第93話 激戦! 魔法やスキルが使えなくても

 桃井先生のいる別棟の準備室に向かい、部活の認可が下りた事とこの部屋が部室となった事を伝えると桃井先生は「ここが部室になったら汗臭くなるしさぼれないじゃないのぉ!」と息巻いて生徒会室に抗議しに行こうする。


 そこで俺が先生は教職員からハブられているのにここで生徒会に抗議をしたらせっかく部活の顧問で上がるかもしれない評価が下がってしまうのでは? と言うとしぶしぶ生徒会への抗議は諦めた。


 「ここが部室に認定されたのはわかったわぁ。でもたむろするのは禁止よぉ。何か報告がある時だけ来てちょうだい」


 それ今までと同じで部室ではありませんよね。

 まあ言いたい事はわかる。

 元々窓際に追いやられて1人部屋になっているのにさらにそこに学生が来て部室として使う。


 それは俺でも嫌だと思う。

 先生も仕事をここでしてるだろうし……、いや仕事をまわしてもらっていなさそうだからしてるかどうかは分からない。

 だって忙しそうにもしてないし連絡するといつもいるから。


 「それで桃井先生。これから俺と東三条さんの個人戦を行いたいので審判をお願いします」


 「えぇ……。東三条さんがこの部活に入るというのにも驚いたけど、蒼月君あなた5クラスでしょぉ。肉体は戻っても心に傷を負う必要はないと思わ」


 傍から見ればそうとしか見えない無謀な対戦だよね。

 しかも記録がつく公式戦だ。


 「あら、桃井先生。蒼月君は現在学年ランキング1位。2位の私様わたくしさまが挑戦したとしても何もおかしい事ではありませんわ!」


 いやそれがおかしいんだよなぁ。

 1-4クラスの人たちが東三条さんに対戦を申し込んでいたなら同じ事になっているだけだろうし。


 「あ、蒼月君あなたそんなに有望株だったのぉ? 年上とかに興味ないかしらぁ?」


 桃井先生が俺のポイントを知って急に年上を薦め始めてきた。

 この人は校長も渋いと言っていたしお金を持っていたり有望そうなら誰でも良いんじゃないの? 

 たしかにポイントだけを見れば新入生代表の上にいる男は有望そうに見えるよね。


 「先生。年上は嫌いではないですが、闘技場の予約枠の関係もあります。そう言うのは良いんで審判をして下さい。暇そうにしてたのに審判を受けてくれなかったと言ってこれから冴木先生に泣きついて来ても良いんですよ?」


 「そ、それはやめてよぉ。す、すぐ行くわぁ。早く行きましょお」


 冴木先生の名前を出すと桃井先生は焦り、勢いよく闘技場に向かい始めた。


 俺たちは顔を皆で見渡してヤレヤレというようにした後で桃井先生を追いかけるのだった。

 闘技場に向かう途中で七海さんが俺にピッタリとくっついて来て内緒話をしようとして来たので、俺は体を少し屈めて七海さんが話しやすいようにする。


 「蒼月君大丈夫なのー? 東三条さんのデータはちゃんと見たー?」


 ああ、対戦の話か。東三条さんについては彼女が俺の事を調べたように俺も彼女のうちにお呼ばれしたした後で端末を使ってレベルなどの確認をしている。

 レベルも18とかなり高くスキルも多かった。

 リミットを超えた時に覚えられる数以上の登録が端末で見る事ができたので彼女も壁以外で覚えているのではないかと思われる。


 「それは一度見ているよ。スキルが多かったから彼女ももしかしたら壁以外で覚えているのかもしれない」


 「ああー、それはスクロールで剣術を覚えているみたい。学校の学年掲示板の方で話題になってたよー」


 なるほど。

 スクロールだったか。

 スクロールはかなり高価で値段は時価と言われているが、確かに東三条さんであれば買えるだろう。


 「そうなんだ。対戦についてはわからないなぁ。ステータスもかなり高かったしこちらは全力を出す訳にもいかない……。でも俺も1-4クラスに勝ったのにレベル5のままはどうかなと思って、偽装の所をレベル6と身体強化、JOBを剣士に書き換えてはおいたから……。その範囲でとなると、かなり厳しいかもしれないけど頑張るよ」


 「むむー。まあダメだった場合は同好会から始めましょー。無理はしないでねー」


 「うん。心配してくれてありがとう」



 

 闘技場に着くと今まで俺たちが入っていた入り口ではない所へ東三条さんが進んでいくのでついて行く。

 闘技場はかなり大きくて多くの出入り口と仕切りがあるのだけれど、東三条さんが入った所は俺たち以外に誰もいなくてしかも広さがかなりの大きさだった。


 「ここは今日は私様が18時まで貸し切りにしてますから、思う存分戦えますわ」


 「怖いなぁ。でも東三条さんは2戦目でしょ? 疲れていたら手加減をしてくれても良いからね」


 「まさか。たしかに少しだけ魔力は減っていますけれど、私様にとっては何の問題もありませんわ」


 どうやら東三条さんはやる気満々のようだ。

 部活の認可を掛けてなぜか部活のメンバーと戦う事になった件。


 「それじゃあ二人とも頑張ってねー」


 「楽しみ!」


 「あおっちもひがしっちもがんば!」


 七海さんたち3人はそう言うと観客席に向かう。


 「じゃあ二人とも用意は良いかしらぁ?」


 俺たちは控室においてある武器から剣を選び闘技場の中央へ行く。

 武器は使い慣れているものや付与が掛かっているものを使う場合は持ち込めるが、特にこだわりがなかったり公平性を重視する人は控室においてある武器を使うのが一般的だそうだ。

 これは対戦の時に風紀委員の人に教えてもらったことだったりする。


 「はい大丈夫です」


 「私様も問題なくてよ」


 俺たち二人は準備が整ったことを桃井先生に伝えた。



 「それじゃぁ両者みあって……はじめぇ!」


 「フリーズ!」


 「!?」


 開始直後に東三条さんが氷結魔法のフリーズを放つ。

 一切の予備動作がなく、しかも初手が魔法と思っていなかったために不意を突かれた。

 俺はとっさに身をかわすが左足が凍結してしまった! その瞬間に東三条さんは距離をつめ……、


 「「スラッシュ」」


 キンッという音とお互いの剣撃が交差した事でその衝撃波が俺たちを襲う。

 東三条さんの剣の構えからスラッシュと判断して左足が凍結していた事から、自分がかわせないと思い同じ技を放ったのだ。

 俺はその間に体内で魔力をまわし左足の凍結を解いた。


 「アハハ! 凄いですわ! まさか避けられたうえに迎撃されるなんて!」


 「お褒め頂きありがとう。でも勝たせてもらうね」


 俺はそう言うと、一瞬剣先を下げる。

 その動きを東三条さんが目で追った事を確認した俺は、すぐさま距離をつめて剣撃を放つ。


 「スラッシュ!」


 「アイスシールド!」


 俺がったと思った瞬間に東三条さんは魔法で防御する。

 攻撃も防御にも使える魔法って凄いな。

 しかし困った。

 俺が今使っても良い技はスラッシュだけで、それを既に2回も見せて対応されてしまっている。

 俺たちは一度距離を取り、向かい合った。


 「やはり私様わたくしさまの直感に間違いはありませんでしたわ。強いと思っていましたもの」


 そう言えば、端末でステータスを確認したときに『直感』を持っていたなぁと思う。

 直感って曖昧過ぎない? 

 これって危険察知も出来そうだし、閃きもありそうだし全てにおいて使えるスキルな気がする。


 「俺は東三条さんは強いとわかっていたから戦いたくはなかったけどね」


 俺は会話をしながらその時間を使って勝ち筋を探す。

 最初から思考加速は使っているのにその勝ち筋は見えてこない。

  東三条さんが動く。

 俺たちはお互いの動きに合わせて剣を振り打ち合った。

 数分の打ち合いの後に、


 「ダブルスラッシュ」 「スラッシュ」


 東三条さんがダブルスラッシュを放つ。

 避けきれないと判断した俺は、被害を最小限にとどめるためにスラッシュを放った。

 剣撃の数が違うために俺は大きなダメージを受ける。


 「くっ」


 「楽しかったですわ」


 東三条さんは勝ち名乗りのように対戦の感想を言って距離をつめ最後に俺を斬ろうとした。

 俺はその一瞬に体内で圧縮しておいた魔力を東三条さんに解き放つ!


 俺はこの戦いの間にずっと勝ち筋を探していた。

 そう魔法やスキルが使えなくても威圧魔力放出は使えるし、体術などはスキルに現れていなくても稽古をしていれば使えるのだ。


 「きゃっ」


 東三条さんが一瞬戸惑った隙に俺は持っている剣を捨てた。

 両手を開けた俺は東三条さんの懐に入り込んで背負い投げを放つ。

 そして俺はその後すみやかに立ち技から寝技に移行して袈裟固けさがために入り完全に極まった。

 数分ほど東三条さんはもがき、タップする。


 「こ、降参いたしますわ……」


 「勝者、蒼月君よぉ!」


 観客席から歓声が上がる。

 俺たち二人は息を乱しながら中央に戻り礼をした。

 そしてお互いの健闘をたたえ合おうと俺が東三条さんに声を掛けようとすると……、


 「こ、こんな殿方に組み敷かれるなんてことは、初めてですわぁ!」


 東三条さんはそう言うと脱兎のごとく闘技場を後にして帰っていったのだった。

 それにしてもギリギリだった。


 全力を出していたとしても、同じような展開になっていたように思う。

 なぜなら、攻防一体の魔法を東三条さんが使えたからだ。

 短距離テレポートを使えば初見なら行けたか? 

 だけど空間魔法は見られるわけにはいかない。

 そう考えると、本当に難しい戦いだったように思う。


 

 「蒼月君お疲れ様ー」


 「あおっちとひがしっちヤバすぎだし!」


 「凄かった!」


 俺たちは先ほどの戦いの感想を言い合ってその後に帰路についたのだった。



 






 ――――――――――――――――――――――――――――

 まさかこの時の対戦が今後に多くの事態を引き起こす結果になろうとは、

 この時の矜一はまだ知らない。


以下ステータスです。(ジョブとスキルで同じ技を覚える事がありますが、その場合は両方を持っていると威力が少し上がります)

 

<名前>:東三条 天音

<job> :魔法戦姫(マジック・バトル・プリンセス)

<ステータス>

 LV  : 18

 力  :C

 魔力 :B

 耐久 :C

 敏捷 :B

 知力 :C

 運  :B

 魔法 :氷結魔法2

 スキル:直感5、剣術5、身体強化1 カリスマ1



<名前>:蒼月 矜一

<job> :魔法剣士

<ステータス>

 LV  : 20

 力  :B

 魔力 :B

 耐久 :B

 敏捷 :B

 知力 :C

 運  :D

 魔法 :生活魔法5、基本属性魔法(火2・水2・風2・土2・光2・闇2・無2)、回復魔法1、空間魔法3

 スキル:剣術4、体術3、槍術1、杖術1、危険察知2、気配察知2、気配遮断1、空間把握2、魔力制御3、ステータス偽装1、孤独耐性1、暗視1、身体強化2、思考加速1


↓(偽装後)


<名前>:蒼月 矜一

<job> :剣士

<ステータス>

 LV  : 6

 力  :D

 魔力 :E

 耐久 :D

 敏捷 :D

 知力 :D

 運  :E

 魔法 :なし

 スキル:身体強化1


 

 

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