第二部二章『未練探し』2-1


 最寄りの駅から少し離れたところにある繁華街。

 夏休みということもあってか、平日にもかかわらず多くの人で賑わっている。


 見渡せば、大学生や高校生らしきグループがウェイウェイwwwと喧しくウェーイwwwしていた。うるせぇな。


【あんたって陰キャっぽいものね。したくても出来ないから僻んでいるんでしょ?】


 むしろ、陽キャなゾンビが居てたまるか。

 こっちは日陰に居ないと腐っちまうんだよ。

 つーか、四居よつい。お前はどうなんだよ?


【んー。なんか、四居って呼ばれるのは違和感があるわね…… 美恋みれんでいいわよ。私も一斗いちとって呼ぶから。まあ、私は一斗と違って、陽キャだったに違いないわね】


 そういや、お前記憶無いんだったな。結局、ただの想像じゃねぇか。現実を知った時、辛くなるだけだぞ。


【記憶なんて無くたって魂で分かるわよ。この性格で陰キャなわけないでしょ?】


 はっ、どーだかな。

 ……っと、こんな生産性の無い会話をしてる場合じゃなかったな。

 さっさと、こいつの未練とやらを探してやるとしますか。

 俺は隣を並んで歩く加子かこに視線を向けた。


「こうして二人きりで遊びに行くのは久しぶりですね! さ、行きましょう!」


 と、加子は俺の腕を抱きしめるようにして引っ張っていく。

 むぎゅうと柔らかな感触が伝わってきた。とても良き感触だ。

 あ、ちなみに白華は用事があるからということで、今日は不参加だ。また後日に協力してくれるらしい。


「って、今日は遊びに来たわけじゃねぇだろ」

「まあまあ。いいじゃないですか。遊びを兼ねていると思えば、その方がお得感ありますし」

「……ま、それもそうか」


 特に反論意見はねぇな。こやつ、俺の扱いが上手くなってやがる。


【陰キャっぽいけど、やってることはリア充なのよね。ムカつくわ。なんで、こんな捻くれた性格しているのにモテるのかしら……?】


 まったくだな。俺自身が一番驚いてるよ。

 まあ、色々とあったからなぁ…… プロポーズまでする羽目になったし。


「さてさて、どこに行きましょうか? あ、式場の下見とかします?」


 こ、こいつ俺の心が読めるのか……!?

 さすが伊達にソウルメイトやってねぇな。


「い、行かねぇよ……」

「えー。一斗くん、プロポーズまでしてくれたじゃないですかー? ふふ、ウエディングドレス楽しみにしてますからねー」


 にやにやと俺を見やる加子。俺は全力で視線を逸らした。


「美恋の心残りとは無関係だろーが」

「それは分かりませんよ? 『俺このデスゲームが終わったら、結婚するんだ』って、死亡フラグ立てて死んだ可能性だってあります」

「もしそうだったら、未練の解消は無理ゲーだな……」

「あはは、そうですね。でも、ここまでノーヒントだと難しいものですよね。何か手掛かりとかないんですか?」


 手掛かりかぁ…… んなこと言われてもな。

 美恋、どうなんだ?


【まったく無いわね。とりあえず、その辺をうろついて視界に色々と収めてちょうだい。もしかしたら、何か惹かれるものが出てくるかもしれないわ】


 ああ、やっぱノーヒントなのね。前途多難だな。


「手掛かりはなしだ。とりあえず、街中を歩き回って色んなものを見ろとさ」

「うーん、これは大変そうですね……」


 ということで、とりあえず街中をふらふらと探索することに。

 時折、加子のワガママで買い食いなどの寄り道を挟みつつ、繁華街を練り歩く。


 俺が「そんなに食ったら太るぞ?」と嫌味を言ってみれば、「貰い手は既に居るので大丈夫ですっ!」と巧みな返事で返してくる加子だった。恐ろしい子……


 んで、それから数分後のこと。

 意外なことに、心残りのヒントは拍子抜けするくらいあっさり見つかるのだった。

 だが……


「本当に? 本当にここが未練と関係するのか……?」

「……これ、一斗くんが行きたいだけなんじゃ……」

「いや違ぇからな。ホントに美恋がここだって言ってるんだよ」


 俺と加子の視界の先にある建物。

 それこそが美恋の心残りと関係する何かであるらしいのだが。


「いらっしゃいませ~! ぴょんぴょん!」


 ば、バニー喫茶……?

 要するにまあ、メイドカフェのバニーガール版のようなものだった。

 目の前ではバニースーツを着た際どい露出のお姉さんが呼び込みをしている。


【間違いないわ! ここから何か惹かれるものを感じるわ!】


 ま、マジなのか? 単にお前の趣味の話じゃねぇだろうな。


【不思議ね。でも、本当に未練に関する何かを感じるのよ】


 マジだったかぁ……

 なら、行くしかねぇんだけど、こういう店入ったことないから緊張するな。


「ま、ここで立ち往生してても仕方ねぇし、とりあえず入ってみるか」

「うわー。一斗くん、やらしー」


 加子がにやにやしながら俺の顔を覗いてきやがる。


「う、うるせぇな。加子はどうするんだよ? その辺で待っていてもいいけど……?」

「いえ、私も行きます。バニーガールさん可愛いので。うへへ」

「どの口が俺にやらしいなんて言いやがったんだか……」


 結局、加子の可愛い物好きも平常運転だったようだ。

 何はともあれ、俺たちはバニー喫茶とやらに足を踏み入れることに。


   ◇


 ほーん。なるほど、こういうことか。

 要するに、いわゆるコンセプトカフェというやつだ。


 店内にはバニーガールばかりが居るのかと思いきや、意外とスーツ姿の男性店員もちらほらと見受けられる。


 そして他に目立つのは、ポーカーで使われるようなマットが敷かれたテーブル。

 つまり、ここはカジノをイメージしたカフェということだった。


 確か、『迷宮』も闇カジノから発展したデスゲームなのだと、前に話した占いババアが言ってきた気がする。

 そう考えれば、未練と何かしらの繋がりが感じられても不自然じゃないか。


【やっぱり、思った通りね。もしかしたら、私はデスゲームでやり残したことがあるということかしら】


 まあ、普通に考えたらそうだろうな。

 とりあえず、ここに居ればもう少し心残りが絞り込めるかもしれねぇな。しょっぱなから期待大だ。


「おー、意外と面白そうな場所ですね! バニーの衣装も可愛いですし! えへへー」

「ああ、そうだな……」


 加子は店内のちょっとセクシーなバニーガールにばかり気を取られている様子だった。

 すっかり店の雰囲気に流されてウキウキとご満悦のようだ。

 すると、俺たちを案内してくれた店員さんが店の説明をしてくれた。


「いらっしゃいませ。当店では、ドリンクや軽食の他に、簡単なゲームもご提供しています。メニューに記載されていますので、やりたいゲームやご注文があったらお声掛けください」


 と、一礼してからバニーガールの店員さんがテーブルを離れる。

 思えば、『迷宮』の高レートデスゲームをやった際も、ディーラーは女性のバニーガールだったっけなぁ。やたらと元気な巨乳の人だったのを覚えている。


【いやらしい。デスゲームのディーラーに下心なんて出してんじゃないわよ】


 そういう記憶があるってだけだっつーの。

 そんなことより、他に何か感じることはねぇのか?


【そうね……、今は特に。何かあったら声を掛けるわ】


 おう、りょーかいだ。

 だったら、今は加子との時間を素直に楽しむとしよう。


「俺はコーラフロートにするか。加子はどうする?」


 俺は真横に座る加子に問うた。

 ちなみに、テーブル正面はゲームの相手をしてくれるディーラーが座るらしいので空けてある。この店の方針らしい。


「うーん…… あ、私はこのドクペフロートで!」

「そ、そんなんあるのか……」


 美味いのか、それ……? という顔をしていると、加子が話を続ける。


「これの味、気になりますよね? もちろん、一斗くんにも一口あげますからね!」

「うん。普通に要らない」

「ええー、私と間接キスですよ? 青春の味ですよ?」

「それでも要らない」


 ドクペの味がする青春とか、なんか微妙に嫌だろ。昔のラノベか。


「じゃあ、私も普通のやつにします。このアイスティーで」

「急に普通過ぎる注文だな…… まあいいや。すみませーん!」


 と、バニー店員を呼び出して、俺は二人分の注文を済ませる。

 そして、ドリンクが来るまで、無駄話を交えつつメニュー表にあるゲーム一覧を眺めることにした。


「どうせですから、何かやっていきたいですよねー」

「まあ、そうだな。……一回五〇〇円でゲームに挑戦。勝てれば特別サービスを受けられます、か」

「とりあえず、簡単なじゃんけんゲームとかどうですか?」

「見るからにシンプル過ぎる内容だな…… まあいいか。ククク、この店のレベルを試してやろう」

【どの目線で言ってるのよ。ったく……】


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