第20章 Xデイの始まり②

「さあ、いくわよ」

 アマールは銃をさっと構え、通路が続いている方向ではなく、破壊された床の先に歩き出した。


「え? 行くのは通路じゃないのか?」

 俺は即座に疑問を投げかけた。シャッターの裏側でたむろしていた連中が消滅したからといって、別の飛行ロボが襲ってこないとは限らない。


「この爆発の衝撃で、防火シャッターは全部閉じて通路を塞いでいるはずよ。シャッターを開けるのに時間を潰していたら、また察知されて襲ってくるわ」


「わかった」

 俺は声と一緒に、納得した顔で応じた。そして、アマールを真似て銃を前に構え、まだ煙が上がり続ける先に向かった。


 目の前に現れた光景に、眼を見張った。


「嘘だろ!」

 思わず声を上げた。


 俺たちが立っている場所は、高層階だった。地面までゆうに50メートルはありそうだ。こんな高所から、いったいどうやって脱出するというんだ?

 驚いたまま顔を動かし、左に眼を向けた。この建物の半分はなくなっていた。建物から剥き出しになった管路から、俺たちを襲っていた汚水が、ちょろちょろと落ちているのが小さく見えていた。


 隕石に破壊されたのは、この建物だけではなかった。隣にあったビルは完全に倒壊し、残骸の小山のようになっていた。取り囲む周りの構造物も例外なく被害を受けていた。


「さ、ここから降りるわよ。ついてきて」

 相変わらずの口調で指図すると、銃をしまい下に降りだした。


 俺は降りる高さに、超ビビっていた。だが、腹をくくるしかない。押し寄せてくる恐怖心に耐えながら、慎重に後を追って降りていった。


 まずいことに、黒煙とともに火災が方々で発生してきた。火炎はすぐに上に広がり火柱があっちこっちで上がっている。これでは降りていく途中で、豚の丸焼きにされる恐れもある。


 まるで地獄の一丁目、炎の大地に、降りていくような感じだ。

 まだ人間が世界を支配しているなら、消防隊の救援ヘリでも来てくれるだろうが、他に選択肢はない。


 腹を括り、アリーナの後を追った。


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