第26章 過去に何が起きた?④

 民主主義が、完全に消えた世界。そんな狂気の世界で、竜司たちの組織は、人類の危機に備えて研究開発を急いでいた。


「竜司さん、アメリカ政府が開発したAIが、自ら動きだしました」

 白衣をまとった男が報告してきた。


「それは、本当か?」

 竜司は確かめるように訊き返した。


「はい、これを見てください」

 男はタブレット端末の画像を見せた。


「んん、予想したよりも少し早いな。こっちも急がないと。準備を早めてくれ」

 竜司は少し強張った顔で指示を出した。


「はい、わかりました」

 男は答えると別室に向かった。


 竜司は、正面の壁に埋め込んだ劇場のスクリーンのような画面に、沈痛な顔を向けた。6分割された画面には、南北アメリカ大陸、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、オセアニアが手に取るように映っていた。


 そして別のスクリーンには、火星の映像も映っていた。竜司は、火星の姿を憂いの眼で見つめていた。もしも地球で生活できなくなれば、いずれ火星に母と妹を行かせることになるだろう。おそらくは、最後の避難船に乗って。


 竜司は、そうならないことを願った。


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