第36章 アマール⑥

……アマールが、息子を殺害させた。


 アマールに助けられた身ではあるが、俺の心に、彼女への怒りが芽生えていた。大切な息子を奪われた、父親の怒りだ。子を愛する親なら、誰でもそうなるだろう。


「竜司さんが殺された責任は……私にもあります」

 ガーピスが俺の胸の内を察したのか、言いにくそうに告げてきた。


「実は、アマールはガイガーに情報を流しはしましたが、出発時間を2時間ほど遅らせて伝えていました。ですから時間を早めて出発していれば、襲われることはなかった」

 ガーピスが神妙な顔をして話してきた。


「私が、彼女の情報を完全に信じきれなかったため、襲われてしまった。本当の責任は、この私にあります」

 沈痛な口調で続けてきた。


「あの時、出発時間を早めていれば、竜司さんは死なずにすんだ」

 当時を思い出しているのか? 悲しい眼をして、声を絞り出すように吐いてきた。


「どうして、時間を早めなかったんだ!?」

 今度は怒りの矛先をガーピスに向けた。


「ジュンくんがまだ行方不明になっていて、あなたの娘さんの要請もあって、出発の時間を早めることができませんでした。その私の判断が間違っていたのです」

 肩を落とすような口調で声を繋いできた。


 俺は聞いていくうちに、心でガーピスを強く非難していた。おまえは万能のAIだろうが。なんでAIが判断を間違えるんだ? と、沸騰してきた激しい怒りに任せた罵詈雑言が、喉元から出かかっていた。


「竜司さんを、息子さんを死なせてしまって、本当に、申し訳ありませんでした」

 人間のように涙が出るなら、眼を潤ませそうな顔をして謝ってきた。


 沸騰していた俺の頭の湯気は、しだいに納まってきた。ガーピスがどんな気持ちを持ち続けてきたのか、それを感じ取ることができたからだ。彼は今も自責の念を抱いて人類の救済活動しているのだ。そんな彼を責めることはできない。


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