第143話 激アマ砂糖
月曜日。
いつも通りに登校して扉を開けようとすると、一ノ瀬さんと九条君の声が聞こえる。
「シュテルンさまって同年代くらいなのに凄いよね。フォロワー350万人って稼ぎも凄いんだろうなぁ。イケボだしカッコいい」
「まあ凄いとは思うけど、LIVEと言ったって何処までが本当かなんてわからないよ。と言うか、葵はアレが良いの? 最近ではもうアステルが主役だしカメラマンとナレーションの役割に格落ちしてるよね」
「ちょっと九条君、格落ちってどういうこと! 私にはアステルちゃん達をちゃんとフォローしているように見えたよ!」
「九条君も凄いかもしれないけどー? でもさすがにシュテルンのあの動きは真似できないでしょー?」
「え、なに? 葉月さんも七海さんも葵と同じでもしかしてシュテルンのファンだったり? 確かに凄いけどさ。あれはさすがに演出だと思うよ」
「私たちがファンだったら何か悪いの?」
「くじ丸、あお……ん゙ー! ん゙ーー!! シュテルンは背中めっちゃ広いし安心感あるし!」
「里香ちゃんそう言う自慢は止めてくれないー?」
「うん。そういうの良くないと思う!」
「あ、あれ? な、ななみんどうしたの? はづきちもなんで怒ってるの?」
ムチャクチャ入りづらい。
まさか九条君がシュテルンの会話をしているとは。
しかも七海さんたちは俺を庇ってシュテルンのファンって事になってしまっているようだし、ホームルームが始まるまでどこかで時間を潰すか?
てか猪瀬さんは契約魔法が発動したのか?
「ん? 蒼月、おはよう。どうしたの? 入らないの?」
俺がクラスに入るのを躊躇していると、後ろから水戸君が登校してきたようだった。
「あ、ああ。おはよう」
ガララッ
ぎゃー。
水戸君が説明をする前にドアを開けちゃったよ。
仕方がない行くか。
「みんなおはよう。ん? どうしたの?」
「あ、ミトミトおはよ。ななみんとはづきちを怒らせちゃったみたいで」
「え? 七海さんと葉月さん何かあったの?」
七海さんと葉月さんは水戸君の質問にすぐに答えずに気まずそうに俺を凝視していた。
いや、庇ってくれたのもわかってるし猪瀬さんに怒ったのは契約魔法が発動したからだよね?
だいたい、俺が聞いていたってことはバレていないはず。
「なんでもないよー」
「そうなの? まあそれならいいけど」
七海さんたちが水戸君と話している横を通り、俺はみんなに挨拶をしながら席に着く。
「って椿もシュテルンさまをカッコ良いと思うよね?」
終わったかに思われた会話を一ノ瀬さんが引き戻す。
しかもシュテルンのことを椿に聞くだと!?
俺は耳をそばだてて聞く体制に入った。
「え? い、いや声が似て……」
「あー! やっぱりー? 椿もイケボって思うよね!」
「い、いやちが……」
「ほらレン! 椿だってこう言ってるじゃない」
「はぁ~、わかったって。僕が悪かったよ」
一ノ瀬さんはシュテルンをイケボっていうけどさぁ。
ここに本人がいるんだよなぁ。
でも俺には言わないってそれもうイケボじゃないよね!?
「てかシュテルンがイケボて。まあ悪くないけどさ。それなら、ん゙ーー!」
「ちょーと、里香ちゃんはあっちに行っていようねー」
七海さんはそう言うと、葉月さんと一緒に猪瀬さんを廊下へと連れだしていく。
「ワイはやっぱりアステルちゃんやな! 二の腕と太ももを出して動き回るとかエロ過ぎやろ。何度もアーカイブで見直してしもうたわ」
「は?」
アステルを変な目で見たと暴露した榎本君の発言に俺はつい言葉を発してしまう。
「矜一?」
「なんや蒼月君、急にびっくりさせんといてや」
急に声を上げた俺に椿がどうしたの? と言う感じで声をかけ、榎本君に対しては驚かせてしまったようだ。
「いや、榎本君は探索中にそういう目で仲間をみるの?」
俺のその言葉を聞いた椿と一ノ瀬さんが榎本君をにらむ。
「い、嫌やなぁ。ちょっとした冗談やがな。ははは」
「お前の冗談はわかりにくいんだから気をつけろよ」
榎本君の冗談と言う発言に、堂本君が注意をした。
「いや、蒼月。わかるけどさぁ、あのくらいで怒っていたらあれだけ人気になっているし今後もあるかもしれないからキリがないぞ」
水戸君が今宵のことに反応した俺に対して小声で話しかけて来る。
「いや、人気って言われてもアイツは家だとなぁ……。まあ気にしないように気を付けるよ」
「うん。それがいい」
結局俺たちと九条君は微妙な空気のまま冴木先生のショートホームルームまで時間を潰すのだった。
放課後。
部室に集まった俺たちは、今朝の話をする。
「里香ちゃんって秘密を誰にでもしゃべっちゃうのかなー?」
「な、ななみん。ゴメンって。あたしもくじ丸がシュテルンの話をするからつい……ね……?」
「でも、里香ちゃんはダンジョン探索部との勝負をした時の蒼月君にしてもらったおんぶの話とかあれはなんなの? ああいうのは良くないと思う!」
「はづきち! あたしはあおっちの良さをくじ丸に伝えようとしただけで」
「だからそれがダメだって言ってるでしょー。それにシュテルンの話を蒼月君と結び付けたらいけないのはしゃべれない事でわかっているのにダメでしょー?」
「うんうん!」
……。
おかしい。
俺のことのはずなのに、俺をそっちのけで話していて、しかも七海さんと葉月さんが何故か猪瀬さんにめちゃ冷たい。
え? 金曜日に俺らは死地を乗り越えて、戦友みたいな感じの仲の良さになっていたよね!?
「そう言えば蒼月君。今宵ちゃんの衣装なんですけれど、あのパーカーの腰のあたりに猫のシッポをつけるべきだと思いますわ」
えぇ……?
いや、今は猪瀬さんと何故か七海さんと葉月さんがバチバチやっているのに、東三条さんはそれを気にせずに今宵の話……だと!?
「いや、俺もそこまでするならシッポをつけろよ! と心から思ったけど、今は今宵の話じゃなくてあの三人を諫めるべきじゃないの?」
「何を言っているのですか。シッポは重要でしょう? せっかく可愛いのにもったい無いですわ」
いや、今はその話……。
東三条さんが人の話を聞かないこの状態だと何を言ってもダメな時か!?
「蒼月。ああ見えて本気で喧嘩をしている訳じゃないと思うからたぶん大丈夫」
水戸君がフォローしてくれるけど、たぶんって。
「仕方ないですわね。蒼月君がそれほど気になるのでしたら里香さんには教えて差し上げないといけませんわね」
東三条さんはそう言うと、猪瀬さんたちに向かって言い放つ。
「里香さんはおんぶですけど、私様は前から抱きしめられましたから無駄な討論ですわ!」
「あまちー!?」
……だからそれ普通の
それに今その話は関係ないよね!?
「でもそれを言うなら、ナーガを倒した後に全員がそうなのでは?」
「水戸君!?」
水戸君の発言で何故か全員が納得する。
「まあ、それなら公平ですわね」
俺だけ会話に入れずに理解できないでいると、部屋の隅で一人で何か作業をしていた桃井先生がポツリと発言する。
「砂糖あっまっ」
その一言で全員が桃井先生を見るが、桃井先生は何かを飲んでいる訳でもなかった。
ただ、その一言を聞いた七海さんたちは恥ずかしそうに皆で仲良く話すようになるのだった。
いや、俺だけ疎外感あるんですけど!?
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