第18章 汚水管路⑨

 俺たちはまた円筒の壁を登り続けた。手足が徐々に痺れてきて悲鳴を上げてきた。限界も近い。ここから滑り落ちたら、洗浄液が無くても床に叩きつけられて、下手をすれば、お陀仏だろう。幸い助かったとしても、骨折は免れない。


 そうこうしている間も手足に乳酸が溜まり続け、焦る心がますます沸いてきた。

 これは、非常にまずいぞ! 


 アマールが登るのを止めた。ヒューマノイドなのに、俺の手足と同じように、体に乳酸でも溜まったのか? いや、そうではなかった。壁に両眼を注いでいた。また、さっきと同じことをおっぱじめるのか? だが、この高さでは、汚水の援軍は得られない。


「手を出して」

 アマールが小声で言うと、手を伸ばしてきた。


 俺は言われたとおり片手を伸ばすと、女とはおもえない、ものすごい力で胸元まで引き上げられた。


「上に登るのよ」

 また小声を出し、俺の体を上に押し出すようにした。


 円筒の中が狭いので、上がる途中、体を密着させることになった。アマールの大きな胸の柔らかい部分が、俺の身棒と心を刺激した。


 こんな生死がかかるときに、まったく俺の体ってやつは。いやいや、これは男の性? それとも本能なのか? 


 いやアマールが並みの容姿なら、こんな変な感情が沸くことは絶対にない。ましてや、嫌いなタイプの女なら密着をできるだけ避けようと、逃げるように手足の疲れも忘れて、率先してさっさと上に登っている。それに、そもそもアマールは男だろう? いくら外見は超絶美女でも、元が男ならまったく興味はない。


 誤解しないでほしいが、別に性の多様性を差別しているとか、そういうことじゃない。むしろ、俺は性の多様性を支持している。女なら誰でもいいということではなく、特定の女性にしか興味がないだけだ。それを差別というなら、そうかもしれない。


 それは置いておいて、あそこが目覚めそうになったのは、多分に、長い間、女との接触がなかったので眠っていた俺の体が生理反応しただけだ。普段の俺はドスケベではない。ほんのちょっとだけだ。個人的には、そう思っている。


 アマールは俺が上に登ったのを確認すると、今度は声を出さずに壁を叩くと、すぐさまその場を離れ、身を伏せるようにした。


 いったい、今度は何をするというのだ?


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