第18章 汚水管路⑥

「さ、ぐずぐずしないで、中に入って。もうじき、洗浄液が襲ってくる」

 先に中に入ったアマールがせかしてきた。


 洗浄液が襲ってくる! という言葉が、俺の臀部を引っぱたいた。壁の反対側の様子はまったく見えないが、急いで体を滑り込ませた。


 中に入ると案の定、暗すぎて初めは何も見えなかった。眼が次第に慣れてくると、管路に差し込む薄明かりが届く範囲が見えてきた。どうやらこの暗い空間は長径1メートル余の幅で、上に真っすぐ続いているらしいことはわかった。


「さ、洗浄液が来る前に、急いで上に登るわよ」

 今度は息を殺した声で、アマールが指図してきた。


 俺はその声にドキッと反応して、両手両足を壁面に強く押し付けて踏ん張り、ときには尻と背中を使い、アマールに続いてよじ登った。

 暗闇に眼が慣れたとはいえ、下手をすれば滑って落下しそうだ。


 アマールは懐中電灯とか持っていないのか? 持っていないなら、今度は両眼玉を車のヘッドライトのように照らせないか、と訊こうと思ったがやめた。


 怒って、蹴落とされたら大変だ。後で知ったが、マリーチカがあえて明るくしないのは発見されないためだった。


 そこに4~5メートルは登ったところで、ザザー! という洗浄液が流れてくる音が、大きく聞こえてきた。


「さあ、もっと急いで登って!」

 アマールが声を張り上げてきた。


 言われるまでもなく、俺は顔中に冷や汗をかきながら、必死に登った。すると、悪魔の液体が俺たちの足下にも一気に侵入してくるのが見えた。汚水はぐんぐん上昇して、口を大きく開けたホオジロザメのように足元に迫ってきた。

 液体のジョーズが、俺の足に咬みつきそうだ。

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