第52章 衝突回避に着手③

 マルコフが説明を終えたときだった。ズドーン! という激突音に続いて床が揺れた。すると、女性たちのキャー! という悲鳴の後に、会場がざわつきだした。


「みなさん! どうか落ち着いてください。隕石が落ちたとの報告がありました。場所はここから40キロ離れた地点です。ここへの影響はありません」

 部下から報告を受けたマルコフが説明した。


 大小の無数のクレーターが示すように、大気の薄い火星では地球と違って、隕石の落下が日常茶飯事なのだ。そこで、町に被害を与える恐れがある隕石は、迎撃ミサイルで破壊できるようにしてある。だが隕石が大きければ、話は別だ。その対策として、火星の裏側に避難都市の建設計画を進めている。だが火星そのものが壊れてしまったら、何の意味もなさない。


「マルコフさん。それで、あのミサイルで彗星衝突を本当に回避できるのか?」

 前に陣取っていた中年の男が声を飛ばしてきた。


 それに続いて同じような質問が矢継ぎ早に飛んできた。隕石の衝突で、会場から懐疑的な雰囲気は吹っ飛び、質問攻めの嵐が巻き起こった。


「我々は、衝突回避のシミュレーションをしてきました。万が一にも失敗がないよう万全の体勢で衝突阻止の計画を進めています」

 マルコフが落ち着いた口調で返答した。


「ですが、なんでもそうですが、100%というのはありません。だからといって、この計画の失敗は絶対に許されません。ですから100%に近づける努力を続けているところです。この計画には、我々の命がかかっています」

 噓八百しかつかない、首相や大統領たちとは違って、マルコフは正直に説明した。


 彼なら、この火星のリーダーとして、住民たちを上手くまとめていけそうだ。だが気になるのは、あの風俗街を仕切っている連中の存在だ。



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