五章『決戦』5-1
「はぁ……、酷い目に合ったな」
【まったくですね……】
ゾンビらしからぬ怪我――いやゾンビらしいズタボロの身体で、俺は三年一組の教室に辿り着いた。まあ、直ぐ治るんだろうけど。
扉の前に立ち、乱雑にそれを開け放つ。
「無事か、
見ると、そこには異様な景色が広がっていた。
数時間前のゲーム開始時点とは異なり、机は教室の端へ集められ、中央に広い空間が。
さらに教室後方にはロープで拘束されて床に座るプレイヤーが……、五人。その中には白華の姿もあった。また、床に座る白華以外のプレイヤーは、声が出せないように口元をロープで縛られている様子だった。
「
声を上げる白華。顔に正気がある。良かった。見たところ、まだ無事のようだった。
しかし、問題なのは……
「意外と遅かったですね。というか、何でまた、そんなボロボロなんですか?」
椅子に座り、ハンドガンを弄ぶクソネズミ。
まるで自分が王だとでもいうような尊大な佇まい。プレイヤーたちは、こいつにしてやられたのだろうということは見て取れた。
「これは気にするな。ここに来る途中で、通り魔に襲われてな。お陰で俺も“死者”になっちまった」
「このガキ、ここに居ない最後のプレイヤーに襲われたのか」
「本当ですかね? こっちを油断させる罠かも」
俺の言葉にリアクションを返したのは、オッサンと丸眼鏡だった。拘束したプレイヤーを見張るようにして立っている。
この場に居るプレイヤーは俺を含めて九人。
さっきの通り魔を除けば、全員がこの場所に集結しているようだった。
「つーか、あんたら二人は“死者”だよな。どうして、クソネズミに協力してるんだよ?」
俺が問うと、オッサンと丸眼鏡が口を開く。
「分かるだろう? 賞金を得るためだ。初めは協力しようなんて言ったけど、本心じゃない」
「私も賞金の為です。クソネズミさんは“ゾンビ”だって、知ってますよね? 協力すれば、“ゾンビ陣営”としてゲームに復帰させてくれるって約束したんですよ」
「は? 何だって?」
クソネズミが“ゾンビ”だって? そんなわけ無いだろ。だって、“ゾンビ”は白華と俺だけだ。クソネズミが“ゾンビ陣営”になれるタイミングなんて無いはずだ。
「ああ、それね。僕が“ゾンビ”っていうのは嘘なんだ」
「はあっ!?」
「え、そんな!?」
あっけらかんというクソネズミの言葉に、オッサンと丸眼鏡が驚きの声を上げた。
「じゃ、じゃあ、“ゾンビ”として復活させてあげた二人が、クソネズミくんを裏切ったっていう話は……」
「うん、嘘」
「だったら、黒板に書いてあったクソネズミさんが“ゾンビ”だっていう情報は?」
「それは知らないな。彼に聞いてみたら?」
そう言って俺を指さすクソネズミ。
あ、それは知ってるわ。だって、それ俺たちが書いて回ったデマだもん。
【見事に利用されてますね】
こ、この野郎、俺たちが書いた誤情報を利用しやがって。許さん。
「もちろん、キミたちが“ゾンビ”だと情報を流したのは僕だけど、僕が“ゾンビ”だという嘘の自作自演には覚えが無いね」
「ちっ、ここまで読んでやがったのか……!」
「キミからは僕と同じクズの匂いがしたかからね。考えは手に取るように分かるよ」
誰と誰が同じクズだ。一緒にするんじゃねぇ。俺は捻くれているだけだ!
【似たようなものですよ】
などと、冷静な解説が――横やりが入るが今は無視だ。
とにかく、白華を無事に助け出す隙を探らなくては……
「ちょっと、話が違うじゃないか、クソネズミくん。俺たちを“ゾンビ”として復活させてくれる約束だったじゃないか」
「ああ、それは本当のことですよ。状況を見てください」
「じょ、状況……?」
問い詰めるオッサンが首を傾げて、周囲を見やった。
そして、クソネズミが説明を続ける。
「こっちには“ゾンビ”のお姫様が居るんです。そこの邪魔者を排除してから、彼女には僕たちを“ゾンビ陣営”にしてもらう。その後、彼女を撃って“死者”とする。そうすれば、まだ“人間陣営”のプレイヤーは一人残っているようですが、タイムリミットが来れば“ゾンビ陣営”の勝ちです」
「そうか。それなら、生きている“人間”プレイヤーが残っていても、賞金は“ゾンビ陣営”の俺たちで山分けできる」
「そういうことです」
協力者を騙しながらも、結果的には望む状況が完成する、ってことだったのか。
それに、まだ白華が無事で居たことも辻褄が合う。白華の意思が無ければ、こいつらを“ゾンビ陣営”にすることも無いからだ。
「おい、クソネズミ。とにかく、そいつを解放してもらいたいんだが?」
俺が言葉を投げると、クソネズミは余裕を崩さず返事をしてきた。
「そう焦らないでくださいよ。まずは確認です。キミは今“死者”ということでしたが、本当のことでしょうか?」
「本当だ。俺は“ゾンビ”じゃないから、お前らを“ゾンビ陣営”にすることは不可能だ」
「そうですか。では、失礼して」
直後、身体に鈍い衝撃が走った。
何度も経験したことだ。原因は直ぐに分かった。
「あはははっ、顔色一つ変えないなんて。ホントに無痛症みたいですね」
嗤いながらハンドガンを構えるクソネズミ。
嬉々として銃口を俺に向けていやがった。
そう。この衝撃は、ゴム弾を撃ちこまれた時の感覚だ。自分の身体を見ると、胸の上あたりにめり込んだ弾丸が確認できた。
「これでワン公くんが嘘を言っていようと何だろうと、“死者”の状態であることには間違いないですね」
「そうだな。で、これからどうするんだ?」
「こっちには“ゾンビ”のお姫様が居るって言ったでしょう? 彼女に、僕たちを“ゾンビ陣営”にしてもらうんですよ。生憎、僕たちはその方法を知りませんけどね。まさか、本当に噛みつくなんてことじゃあるまいし」
そうか。こいつらは“ゾンビ”が陣営を増やす方法を知らないのか。
まあ、ホントに噛みつくんだけど……
いやでも、白華が俺以外に噛みつくとか何か嫌だな。特にオッサン相手とか。うん。絶対にさせてやるものか……ッ! やはり白華は俺が守らねば。
でも、
「そもそも白華が、お前らを“ゾンビ陣営”にするわけがないだろ。お前らが“ゾンビ陣営”になれば、用済みの白華は撃たれて“死者”になるんだから」
「彼女の意思で、僕たちを“ゾンビ”にすることは無いと? さて、どうでしょうか?」
不敵に笑うクソネズミは、小太りのオッサンを見て、指でくいくいとサインを送る。
指示を受けたオッサンは、俺の目の前までやって来た。
そして、
「うぉらっ!!!!」
その無駄に質量を乗せた剛腕で、俺の頭を殴り飛ばしてきた。
「――っ!?」
衝撃で身体がぐらつく。
しかし当然、痛みは無い。傷だって直ぐに再生が始まることだろう。
「一斗ッ!?」
白華の声が聞こえた。
「大丈夫だ、心配するな。知っての通り、どれだけ殴られても俺は痛くない」
【ふぅ。ゾンビの身体で助かりましたね】
ま、加子の言う通りだな。こんなこと、まったくもって何の問題も無い。せいぜい服が傷むくらいだ。
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