第195話 人の知恵
☆ -蒼月矜一視点-
東三条さんとマコトに援護には行けないと伝えた俺は、逆に東三条さんから先に自分たちが戦っているオークジェネラルを倒して、俺の援護に行くと返される。
東三条さんがそんな風に言うのなら、オークジェネラルを倒す算段がついているのだろう。
そうであるなら、俺は自分の敵……、オークジェネラルとオークロードに専念できると目の前の二体に意識を集中させる。
しかしこういう展開で、ボス側が多いってのは珍しいなと思う。
自分がよく見るアニメやラノベであるなら、ここは敵のボスが一体で仲間と協力をしてその一体を倒していることだろう。
「まあ、カドゥルーやカルラみたいな裏ボスがひょろっと現れるくらいだ。現実は甘くないか……」
俺はそう呟くと、影残を使って二体に接近する。
接近をしながら、俺は生活魔法のディギングを使ってオークジェネラルとオークロードの踏み込んだ場所それぞれに穴を掘って落とし穴を作った。
二体は踏み込んだ場所の足場が急になくなったことでバランスを崩す。
そしてセオリー通りに弱い方……オークジェネラルから倒すことに決めた俺は、落とし穴にはまり前屈みになってあらわになった後ろ首を狙った。
「スラッシュ!」
俺のその攻撃はオークジェネラルではなく、同様にバランスを崩していたはずのオークロードによって防がれるが、俺はすぐに距離をとって魔法を放つ。
「ファイヤーボール!」
オークロードがオークジェネラルを庇ったせいで二体の距離は近く、俺の威力を上げたファイヤーボールは防がれることなく二体を包み込む。
「現実は甘くはないけど……、だからと言って魔物に甘いわけじゃない。 これまでは罠に嵌めることで上手く行っていたかもしれないが、それも今日でお終いだ!」
俺はしっかりと自分の剣でその攻撃を受け止めた。
オークロードのパワーはオークジェネラルよりもさらに強いが、俺の方も魔法とスキルの二つの身体強化の重複効果によって強化されている。
オークロードと剣を打ちあっていると、煤汚れたオークジェネラルが俺の横から攻撃を仕掛けてきた。
ファイヤーボールでダメージは受けているようだが、まだまだ健在のようだった。
俺はその攻撃を、体の向きを変えることで避け……また距離の近づいた二体に対して今度は生活魔法のシャドウを使う。
シャドウで二体の顔を覆ったことで視覚を奪い、さらにウォーターを使って水を出す。
そして急速に温度を下げながら形を整えて、氷の凸レンズをオークジェネラルの顔の辺りに作り出すと……、
「ライト!」
真っ暗闇から光度を上げたライトで俺は二体の視覚をさらに混乱させる。
しかもオークジェネラルの方には氷の凸レンズ付きなので、オークロードはしばらくすれば光の残像が目に残る程度に落ち着くだろうが、オークジェネラルの方は確実に網膜が傷ついていることだろう。
視覚を奪われ混乱する二体を前に、俺はオークジェネラルの後ろへと転移をすると剣を突き刺す。
その攻撃はどちらのオークからも防がれることはなく、オークジェネラルを貫いた。
オークロードはオークジェネラルが攻撃を受けていることに気がついて、片腕で目を覆いながらも、俺の気配を頼りに攻撃を仕掛けてくるが、いまだ強力な光を見たことから回復の出来ていないその動きは、今までのオークロードからすれば緩慢で、俺は簡単にそれを避けることに成功した。
「
「グガァ!」
俺の言葉が気に障ったのか、オークロードは怒号をあげて攻撃をしてくる。
俺とオークロードはそのまま打ち合い、激しい剣戟を繰り広げるのだった。
☆ -東三条天音視点-
「それにしても、常に避ける必要があるというのは厳しいですわね」
「せっかく不壊のガントレットがあるのに力負けをしてごめんなさい」
「……いえ、それは
自分が不壊のガントレットで、オークジェネラルの攻撃を防ぐことができたらと言ってマコトは謝るが、オークジェネラルの剣撃をガントレットを装着した腕で受けるのと剣で受けるのでは距離に違いがありすぎる。
いくら壊れないからと言っても受ける場所を間違えれば、腕が切り落とされてしまうのだ。
それに、攻撃を受ける場合において、全てが自分の思い通りになるわけではない。
特に何度もガントレットで攻撃を受けられるような場合であれば、受ける方はミスをしなくとも、攻撃をする側はその攻撃先をズラしてくるだろう。
そう言う意味でいうのなら、私とマコトの二人のどちらかで言えば、魔剣を持つ自分の方がオークジェネラルの剣を受けることができなければいけないはずだ。
「フリーズ!」
今現在は私の放つ魔法の後にマコトが突っ込んで、攻撃を加えては離れるという戦闘を繰り返している。
オークジェネラルは魔法の対応をした後で、マコトのガントレットの攻撃をゴンッという音とともに拳と拳を合わせて対応する。
魔法で狙う場所を変えてオークジェネラルの反応を見てはいるが、現状ではその防御を崩せてはいない。
その攻防を繰り返す中で、時折こちらの回避行動が遅れてしまうことがマコトにも自分にも起きてしまっていた。
そういう場合は、アイスシールドでオークジェネラルの攻撃を防いで対処をして仕切り直す。
私は回避行動をとることで動き回っていて、目の前のオークジェネラルに集中をしているとは言っても、少し離れたところにはオークの集団がいることもあって、近視眼的にならないように俯瞰して状況を確認していた。
そしてその俯瞰したその状況で目に入ったのは、蒼月君がなんと様々な生活魔法を戦闘に取り入れて戦っていたのだ。
「凄い……」
私は目の前のオークジェネラルに集中しなければいけないのに、つい蒼月君の戦闘を目で追ってしまっていた。
そしてあちらの戦闘は蒼月君が生活魔法を駆使することで、二対一という不利な状況でありながらオークジェネラルを倒し、オークロードと一対一の状況に持ち込んだのだ。
蒼月君の戦闘を見て一瞬気がそれた私を、オークジェネラルが狙う。
「ブひぃィ!!」
「東三条さん!?」
私の気がそれたことでチャンスだと思ったのか、オークジェネラルは少し声に笑うようなイントネーションを付けて攻撃をしてくる。
同じく、私が気を抜いていたことに気が付いたマコトが声を上げた。
「……ッ、アイスシールド!」
私は咄嗟にアイスシールドを使い難を逃れて距離をとった。
そこでふと、先ほどの蒼月君の戦闘状況を思い出す。
通常では使わないような用法で生活魔法を戦闘に取り入れていた。
私はアイスシールドを使うことで難を逃れることに成功した。
そしてそのアイスシールドは今回の戦闘が始まってから何度も私たちを助けている。
「マコトちゃん! 私様がオークジェネラルの動きを止めますから、信じて距離をつめて攻撃をしてくださいまし!」
「わかりました!」
いきなりの私の言葉にも関わらず、マコトは勢いよく返事をして、すぐにオークジェネラルへと接近していく。
「アイスシールド! アイスシールド! アイスシールド! ……アイスシールド!」
私は最近3連続まで撃てるようになっていた魔法の限界を超えて4連続で使い、オークジェネラルの
それによりオークジェネラルは一時的に動けなくなる。
しかも近くに発生させているために、腕や足を大きく振ることができないので、威力が上がらずその障壁をオークジェネラルは突破できない。
そこに接近をしていたマコトが到達をして、アイスシールドの隙間から不壊のガントレットで攻撃を加える。
ドンッという音とともにオークジェネラルはマコトの攻撃を防ぐことができずに殴られて後ろに下がろうとするが、氷の障壁がそれを許さない。
ダメージを受けたオークジェネラルは防御をすることも上手く出来ず、殴られるままになり、マコトの攻撃に圧される形で後ろのアイスシールドが消滅する。
それによりオークジェネラルは氷の障壁から抜けだすことに成功をするが、マコトの打撃を受け続けて既に虫の息となっていた。
それでも最後の一撃を振り絞り、マコトが攻撃をした瞬間に相打ち覚悟とばかりにマコトに拳を振り下ろす。
「フリーズ!」
「――ハァァア!」
ドーンッ
オークジェネラルの相打ち覚悟の攻撃を私は魔法で攻撃を加えることで防ぎ、そしてマコトの渾身の一撃を受けたオークジェネラルは地面に倒れるとそのまま動かなくなるのだった。
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