第196話 我らは蛮族!

 ☆ -蒼月矜一視点に復帰-


 

 俺がオークジェネラルを倒してから、オークロードと戦いを繰り広げていると、少し離れた場所の東三条さんとマコトの戦闘が目に入った。

 思考加速で考えることには戦闘中でもあまり問題ではないが、オークロードの攻撃が苛烈で隙を見せる訳にはいかないので、視線はすぐにオークロードへと戻す。


 一瞬だけしか見ることができなかったあちらの戦闘状況は、東三条さんが防御で使うアイスシールドを何枚もオークジェネラルの周囲に張って、攻撃……動きの阻害に転用をしていた。


 「さすが東三条さんだ。オークジェネラルの動きを完全に阻害していた。あれならもうすぐ決着がつきそうだ」


 戦闘中なので、視点はオークロードからあまり動かすことはできないが、気配察知と魔力感知の併用で周囲の状況はある程度把握している。

 今宵の戦闘は既に終わっていて、キィちゃんとさっちゃんもオークジェネラルを倒したようだった。

 というか、あの三人は今は同じ場所にいるようなんだが、それより少し離れているあちら側のオークの集団が凄い勢いで激減をしていた。


 オークを倒している何かからは、高密度の魔力を感知することができるのだが、それは人ではない。

 今宵が動いていないということは味方なのか?

 むしろ今宵たちはこちらに合流をしそうな感じだ。

 え? あれほっといて良いの?

 まあ、オークを倒していて俺たちに害がないなら良いのか……な?


 「グガァ!」


 まるで自分と対戦中に他のことを考えるなと言わんばかりに、オークロードは声をあげてそれまで以上に力強く剣を振るう。

 このオークロードは俺の彼女か何かかな? 照れるぜ!


 俺はその攻撃に対してこちらも力を入れて弾き返した。

 オークのカレシはノーセンキューです!

 しかし決め手に欠けるんだよな……。

 先ほどまでは敵が二体で強力なタッグを形成していたが、それゆえに片方を無視した攻撃もできずにいた。

 今、オークロードが俺に対してしているような周囲を考えない攻撃はしてきていなかったのだ。

 だから俺はその唯一の弱点をついて、オークジェネラルを倒すことに成功したが、、

 っと、どうやら東三条さんとマコトの二人もオークジェネラルを倒したようでこちらに来そうな感じだ。


 「……ッ!」


 それまで剣のみでの攻撃だったオークロードが突然地面の砂を蹴り上げてこちらへと飛ばす。

 俺の視界を封じる作戦か?

 さすがに砂ぼこりが目に入るのはこの状況では避けたいので、俺は風魔法で風を発生させて目に埃が入らないようにしたうえで、続けざまに攻撃をしてきたオークロードの剣を受け止める。


 そして俺がオークロードの剣を受け止めてお互いの動きが止まった瞬間、オークロードは俺に対してつばを吐いた。


 「うわっ、汚ねぇ!」


 俺は咄嗟にそれを避けたが……、


 「グハッ」


 オークロードの拳で殴られて吹き飛ばされた。


 「矜一さん!」


 「マコトちゃん待って! お兄ちゃんのカッコいい所はこれからだよっ!」


 殴り飛ばされてゴロゴロと転がる俺をみて、オークジェネラルを倒してこちらの援護に駆け付けようとしていたマコトが声を上げた。

 ってか追撃を警戒して周囲の状況を探ると、今宵たちも既に近くに来ているようだった。


 (くそっ 転移)


 俺は追撃を仕掛けてくるオークロードの後ろに回り剣を振るが、それは超反応によって防がれる。

 そもそもツバくらい当たっても痛くもかゆくもなかったのに、反射的に臭そう&汚なそうで避けてしまった。

 ってか、みんな俺とオークロードの戦闘を見てるだけってどういうこと?

 マコトも今宵の声を聞いてからは動いていないし、東三条さんなんて俺の援護に来るって宣言してたよね!?


 というか、俺とオークロードは強さが同じくらいだから、今宵がこちらに来ているなら参戦をしてくれたらこの戦いは終了するんですけど!?

 俺のカッコいい所がもう少しで見られるってなんだよ。

 殴られてゴロゴロと転がったよ。

 俺はそう思い今宵をチラリとみると、今宵はそれに気がついて、頑張るぞい のポーズをしながら声を出さずに「ガンバっ」と俺に言っていた。


 読唇術でわかったけど、声に出せよ! ってか援護してよ……。

 いやいや、俺は今めっちゃ苦労して激戦中なんだが?

 いやマジで。

 6対1で相手のボスをフルボッコできる状況で俺が一人で戦うとかおかしくない?

 てか東三条さんだけでもあの宣言があったのだから来てほしい。


 俺は東三条さんの援護に行くという宣言を思い出しながら、彼女の戦闘風景も思い出す。

 俺はその戦闘風景にアイデアを得て、ダンジョンの12階層でプールを作った要領でオークロードの足元に土魔法で壁を作る。

 そしてそれは、オークロードに簡単に蹴り飛ばされて無残に散った。

 しかも本当は俺の身長と同じくらいの高さの壁をオークロードの前に作るつもりだったのだが、一瞬で作ることができたのは土ボコで……。

 その土ボコも、強度不足で簡単に蹴り壊されてしまっていた。


 現状はたしかに拮抗しているが、ちょっとしたミスで俺が敗北する可能性だってある。

 さすがに敗北しそうになれば助けてくれるのだろうが、そんな状況になる前に皆で倒せば終わる話だよね?

 今宵はあとで説教だ! と考えていると、怒りがふつふつとわいてきて……頭の中でパァァンと何かが弾けた。

 そしてそれと同時に俺の認識領域が一気に広がる。


 「グガァ!?」


 俺は剣に力を込めてオークロードを弾き返すと、


 「土遁・土障壁!」


 俺は覚醒したことで、先ほどはまともにできなかった土魔法での障壁を今宵が悔しがりそうな技名を言って、オークロードの周囲に6つ発現させる。

 俺と同じくらいの身長の土の障壁は今度はオークロードの攻撃を受けても壊れることがない。


 「(転移)……ミーティア!流星


 俺は動けなくなったオークロードから少し離れた上空に転移すると、オークロードに向かって全力で必殺の一撃を放つ。


 「グガァァー!」


 オークロードは叫び声をあげそれに耐えようとするが……、ミーティアが落ちた場所にはクレーターとオークロードの魔石を残すのみだった。


 (レベルも上がったし、魔石も落ちている。倒したことは確定だな)


 「矜一さん! カッコ良かったです!」


 俺がクレーター横に着地をすると、マコトが俺に抱き着いて回復してくれる。

 俺はそれを抱き留めて回復を受けていると、今宵たちが近くにやって来た。


 「てか今宵! 普通は助けに入るだろ? 命の危険があったぞ! 東三条さんも援護するって言うのはどうなったの!?」


 「それは……私様も蒼月君のカッコいい所が見たかったですし……」


 いやいや、カッコいい所なんてどこにもなかったわ。

 むしろ俺は転がって恥をかいただけですよ!

 お嬢様の感覚はよくわからないな……。

 ブサ猫を見ても絶対可愛いって言って可愛がるだろうし。


 「お兄ちゃん、そんな風にマコトちゃんに抱き着かれて、鼻の下を伸ばしながら怒られてもちょっと……。だいたい、ヒーローがボスと戦ってる所に割って入るなんてする訳がないよね」


 クッ……。

 確かにちょっといい匂いで柔らかいなとは思ってはいた。

 ヒーローって、仲間以外の観客がいる時は俺が活躍できそうなチャンスを今宵はキッチリと潰して来るだろ……。


 「あ、ありがとうマコト。たいしてダメージを受けてはいなかったからもう大丈夫」


 俺は惜しみながらもマコトを抱き留めていた腕を放した。

 

 「いや、今宵よ。そう言うことを言っているんじゃなくて、命の危険があったし皆でフルボッコしてたら終わってただろ?」


 俺はもう一度、今度はキリリとした顔で今宵を注意する。


 「えぇ~。でもお兄ちゃんは、私たちが近くにいることに気が付いた時にボスは一人で倒したそうな感じを一瞬出したよね? そりゃ命の危険があれば当然すぐにでも助けに入ったけど、現に瞬殺してるし。フルボッコって……ボス戦でみんな空気を読んだんだよ!  一対一の対戦って感じになってたしね!」


 いや、みんなが空気を読んだのは今宵の一言があったからだろ。

 まあ……確かに転がりながら今宵たちが来ていたことを知って、このオークロードと一対一の状況も終わりかと思って少し残念には思ったことは事実だが、そんな感情を読み取るって今宵はエスパーか何かかな?

 実際に命の危険がない状態でのボス戦であれば、一対一で倒すのは戦闘の華だし全員でフルボッコは微妙だろうが……。

 いや、それはそれで楽しそうでもある。


 今宵の言い方からすれば、俺の気持ちを優先した&実際に見て大丈夫そうだった&危なければ介入をしていたということなら……うーん。

 俺がピンチになりそうなら介入していたという言葉は、今宵であれば確かに俺が些細なミスをして危なくなった瞬間に助けてくれそうな謎の信頼感はある。

 でもだからこそ、さっきはここは助けに来るべき所と思って怒った訳だし。

 結果だけを見れば、今宵の言うように助けに入らなくても問題がなかったようにも思える。


 「はぁ……。みんな本当に危ない時は助けてくれよ」


 「もちろんです!」


 「当然ですわ!」


 マコトと東三条さんの声を聞いて、俺はこの件はまあ良いかと思うのだった。


 「それより周囲を超強力な小さな何か・・・・・・・・がオークを倒して回っているんだが、あれ大丈夫なのか? 今宵がいた場所辺りから発生してたけど」


 「あ! それね、コジロウだよ! ついに口寄せの術を覚えたから使ってみた! 従魔の指輪が早く作れるようにならないかなぁ」


 あの強力そうな何か・・は味方なの!?

 というか、俺らが苦労して倒していたオークをボッコボコにして回ってるけど?


 「従魔の指輪か……。スキル的には今宵はレベルを上げれば作れそうだけど、実は矜侍さんから聞いた話だと……、指輪の中に亜空間を作るから、ダンジョンマスターのコアが材料にいるみたいだから作るのは無理だぞ」


 「えぇー! ダンジョンマスターって人外の!? ムムム……。じゃあどうやってコジロウを飼えばいいの」


 飼うって。

 口寄せの術は別に召喚するだけで、飼う訳じゃないだろ!?

 もしかして常時出しておけるのか?


 「いや、呼び寄せたんだから戦闘後は戻すんだろ」


 「うーん。可愛いから戻したくないなぁ」


 俺たちはコジロウが周囲を蹂躙しているので、その間は休憩にあてることにする。


 「あ! そう言えば私様はレベルが26になりましたわ! そしてついに――空間魔法持ちになりました。これで私様も空間魔法仲間ですわね!」


 東三条さんは地味にキィちゃんの空間魔法を持ってないのは今のメンバーで東三条さんだけって言うのを気にしていたみたいだ。


 「ぐぬぬ。ですわ が、私のキャラポジションと被って……」


 いや、キィちゃんに高貴さはゼロじゃん!?

 ハルバードを持った蛮族じゃん。

 まあ、ハルバードを勧めたのは俺だから蛮族とかは言わないけど!

 でも一ミリもキャラは被ってないからな。


 「俺も26になった。コジロウを待つ間に何をとるか考えるか」


 「今宵も上がったよ!」


 「えぇーー。私は上がってない!」


 今宵がレベル26に上がった宣言をすると、さっちゃんが自分は上がってないという。

 さっちゃんの声にマコトもキィちゃんも賛同をしているので、壁を超えたのはどうやら俺と今宵、東三条さんの三人だけのようだ。

 てか、ダンジョンパーティを組んでいるから、オークジェネラル五体にオークロード一体でレベル25からレベル26に上がる壁を超えられないって、本当にここの壁は高かったということか。



 俺は前回も出ていたが、契約魔法を覚えることを優先したので取得ができていなかった鑑定を取得する。


 「うーん、パッとするのがない。『後の先ごのせん』っていうスキルで良いか~。相手が仕掛けた技に合わせたり反撃ができるみたいだし。それに今回は生活魔法のレベルも上がって基本属性魔法も普通に覚えたから、ついに今宵も土遁が使えるよ!」


 今宵が土遁を使ったら俺が偽物で今宵が本物になってしまうな……。

 しばらくして、コジロウが戻って来たので今宵から紹介を受ける。

 コジロウは真っ白なオコジョ……というか小さなフェレットの容貌をしていた。

 そして今宵から皆にコジロウの紹介が終わると、どうやら今宵曰くコジロウは疲れたようで一度小さな毛玉になると、今宵がいつもつけている猫の髪留めに変化へんげし、今宵の頭へと乗ると動かなくなるのだった。




 俺たちは25階層への魔法陣を目指して移動する。

 そしてオークの集落のある場所に辿り着くと、そこは家屋が燃え盛り焼け落ちていた。

 

 「オークの死体を含めて考えると、完全に盗賊の襲撃にあった村のようですわね……」


 「途中の渓谷とかも景色どころじゃなかったですよね。死体で」


 東三条さんとマコトが集落を見て感想を言っている。

 これ、オーク側からみたら完全に俺たちが侵略者だよね。

 まあ、スタンピードの可能性を考えれば、魔物は即殺滅! しておかないと今回のように1匹みたら30匹みたいになっても困るので、仕方のないことではある。


 「というか、みんな疲れてないか? この後どうする?」


 「そのことなんですが、今回のオークの集団は異常でしたからギルドへの報告が必要だと思いますわ。オークジェネラルが五体もいて、オークロードまで出現していますから」


 「私たちはレベルが上がってないのに帰るの!? ずるい! それにアイデアならアイスシールドで階段とか!」


 キィちゃんはレベルが上がっていないのでまだ戦いたいという話をして、ここのオークの集落に来るまでに俺が東三条さんのオークジェネラルとの闘いっぷりでアイデアが凄かったという話をしていたのだが、自分のアイデアの方が凄いと東三条さんに空中にアイスシールドで階段を作らせていた。


 「これで空中でも足場ができて戦えるよ! アッ――」


 「「キィちゃん!」」


 ガンッ


 キィちゃんはそう言って、数段あるアイスシールドの一番目に走って乗ると、ズルっと滑り地面に後頭部をぶつけた。

 ピクリとも動かないので、俺は慌てて近寄ってヒールをかける。

 どうやら気絶をしているだけのようで安心した。

 そして俺はキィちゃんを背負うと、


 「じゃあオチもついたし、もう一度ここに来たくもないから25階層に一度移動して魔法陣転移ができるようにしてからギルドに報告に行こうか」


 「「はーい」」




 俺たちは24階層の報告とオークロードの魔石の譲渡、オークジェネラル五体の査定を受けていると、思いのほか長時間拘束されて結局その日の活動を終了したのだった。





 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 本文外。

 今回上がったステータスなどです。


 <名前>:蒼月 矜一

 <job> :魔法剣士

 <ステータス>

 LV  : 26

 力  :B

 魔力 :B

 耐久 :B

 敏捷 :B

 知力 :B(UP)

 運  :D

 魔法 :生活魔法7(UP)、基本属性魔法(火2・水2・風2・土3(UP)・光3・闇2・無2)、回復魔法2、空間魔法3、契約魔法

 スキル:剣術4、体術3、槍術、杖術、危険察知3、気配察知3、気配遮断2、空間把握3、魔力制御3、ステータス偽装2、孤独耐性、暗視、身体強化2、思考加速、疲労耐性、魔力感知2(UP)、畏怖耐性、鑑定(NEW)



 <名前>:蒼月 今宵

 <job> :NINJAニンジャ

 <ステータス>

 LV  : 26

 力  :C

 魔力 :B(UP)

 耐久 :B

 敏捷 :B

 知力 :B

 運  :B

 魔法 :空間魔法3、生活魔法6(UP)、付与魔法、基本属性魔法(火・水・風・土・光・闇・無)(NEW)

 スキル:武術全般4、Ninpoニンポー3(UP)、魔力感知3、ステータス偽装2(UP)、魔力制御3、思考加速、暗視、クラフト、気配察知、恐怖耐性、後の先(NEW)



 <名前>:東三条 天音

 <job> :魔法戦姫マジック・バトル・プリンセス

 <ステータス>

 LV  : 26

 力  :C

 魔力 :B

 耐久 :C

 敏捷 :B

 知力 :B(UP)

 運  :B

 魔法 :氷結魔法2、空間魔法(NEW)

 スキル:直感5、剣術5、身体強化 カリスマ2(UP)、恐怖耐性、ステータス偽装(NEW)



 <名前>:綾瀬 季依

 <job> :戦士

 <ステータス>

 LV  : 25

 力  :B(UP)

 魔力 :D

 耐久 :D

 敏捷 :C

 知力 :C

 運  :D

 魔法 :生活魔法5、空間魔法2(UP)

 スキル:身体強化、剛力、ステータス偽装、魔力感知



 <名前>:琴坂 佐知

 <job> :聖水士

 <ステータス>

 LV  : 25

 力  :D

 魔力 :B(UP)

 耐久 :D

 敏捷 :C

 知力 :C

 運  :D

 魔法 :生活魔法6(UP)、基本属性魔法(火・水・風・土・光・闇・無)、空間魔法2(UP)

 スキル:身体強化、ステータス偽装、魔力制御



 <名前>:星野 真

 <job> :治癒士

 <ステータス>

 LV  : 25

 力  :D

 魔力 :C

 耐久 :D

 敏捷 :C(UP)

 知力 :C

 運  :E

 魔法 :生活魔法5、空間魔法2(UP)

 スキル:恐怖耐性、ステータス偽装、身体強化、魔力制御






 

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