第9章 火星への想い③
俺たちは、山を越え、川を渡り、延々と歩き続けた。時折、獲物を探すかのように上空に現れるロボットたちの眼を逃れながら、左右が見渡せる見晴らしのよい峠に辿り着いたときだった。
前方の緑に包まれた深い谷合から、避難壕で眼にした原爆のキノコ雲のような黒煙が、もくもくと何度も空に上がっていた。こちらに吹いてきた強い風に乗って、鼻を衝く煙の臭いも伝わってきた。
「ひ、ひどい」
女がいまにも泣き出しそうな顔で、声を零した。
大谷は青ざめた顔で見ていた。
「あそこには何があったのだ?」
がっくりと肩を落としたような有様で、黒煙を上げ続ける谷間を呆然と見つめる大谷に訊ねた。
「火星に行ける、最後の宇宙船です。これで、火星には行けなくなった」
立っていられず、膝を地面に落としそうにして答えると、ひどく悲しそうな眼をして、黒煙を上げ続ける谷間にずっと瞳を注いでいた。
「これからどうする?」
おかれた状況がよく飲め込めていない俺は、他人事のように訊いた。
「僕たち反乱者は捕まると、ロボットに殺されます。僕たちとここで離れて、どうか生き延びてください」
大谷が別れの言葉を告げてきた。
俺は、そのひどく悲しそうな顔を眼にして、すぐには声を返せなかった。
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