第8章 避難民⑤

 息を潜めていた時間が20分、いや30分は経っただろうか? 避難壕を叩く爆発音がまったく聞こえなくなった。代わりに、虫の声が静寂になった壕内に響くように聞こえてくるようになった。


「もう大丈夫だ。だが、ここも見つかるのは時間の問題だ。予定を早めて出発するぞ」

 石田は全員を見渡して指示すると、大谷の顔に眼をやった。


「大谷、悪いが、おまえを一緒に連れて行くわけにはいかない。ここのルールを破って、みんなを危険にさらした人間を同行させると、他の仲間に示しがつかない」

 石田が曇った顔をして命令してきた。


「わかっています。みなさんの無事を祈っています」

 そう言われることを覚悟していたのか、大谷が平静な口調で応じた。


「わたしも残ります」

 恋人と思われる女が側から口を挟み、大谷の横に並んだ。


 すると、石田は直ぐに声を返さず、女の顔をじっと見ていた。それから大谷の顔に眼を移し、二人の顔を交互に見ていた。


「わかった。人数が少ないほうが、奴らに見つかるリスクも減らせる。二人で互いに助け合って、生き延びてくれ」

 石田は重い口調で吐くと、二人の肩を軽く叩いていた。


「俺も、ここに残る。この青年に助けられた身だ。二人には、邪魔かもしれないが、二人と行動を共にする」

 3人のやり取りを見ていた俺は、横から口を挟んだ。


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