第32章 巨大彗星②
火星に彗星が衝突して、俺の娘が死ぬ! そのゾッとする言葉が、頭の中で何度も反復していた。
ひどく動揺した眼で、スクリーンに映る火星を見ていた。そこには、娘だけでなく大勢の人間が住んでいる。
「火星にいる人たちは、そのことを知っているのか?」
俺の心身を圧し潰すような悪夢から逃れるように、ガーピスの顔に眼を映し、喉から声を絞り出すようにして訊ねた。
「いえ、火星にいる人たちは、誰も知りません。竜司さんが、お母さんと妹さんを火星に送り出した後にわかったことです」
ガーピスが後悔でもしているかのような表情を浮かべ、沈んだ声で答えてきた。
その悔やんでいるような口調と表情からして、おそらく火星に行かせる前にもっと早く気付くべきだったとでも思っているのだろう。
事前に知っていたなら、竜司も死なずに済んだかもしれない。
だが、時計は元には戻せない。
「火星にいる人たちに、まだその情報を伝えていないということか?」
俺は少し不満の顔で訊き返した。なにせ、火星には大切な娘がいる。
「はい、いまそれを伝えたら、火星にいる人々に恐怖心を与えるだけです。」
ガーピスの言う通りだ。彗星の衝突を知ったら、火星は大変なことになるだろう。火星から脱出しようと、限られた宇宙船の奪い合いで、またも人間同士が血で争う惨事になるはずだ。確かに、いまは知らせないほうがいいだろう。だが、遅かれ早かれ、知ることになる。
俺の瞼に、娘の姿が大きく浮かび上がっていた。息子だけなく、娘も失ってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます