第194話 白い毛玉

 ☆ -蒼月今宵視点 続き-



 私は気合を入れ直すとオークジェネラル二体と対峙をしながら、どうすればこれまで防がれた攻撃を当てることができるようになるかを思考加速を使いながら考える。

 オークジェネラルは巨体で私より全体的にスピードが遅いにもかかわらず、私の攻撃に超反応で対応してくる。


 そもそも私はオークジェネラルに対してはスキルをあまり使わずに戦っていた。

 それは自分を戦略的に追い込むオークたちが、最後にボスをぶつけてくると思っていたからだ。

 でも、実際には早い段階でボスクラスが出てきてしまい、さらには一撃で決着がつかないことに楽しみを覚えてしまって、戦闘を長引かせてしまった。


 二体のオークジェネラルは私を罠に嵌めたことでこちらを侮ってニヤニヤとした気持ち悪い笑みを見せている。

 フェイントを入れたり転移をつかったり、連続した攻撃の組み合わせを考えては見たが、結局のところ相手が対応をして来ればその時に判断をすることになる。

 だから全力でゴリ押しという作戦に落ち着く。


 え? 一切何も考えてないって?

 考えた末の結論だよ!

 むしろ、お兄ちゃんも今頃は似たような事を考えてそうなんだよね。

 この二体のオークジェネラルが一番いやな作戦って、身も蓋もない言い方をすれば、結局は力任せのゴリ押しなんじゃないかと思うのだ。

 もちろん力任せっていうのはパワーのことだけではない。

 純粋なパワーだけならオークジェネラルには勝てないしね。

 頭を使った上でのゴリ押し作戦!


 「いっくよー!」


 私が声をあげると、二体のオークジェネラルはニヤニヤした笑みを消して構えをとった。


 (影残!)


 私は一直線にならないように気をつけながらオークジェネラルに接近する。

 そして直前で左側にいるオークへ2本のクナイを投げつけると、右側のオークの側面へと移動して忍刀を振るった。


 だけどその攻撃は、ガンっという音とともに対応される。

 まあ、さっきも同じ事をやって対応されているしね。

 しかも今度は敵が二体になっているので、クナイで時間を稼いだと言っても先ほどのように打ち合う訳にもいかない。


 だから、忍刀で攻撃をすると見せかけて、影残を使ってクナイを投げた方のオークジェネラルの側面へと周り込んだ。


 「Ninpō 奈落!」


 奈落によって地面に落とし穴ができると、足元に穴ができると考えていなかったオークジェネラルは態勢を崩す。

 そこへNinpō・奈落のもう一つの合わせ技である電撃を伴ったスラッシュがオークジェネラルを襲った。

 態勢を崩しながらこちらの対応をしようとしたオークジェネラルは、ギリギリでその攻撃に反応して剣を合わせられるが、態勢を崩していることと電撃を纏った攻撃であるので、防いでもダメージを受けて動きがとまった。


 私はそのまま忍刀をオークジェネラルの剣の上を滑らせて、腕を切り落とそうと狙う。

 私のその攻撃は、痺れながらもオークジェネラルが躱そうとしたことと、もう一体のオークジェネラルが援護にやって来たことで、狙いを変える必要が生じてしまう。

 そのため、剣の上を滑らせていた忍刀でオークジェネラルの剣を下に弾くと、オークジェネラルは腕が痺れているために、簡単に剣の柄を握っている所があらわになった。

 私はそのあらわになった所を狙って、オークジェネラルの小指を切り落とすと、その勢いのままで援護に来たオークジェネラルの剣と忍刀を交差させる。


 今度は逆に、私の態勢の方が万全ではないために、オークジェネラルのパワーに押し負けて吹き飛ばされてしまった。

 それでも不意打ちというほどでもなかったので、私は上手く着地すると一旦大きく後ろにジャンプをするとそのまま――


 「稲光!」


 私の稲光は、近くにいたオークジェネラル二体にダメージを与えるが決めきれてはいない。

 オークジェネラルの二体はダメージを負いながらも私から目を離すことはなかったが、私が大きく後方に逃げるようにジャンプをしていることで態勢を整えることができると判断をしたのか、一瞬気を抜いた所を私は見逃さない。


 普通ならこの状況から攻撃をするなら魔法かスキルによる攻撃で、目を離していなければ対応できると思うだろう。


 (転移)


 たった一瞬気を抜いただけのオークジェネラルの後方に転移をした私は、小指を切り落とした方のオークジェネラルにもう一度Ninpō・奈落を使った。

 いくらオークジェネラルが超反応を見せようとも、さすがに気を抜いた直後では対応は難しい。

 オークジェネラルがこちらに半身を動かして対応をしようとしたところで、私はそのオークジェネラルの首を切り落とした。


 「まずは一体!」


 確実に首を落とすために力を入れて忍刀を振り抜き、動作が大きくなってしまった私を、近くにいたもう片方のオークジェネラルが剣を振るう距離がないと咄嗟の判断をして下からお腹を殴りつけてきた。

 私はそれを避けることができず、体が浮かび上がる。

 さらに連撃を加えようとするオークジェネラルに対して私はNinpōを使った。


 (影空蝉かげうつせみ


 オークジェネラルは私の実体のない影を攻撃してバランスを崩す。

 私はすぐさまバランスを崩したオークジェネラルの剣を持った方の腕を切断すると、絶影で距離をとり……、痛みで顔を歪めたオークジェネラルに追撃を仕掛ける。


 「雷遁・稲光!」


 威力を最大限にまで上げた私の稲光を、剣を持っていた腕を失ったオークジェネラルは防ぐ手立てがなかった。

 防御の姿勢をとるも、私の雷撃はオークジェネラルをそのまま貫いてその生命活動を停止させるのだった。


 「よしっ! 完勝!かんっしょう!


 私はそう宣言をしながら周囲のオークを近寄らせないように威圧を放つと、キィちゃんとさっちゃんの戦闘を確認する。


 危険そうならすぐにでも駆けつけるつもりであったが、どうやらあちらの戦闘は終盤のようだった。

 さっちゃんが移動をしながら的を絞らせずにロックブレットを連続で放つと、既にその魔法攻撃をオークジェネラルは完全には防げていない。

 そこへキィちゃんがハルバードで攻撃を繰り返す。

 そしてとうとうキィちゃんのハルバードで放ったスラッシュが、オークジェネラルの胴体を半分までまるで切り株のように切りつけると……さらにさっちゃんのロックブレットが追撃をしてオークジェネラルは倒れたのだった。


 キィちゃんとさっちゃんはオークジェネラルが死亡したことを確認すると、喜びの声をあげることなくすぐにこちらを向いた。

 ふふ。どうやらこちらの援護に来てくれようとしたようだったので、私は二人に向かってピースする。


 すると二人は、私が無事なことに喜んだのも束の間に、私の援護に行けなかったことが悔しいといった表情をした。

 私はその気持ちが嬉しくて二人の元へと転移する。


 「やったね。二人とも!」


 「あ~あ、せっかく助けに行くチャンスだと思ってたのに」


 「私たちの方が倒すのが遅かったなんて」


 キィちゃんとさっちゃんは不満を言いながらも笑顔で私とハイタッチをした。

 二人がいた場所はお兄ちゃんと私がいた場所のちょうど中間地点と言えるような場所で、周囲のオークは私がいたところやお兄ちゃんたちの所よりはかなり少なかったが、それでもキィちゃんとさっちゃんを狙いに来ていたオークはいたので三人で倒す。


 「矜お兄さんたちの所へ行かないと」


 さっちゃんはひとしきり私と話すと、お兄ちゃんたちを心配する。

 

 「じゃあ今宵ちゃんが矜一お兄さんの所へ行って、私たち二人はマコトちゃんと東三条さんの所へ行く? 私たちでは矜一お兄さんの戦闘に割って入れそうにないし」


 キィちゃんが私がお兄ちゃんの所で、自分たちはマコトちゃんと天音ちゃんの支援に行くと提案をするが、私はその提案に待ったをかけた。


 「待って。実はさっきの戦いでNinpōのレベルが上がったから、それが役立つかも!」


 「「え? なになに?」」


 「へへーん。初お披露目! Ninpō・口寄せの術!!」


 私が術を唱えると、ボンっという音とともに白い煙のようなものが現れて、空中でフヨフヨと漂う。


 「今宵ちゃん、これ何? ケサランパサラン?」


 キィちゃんが空中をフヨフヨと漂っている白い綿毛状で動物の毛玉のようにもみえる物体を見て、これは何かと聞いてくる。

 ケサランパサランって確か、妖怪の一種と言われたり、植物か動物かもわからないから未確認動物とされているんだっけ?

 何かの精霊って説もあったっけ?


 「うーん、可愛いモフモフの動物のイメージで呼んだんだけどなー」


 私がポツリとそうこぼすと、フヨフヨと漂っていたその白いタンポポの綿毛のような物体はパッと白い小さな動物へと変化した。


 「「か、かわいー!」」


 キィちゃんとさっちゃんが声を上げながらその小さな動物を触ろうとするが、それはサッと二人を避けて、空中で留まって微弱な電気を流し自らをアピールする。


 「白い……フェレット?」


 私が白いフェレットに似たその小さな動物に声をかけると、自分は怪異かいいだという紹介が頭に響く。


 「怪異って妖怪? 今宵に呼ばれるのを待ってた?」


 「どうしたの今宵ちゃん?」


 「なんか声が頭に響いて色々教えてくれてる! 今宵が雷遁を使うから、雷属性になったんだってー。え? 力が有り余っているから解放したい?」


 「今宵ちゃん、それならその怪異さんがどれくらい強いかわからないけど、今宵ちゃんが対応していたオークの集団を何とかしてもらったら?」


 キィちゃんが私のコジロウ・・・・に対してそんなことを言う。

 そしてその言葉はコジロウも理解ができているようで、簡単だよと頭に響いた。

 私はその声を聞いて――


 「行け! コジロウ!」


 私がそう言って口寄せの術で呼んだ怪異をコジロウと名付けて指示を出すと、コジロウは空中を飛行機雲のような線をつけながら雷鳴を轟かせて、一直線にオークの集団の元へと向かい雷撃を浴びせ回るのだった。



 

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