第52章 衝突回避に着手①

 娘とのたわいない親子会話がひとまず終了したところで、マルコフが部下を引き連れて側に近づいてきた。


「宮島さん、私たちを助けに来ていただき、ありがとうございます」

 マルコフが改めて礼を述べてきた。


「いや俺はプランを持って来たにすぎない。彗星の衝突を回避できるかは、ここにいる、みんなにかかっている。みなさん次第だ」

 思っていることを正直に吐いた。

 いまのところ、俺の出番はなさそうだ。


「ところで、地球はいまどうなっていますか?」

 どうやらそれが、マルコフが一番訊きたがっていたことのようだ。


「地上には人間が安心して暮らせる場所は、もうどこにもない。遠からず、絶滅危惧種の仲間に、人類はなるかもしれない」

 俺は実情を素直に伝えた。


「そうですか。少しは良くなってくれるものと、期待していたのですが」

 声を返すと、マルコフの顔はその口調のようにひどく曇っていた。


「あんたの家族は、みんな避難できたのか?」

 俺はやんわりと訊いた。


「いえ。火星に避難できたのは、子供たちと妻だけです」

「そうか。それは気の毒に」

 それ以上は聞かなかった。


 根掘り葉掘りと身の上を訊けば、マルコフの胸の奥に秘めた、傷心に塩を塗りつけると思ったからだ。おそらくは、ここにいる全員が、彼と同じ境遇だろうと思った。


 みんな、深い悲しみ、心の傷を負って、火星にきている。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る