第五章 夏休み!

第172話 いちごパンツの信長さん(1582年 本能寺の変)

 東三条家に仲間で集まるようになってから、俺たちは夏休み終了時点までにこなす座学と実技の目標を立てた。

 その一つに東校で習う一年の範囲を全て予習しようというのがあり、今日も今日とて勉強している。


 しかもレベル上昇のお陰か知識をどんどんと吸収することができて、みんなで集まって予備校の合宿(講師なし)みたいな感じで楽しく学ぶことができている。

 勉強が楽しいとか好きっていうのは、覚える速度に大きく関わると思うから、遊んでさえしまわなければこういう皆で勉強することは良いことだよね。


 ちなみに、豪華な東三条家の昼食を皆で食べている時に、俺たちが楽しそうに問題を出し合って会話をするせいで、今宵たちもプールで遊ぶ時間を減らして仲間外れにならないように勉強をする機会が増えていた。ちょろい。

 √7ルートナナの値を求めよ! ルナ(ルート7)に虫いない2.64575…(5をいつつのい) みたいなの楽しいよね!


 俺が東校に入学した時に今宵が既に高校の勉強をしていて、俺が分からない所を教えてくれるとか言っていたけど、本当になりそうで怖い。

 しかもあの時は得意分野も違うし勉強だけでなく、今宵の知らないことを俺が知っているんだからそれぞれ教え合えば良いと言うようなできた妹発言をしていたけど……、今宵が凄すぎてお兄ちゃんが教えられることって少なくないか!?

 好敵手ライバルが妹……兄として負けるわけにはいかない!


 実技の方はというと、元B級探索者や武術の達人を招いて基礎・・だけの訓練を始めた。

 基礎とは武器の持ち方とか体の動かし方、立ち回りや型だったりするのだけど、それ以上の応用は……基本ができていなくてもわりと倒して・・・しまうので基礎を教えてもらって、それ以上は自分たちで実践していくという形式をとっている。


 だからこちらの目標は基本をしっかりと学ぶということになるので、実技と言えるかどうかは怪しいかもしれない。

 ダンジョン探索ではなく、合宿のように夜まで勉強か訓練をしている今の方が正直部活っぽい。

 昼食・夜食・各種おやつに、いつでもお風呂やシャワーを勝手に浴びることができる使用人付きのホテル貸し切りみたいな状態なので緩いけども。




 「今日もいっぱい勉強したあたし偉い!」


 夜の9時、勉強会を終えて猪瀬さんが自分を褒める。

 

 「やらされてる感がないのが良いよね!」


 「アタイは頭が良くなりすぎて知恵熱でるかも」


 葉月さんと桃香が猪瀬さんの自分褒めに反応する。

 っていうか桃香よ、知恵熱は『乳幼児期に突然起こることのある発熱 』のことだから、『深く考えたり頭を使ったりした後の発熱』という意味は誤用だぞ。

 ただまあ、元々の意味をわかってて使いたくなることもあるから、「頭が良くなりすぎて」からの知恵熱発言はツッコミ待ちか?

 てか言われた人が意味が解る場合って、誤用と言っていいのか難しいと俺は思うんだよね。


 とりあえずスルーするかと思っていると、「ねぇさん、知恵熱は~」「え? マジ?」とか聡と桃香が小声で話していた。

 まあ、意味が通じれば俺は良いと思うよ!


 俺たちはその後、東三条家の車で家の前まで送られて帰宅する。

 いやー、至れり尽くせり。

 さすがに何日も似たような状況になった時に、お金の話を東三条さんにしたんだけど、「こちらが招待したのだからいりませんわ」と断られてしまった。

 ゴチになります!


 

 「「ただいま」」


 玄関に入ると来客があるのか、知らない靴が3足ほどあった。


 「矜一、今宵、お帰りなさい」


 「母さん来客?」


 「椿ちゃんたちが来てるのよ。挨拶する?」


 なんですと!?

 俺と今宵がリビングに行くと、椿の父親・浩二こうじさんから声がかかる。


 「お! 矜一君に今宵ちゃん、こんばんは。お邪魔してるよ」


 「こんばんは。いえ、ごゆっくりして下さい」


 「こんばんは~」


 椿は下を向いていて微動だにしないが、俺と今宵は椿のご両親に挨拶する。

 今宵はひとしきり父さんや椿の両親とニコニコと会話をすると、「それじゃあ」と言って自分の部屋に移動する。

 ちょ! え? こういう時は俺はどうしたらいいの? 「挨拶してく?」と母さんに言われただけだから、俺ももう部屋に戻ればいいの?

 こういう時どうしたらいいんだってばよ。


 俺がどうすれば良いのか戸惑っていると、ガタリと椅子から立ち上がる音が聞こえる。


 「きょきょ矜一、おおおかえり!」


 えぇ? 椿がなんかメチャクチャ震えながら俺に話しかけて来る。

 いや椿さんどうしちゃったのよ。

 沢尻エーリカ様みたいに『別に』って態度は最近はしなくなってはいたけど、バイブレーションみたいに震えながらは初めてだよ。


 「お、おお。ただいま」


 俺が挨拶を返すと、椿は顔を赤くして下を向いて座った。


 「矜一君、最近ダンジョンで椿は色々あったろう? それで君のご両親が探索者に復帰して、しかもクランを作ったと聞いてね。どうしても親としては椿のことが心配だから昔から知ってるよしみで椿をクランに入れてくれないかとお願いに来たんだよ」


 「な、なるほど」


 浩二こうじさんが今日、三人でウチに来た理由を教えてくれる。

 俺は話しかけられてどうすれば良いのかなと父さんを見ると、父さんは隣の椅子を引いて目線で俺にそこに座れと合図をする。

 いや、そこ母さんの席でしょ! 俺は父さんが指示した席の隣……椿の正面に座ると、お茶のお代わりを持ってきた母さんが全員に配り、父さんが俺に座れと指示してた席に座る。


 そこからは俺を交えてダンジョン探索の危険性や学校の話などを椿のご両親が俺たちに聞いて応答するという感じで話が進んだ。

 この間までは椿を信用して遅くまでダンジョン探索をしていても椿の判断に任せていたようなんだけど、さすがに短い期間で2度もギルドからの聞き取りやカウンセリングを受けるようなことがあったとなると、子供の心配をしすぎてウチを頼ってきたようだった。


 しかし椿は会話に参加せず、たまにチラチラこっちを見ては目が合うと下を向くのは何故なのだろう。

 そんなキャラじゃなかったよね。

 凛とした椿はどこに行っちゃったの!?

 確かにあれだけのことがあったので、精神的に弱くなっているのなら心配だ。

 家でもこういう状況なのなら、ウチの両親に椿のご両親が話をしに来るのもわかるかもしれない。


 

 

 「それじゃあ恭也きょうやさん、咲江さきえさん。ウチの椿をお願いします」


 「はい。お任せください」


 どうやら話がまとまったようだ。

 九条君はダンジョンに入らずカウンセリングを受けたり、トワイライトと仲良くして責任を感じたり、パーティでの探索の仕方を変更するか考えているそうで今はパーティでの活動をしてないようだ。

 その間は父さんたちが椿の指導をするらしい。

 まあ俺たちの秘密を椿は既に知っているので、隠し事なく教えられるから父さんたちにとってはやり易いのかもしれない。


 「じゃ、じゃあきょ矜一、ま、またね」


 「うん。また」


 椿のバイブは結局なおることはなく、退出していった。

 俺はその後、父さんから椿がどの程度できるかを聞かれたので6階層の野営時に椿を見て感じた時の話をした。

 父さんはそれを聞いて、マコト達にしたようなスパルタカルキュラムを組んでいた。

 椿があんなにどもる事は珍しいので精神的に弱っている可能性を伝えると、それもあると思うが……と言って言葉を濁されたのが気になる。

 母さんもむしろ俺に対してこの子は大丈夫かしらという目で見ていた。

 俺は元気いっぱいだからね!

 ただまあ、父さんたちに任せておけば、椿のことは大丈夫かと俺は考えて自分の部屋へと戻るのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 本文外。

 良くある√7の語呂合わせは、

 √7≒2.64575…菜に虫いない(√7を「菜」と読みます)ですが、蒼月……から√7はルナ(月)に変更しています。


 

 

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