第42話救世主はいつでもどこでもやってくる

「あっちょっと待ってーーキャッ!」

ズドーン

なんだ?

俺は立ち去ろうとする足を止め、音がした方向を見る。

するとそこには、あのドジな宿屋の受付の女の人が居た。

「えっ…」

俺は驚いたように声を上げる。

するとその受付の女の人が、転んだ事を曖昧にするようにズバッと素早く立ち、俺に。

「その人達は特別だから、嘘じゃないと思うよ」といった。

なんだ?弁護してくれるのか?

俺は期待まじりの目で、受付の女の人を見る。

せっかくゴブリンを沢山倒したのだ。

報酬が出るまでは諦めないぞ!

俺は先程諦めようとしていたことを忘れたかのように、強く決心する。

それに少々強引でも、あの受付の人ならどうにかなるかもしれない。(←失礼)

「っ!ですが石が…!」

受付の人はなおも、俺達を嘘つき扱いする。

俺らの無実が証明出来たら、受付の人には周りが引くほど土下座をしてもらおう。

そう俺は心で決心して、宿屋の受付の女の人

の弁論に期待する。

「確かにこの人達はゴブリンを【10匹】は倒してないのかもしれないけど…」

あれ?

思ってたのと違うぞ。

「10匹以上を倒したんじゃない?」

「ふぅ〜」

良かった。

一瞬裏切られたのかと思った。

なるほどそういう事か。

嘘を見抜く石ね…。

この石が俺に嘘の判定をしたのは、俺らが10匹以上を倒してしまったからだ。

10匹以上倒したら、それはもう10匹では無くなる。

だから石が光ったんだな。

俺は石のシステムを理解して、なるほどなるほどと頷く。

というか。

こんな初歩的な間違いはやめて欲しい。

この石のシステムを知っている熟練の冒険者ならまだしも、初心者の俺達になんの説明も無しとは。

さすがにやばいのではなかろうか。

俺はそんな事を考えながら、石に右手を乗せて宣言する。

「俺達は、ゴブリンを10匹以上倒しました」

すると石は、光らなかった。

「なっ…っっ!」

受付の人は悔しそうに、「すみませんでした」と頭を下げた。


ーー「痛って!そこ気をつけて!優しく優しく!!」

俺は今、ギルドのテーブルに受付の女の人と座ろうとしていた。

テーブルの下に、俺の痛くて動かない足を無理やり入れる。

「全くうるさいのぅ〜」

「大丈夫?」

ミトとは違い、ネルは心配したように俺を支えてくれる。

「おぉネルはミトと違って優しいな」

俺がミトを横目で見ながら言うと…。

バシッ

「痛った!!お前…マジ……」

叩かれた。

 

「先程はすみませんでした。実はあの子新人でして…」

俺は苦笑しながら

新人であれ程の圧を出せるのか…怖いな…。

と、ようやく入った足を擦りながら思う。

ちなみに、どうして受付の女の人がいるかと言うと、あの後。


「あの…少しお話できませんか?」と、受付を去ろうとする俺達に言ってきたからである。

「なんでですか?」

と、俺が問うと。

「理由と言えるのか分かりませんが…。皆さんみたいな強いパーティーを見るのが初めてなので…少し興味が湧いただけです。」

と、答えた。

なんで俺達が強いと思ったのだろう。

それに弁護してくれた時も「その人達は特別だから」とかなんとか言っていた気がする。

そこら辺の事も気になったので、俺は受付の女の人と話す事にした。

で、今に至る。


「あの…ありがとうございます。」

俺は弁論してくれた宿屋の受付の人に礼を言う。

「いえいえ!こちらこそすみませんでした!」

受付の女の人が申し訳なさそうに、ペコペコと頭を下げる。

あはは…謝り方からもなんかポンコツ感が漂ってくるな…。

と、心の中で苦笑する。

というか。

「あの…つかぬ事をお聞きしますが、宿屋の受付の方は良いんですか?」

俺が思っていた事を聞くと、受付の女の人は「あ〜」と言いながら、「アッチはアルバイトでやってるだけなので…。こちらが本職です。」

と、照れたように言った。

あ〜なるへそ。

そういう事か。

それなら俺達が珍しい職業って事も知ってたんだな。

あらかた思っていた疑問を解決出来た俺は、左腕に引っ付いているネルの頭を撫でながら、「あの、俺らキメラも倒したんですが…追加報酬とか貰えたりしますか?」

俺はネルを拐った、スライムと人間のキメラ達の事を思い出す。

「えっ?ランクBのキメラを倒したんですか?!」

受付の女の人が、驚いた様に声を上げる。

そんなに凄い事なのだろうか。

「えっ…そんなに凄い事なんですか?」

「いや、そりゃそうですよ!ランクCのパーティーがランクBのキメラを倒すなんて、有り得ませんよ!」

と、机にバンッと手を付き、前かがみになりながら俺に顔を近づけて言う。

フワッ

「…っ!」

俺は一瞬、受付の女の人の良い香りが来て、ドキッとする。

「そ…そうなんですか…」

と、俺がうろたえたように言うと、俺の右側に座っているミトに脇腹を小突かれる。

「ん?」

と言って俺がミトの方を見ると、ムッとした顔をしたミトが居た。

「? どうした?」

俺が聞くと、プイッと目を逸らし「なんでもない…」と、顔を赤くしながら言った。

「?」

なんだろう。

思春期か?

俺がそんな事を思っていると、「ではあの…すみませんが、もう一度あの石に触れていただけませんか?決して疑っている訳では無いのですが、追加報酬となるとある程度の証明が必要なので…」と、受付の女の人が申し訳なさそうに言う。

俺は、「もちろん良いですよ」と言って、了承する。

そしてこう付け足す。

「あの…追加報酬のついでに新しいメンバーをパーティーに入れる手続きをしたいのですが」

その俺の言葉を聞いたネルは、「あそっか…まだミトは一緒のパーティーじゃなかったんだね」という。

そしてそのネルの言葉を聞いたミトは…!

「なんじゃそれはめんどくさい事なのか?」

あまり驚いてはいなかった。

俺としては正直、ミトをびっくりさせるつもりで言ったのだが、どうやら的外れだったらしい。

俺は気を取り直して、受付の女の人に視線を戻す。

「もちろん出来ますよ。あと皆さんがキメラを倒した事が証明できた場合、皆さんのパーティーはランクBとなりますので、パーティーに名前を付けることが出来ます」

ほぅ〜名前ねぇ。

「どうするよ」

俺が左右に居るネルとミトに問う。

するとネルは、人差し指を唇に当てて、「ん〜タクヤが決めた名前なら何でもいいかな」と、笑顔で言った。

そしてミトは、「私も何でもよいぞ」と短く答える。

あはは…

要するに丸投げって事か。

俺は苦笑いしながら、受付の女の人にこう言った。

「じゃあパーティーの名前は【ハンタース】でお願いします!」

「なんじゃ?ハンタースとは」

「狩人達って意味だ!」

俺は得意げに言う。

なぜハンタースという名前にしたかと言うと、俺が前世で読んでいた漫画に出てきたからである。

(↑要するにパクリ)

「分かりました。ハンタースですね。登録しておきます。」

「ありがとうございます!」

まさか本当に実現できるとはな…。

俺は前世で漫画やアニメの異世界ファンタジーが大好きだったので、こうして自分のパーティーが作れて、そしてそれに名前まで付けれるなんて、夢のようだった。

「タクヤ幸せそうな顔してるね!」

左腕にくっ付いているネルが、俺の顔を見ながら笑顔で言う。

「そうだな。俺は今幸せだ!」

俺は心の底からそう思った。

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