二章『この辺からラブコメするから。いやマジで』2-5


「あんた、マジでゾンビなの?」

「ああ。残念ながら大マジのマジだ。俺も冗談であってほしかったけどな」

「そっか。あんたも大変なんだね。まあ、まだ私は半信半疑だけど」

「今はそれでもいいよ。理解しろっていう方が無理な話だ」


 不良ギャルは訝しそうに俺を見つめていたが、ぷいっと視線を逸らし、小声で言葉を続ける。


「とにかく、ありがと。鬼から助けてくれて……」


 と、照れた様子でごにょごにょと口にするのだった。


【か、可愛い! 見た目とのギャップが凄いですぅ! 好きぃ!】


 加子ちゃんも俺の中で大喜びである。気持ちはとても分るが。


「気にしなくていいよ、俺が勝手にやったことだし」

「でも、恩を借りっぱなしにするっていうのは……」


 そう言って、小さく唸り視線を下げた。


「あ、そうだ。だったら、このデスゲームのルールを教えてくれないか? 実は、飛び入り参加の身でさ、ルールも知らずに参加させられてんだよ」

「え、そんな無謀なことしてんの? マジで死ぬんじゃない?」

「死なねぇよ。俺ゾンビだからな。いや、もう死んでるのか」

「そ、そうだったね。……そっか、だからこんなデスゲームなんかに挑んでるんだ」


 何となくゾンビ事情を察してくれた様子。察しの良いやつは嫌いじゃない。

 ということで、不良ギャル先生からデスゲームのルール講座を開いてもらうことに。


「鬼から一〇〇分間逃げ切る。ルールはこれだけ」

「え、それだけ?」

「そう、これだけ」

「ネームプレートのアルファベットとかは?」

「なにそれ?」


 怪訝そうに睨まれた。あのクソネズミめ、とんでもない嘘っぱちを教えやがって。

 しかしまあ、ものは考えようだ。

 それだけのルールであれば、ゾンビの俺なら圧倒的に有利。生け捕りさえ回避すりゃいいだけだからな。


【分かってると思いますけど、ここで協力を申し込むんですよ? はい、ありがとうで終わったら意味ないですからね】


 それはそうだな。分かってるよ。


「とりあえず、ルールは分かった。ありがとな。ところで、ゲーム終了まで一時間近くある。そこで、俺たち二人で協力しながらゲームを進めないか?」

「協力……?」


 こてん、と首を傾げる不良ギャル。


「俺はこの通り、ゾンビの身体だから、鬼に殺されることはない。役に立てると思うぞ。少なくとも不死身の盾にはなれるし」

「それはそうだろうけど…… 私は何も出来ないただの女子高生だし、あんたにメリットは無いんじゃないの?」


 む、確かに。どうやって言いくるめたものか。


【ふっふっふ、私にお任せください!】

「私――じゃなかった。俺は信頼できない相手には、出来るだけゾンビだと知られたくないんです。だから、不良ギャルさんには、俺がゾンビだとばれないようにフォローしてほしいのです」

「なるほど」


 なるほど。その手があったか。

 しかも、遠回しに不良ギャルは信頼していると伝えることも出来る。相手も嫌な気はしないだろう。これは好感度アップ間違いなしだ。


【えっへん、です】


 得意気に胸を張る加子。しかし、魂で胸を張られても俺には見えないのだが。


「まあとにかく、お互いに協力できる点はあると思うんだけど、どうだ?」

「分かった。私からも協力をお願いするよ」

「っしゃ! ありがとな、不良ギャルさん!」


 ぐっと握りこぶしを作る俺。へへ、これで美少女と一緒に行動できるぜ!


「でも、その不良ギャルってのはヤダな。私は三國白華みくにはっか。白華でいいから」

「ああ。俺の名前は犬丸一斗だ。俺も一斗で頼む。よろしくな、白華」

「うん、よろしく一斗」


 お互いに右手を指し出して握手を交わす。女の子の柔肌が心地いい。こんな出会いがあるのなら、デスゲームも捨てたもんじゃねぇな。


「で、これからどうするの?」


 白華が問うた。


「そうだな。とりあえず、籠城作戦で時間を潰すか。さっきまで俺は、客室に隠れてたんだけど、鬼と出くわすことは無かったし」

「そうなの? なら、それで暫く時間を潰そっか」


 ということで、俺たちは客室へと向かって歩き出した。

 途中、雑談でもしようかと話しかけたのだが、白華には『ねえ、緊張感ないんじゃないの?』と叱られる羽目になった。好感度を稼ぐのも簡単じゃないらしい。


「! 鬼の足音がする……」


 不意に、白華がしーっと口元に指を当ててきた。可愛い。


『……、……』


 言われてみれば、確かに音がする。あの巨体の足音で間違いないだろう。鬼が全員巨体なのかは知らないが。


「一斗、どうする?」

「客室に隠れよう。こっそり隠れてやり過ごそう」


 ということで、俺たちは足音を殺しながら客室に侵入した。さっきと同じ部屋だ。


「扉、どうする?」

「開けたままでいい。ここだけ閉まってたら、鬼に居場所を教えるようなもんだからな」

「そ、そうだね。分かった」


 この部屋で隠れて、鬼が通り過ぎるのを待つとしよう。問題はどこに身を潜めるか、だが……


「ベッドの下に隠れよう。白華、先に入ってくれ」

「まあ、そこくらいしかないよね……」


 ということで、先に白華にベッド下へ潜ってもらうことに。俺が後になることで、最悪の場合でも盾になることが出来るという配慮だ。


「んー、狭い。二人も入り切るかな」


 などと声がする。頭は既にベッドの下。つまりお尻は……


【一斗くん! 今です! パンツです! 覗きましょう!】


 加子がすげぇ捲し立ててきた。さすがにギャルだけあって、スカートの丈がめっちゃ短い。その気がなくてもパンツは見えそうだった。

 しかし、俺はジェントルメェンなので、無防備な女の子のお尻を覗いたりしないのだ。

 ……白か。意外と下着は清楚系なんだな。

 レースのひらひらがエロ可愛い。それに、引き締まったお尻のラインも綺麗だった。


【あのー、さっきの御託は何だったんですか?】


 は? 俺じゃないけど。加子が俺の身体で勝手にやったことだろ?


【わ、私のせいにしないでくださいよ!】


 いいんだよ。別に俺も役得だからさ。怒ってないよ。


【うわー、一斗くん人のせいにするとか最低です……】


 などという醜い言い争いが勃発したのだった。犯人は闇の中、事件は迷宮入りである。

 ま、どっちでもいいよね!


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