは俺かな?!

俺だよな!!

俺が1番ネルの事を想ってるぞ!


「…それでいて私より強くて、誰よりも周りを見てる」

あれ?

私より強い?

まずいな…だんだん俺の線が薄くなって行く…。

俺はもうネルが誰のことを言っているのか分からなくなり、喜びもせず悲しみもせず、ただただ真剣な顔で、ネルの綺麗な腕を見つめていた。

そして…。


「タクヤ…私ね…」

ネルが俺の耳元で、囁く様に言う。

ネルの息をする音が凄く大きく聞こえる。

ネルの呼吸は気のせいか早く、熱い吐息を含んでいた。

そしてネルの唇が、俺の右耳にピトっと触れる。

「つっっ!」

バクバクバクバクバクバクバクバクバク!

血圧がオーバーヒートしそうになる俺に、

ネルがボソッと、こう呟いた。



「…タクヤの子供が欲しい」



…。

「な?!?!」

俺はネルの言葉に1テンポ遅れで、驚きの上げながら、後ろに居るネルの方をむく。

すると、


「ちょ…何を……………………っっん!!」


俺が振り向こうと顔をネルに向けた途端、ネルがキスをしてきた。

チュッ

俺の唇からゆっくりと自分の唇を離し、ペロッと自分の唇を湿らしたあと…。

「タクヤ…私じゃ…ダメかな…………?」

そう、優しいような、何かを訴えかけているような、そんななんとも言えない力が抜けた様な顔をしながら言った。


「…」


その言葉を聞いた俺は、ゆっくりとネルの体をベットに倒す。


「あ……」


「…」


「タクヤ…」


ネルの上に覆い被さる様に手を付き、ネルの手と俺の手を、最大限に絡める。

そしてネルのかわいい顔に、お互いの吐息が感じられる距離まで近ずき…。




「大好き…」




そう言ってキスをした。

ーー



…そしてその夜、俺とネルは繋がった。


それは思ったより濃密で、豊潤な一時だった。



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