第9章 火星への想い①

「あんたは、好きにすればいい」

 石田は眼を合わせて、足手まといが減った、とでも思っているかのような顔色で、俺の言葉にあっさりと応じた。


 残った俺たちは棒のように立って、石田たちが逃げていった西の方角をしばらくの間、見つめていた。石田たちの後ろ姿は、あのシリアの内戦やISから逃れる難民たちを彷彿させた。違うのは、身に纏っている衣服ぐらいだ。


「彼らは、どこに行くのだ?」

 俺は見つめたまま、大谷に訊ねた。


「火星に行ける船がまだ残っていて、そこに向かっています」

 大谷は、石田たちが向かった方角に眼を向けたまま、心配そうな声で答えてきた。


「仮にその宇宙船に乗れたとしても、ロボットたちに見つかって撃ち落されるんじゃないのか?」

 逃げた方角に眼をやったまま訊ねた。


「はい。でも地球にいれば、いずれ殺されるか、捕まってしまうでしょう。覚悟の上での行動です」

 顔を合わせた大谷は、重い口調で言葉を返してきた。


「仮に、火星に行けたとしても、ここと何も変わりはないんじゃないのか?」

 俺は続けて疑問をぶつけた。


「いえ、AIたちは火星にはなぜか? 興味がないようで、厳しい環境ですが、地球とは違って、人々が本来の姿で生活しています。火星は、人間の最期の希望の星なのです」

 大谷は不安と期待を入り混ぜたような顔色をして、想いを馳せるかのように火星の現在の状況について説明を始めた。

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