第79話 悪徳セールス

 職員室から出ると休憩時間の残りも少なく桃井先生へ会いに行くのは相談した結果、放課後という事になった。

 後で念のために端末で放課後に伺う事を桃井先生に送っておこうと思う。

 桃井先生はどこかのクラスの副担任ではなく、1組から5組全体の副担任と最初に紹介を受けた時に聞いていたのでさっきの冴木先生の話でその意味を納得した。


 ほんとは1-5組の担任だったのに冴木先生が急遽、担任になったせいで格下げされてしまったんですね……。

 入学式の時は1組にいたらしく、クラスを1日ずつ回り紹介を受けたのは5組は一番最後だった。

 

しかも基本的に後ろで冴木先生の話を聞いていただけで、その後もほぼ会う事がなかった人だ。

 ただ、小柄なのに巨乳だったので、クラス内では割と人気があっていつだったか何もない所でこけるという天然さを発揮した挙句、ピンクのパンツをその時に露出した事で5組ではピンクちゃんと呼ばれていた。





 

 午後の授業を終えて放課後になると、俺たちは3人で集まって桃井先生のいる準備室に向かう。

 引き戸を開ける前に念の為にコンコン(引き戸についているガラスの音で実際はバンバン)と叩いてから中に入る。


 「失礼します」


 目で桃井先生を探すとちゃんといてくれたようで安心する。


 「5組の生徒さんだったよね? それで話があるってなぁに? (男の子から話がある、放課後に。って言われたら告白と思うでしょーが。何で女子がいるのよぉ ボソッ)」


 「実は桃井先生に今度作る同好会か部活の顧問になってもらいたくて話に来ました」


 「はい、無理。お帰りはあちらよぉ」


 部活の顧問を切り出した瞬間に断られ、出入り口を手のひらで指し示された。


 「いやいや、もっと聞いて下さいよ!」


 俺はつい友人に言うように……突っ込む。

 ツッコミができるほど気安い相手はまだいないけど。


 「いやぁ~。なんでわざわざ仕事を増やさないといけないのぉ? 最初はこんな窓際にやられて嫌だったけどぉ、もうなんかこれはこれで給料を貰えるならラッキーって思ってねぇ。だから、お帰りはアチラよぉ」


 冴木先生と同じでこの先生も本音をぶっちゃけるな。

 仕方ない。

 ここは冴木先生から授かった策を使うとするか。


 「先生、そんな事を言って良いんですか? 俺は知っているんですよ。今年は良いとしてもずっと副担任だと解雇されちゃうんですよね? そこに付け込んで学年主任や他の先生、挙句には教頭からも色々・・と誘われているそうじゃないですか」


 俺は黒い笑みを浮かべながら色々・・と誘われているという所を強調して話す。


 「な、何を言っているのかなぁ?」


 そう言いながら桃井先生は腕を胸の下で組み……おっぱいを強調する。

 いや! ただ腕を組んだだけだろうけども! そういう所だろ! 誘われるのは!!

 視線がどうしてもそこへ行ってしまう。

 くっ これは何かのトラップなのか?


 俺はそれを避けるために横を向くと葉月さんと目が合った。

 そしてその目はこう語っていた。クズがっ! と。

 ああ……葉月さんスマートだから……。


 「……蒼月君? 何か私に言いたい事があるの?」


 葉月さんが俺に言葉を向けてくる。

 いや、視線を逸らしたらこっちを見られていてクズのように俺を見ていたのは貴女ですよっ! 


 「う、ううん?」


 「そう」


 ふぅ。

 気を取り直して俺は桃井先生の方を向く。

 桃井先生はまだ腕を組み立派なものを強調していた。

 これもう凝視して話そうかな。


 「先生は副担任として一定の成果を求められてますよね。でも今の状態ではする事がない事もまた事実。そこで主任や他の教職員から体を目当てにされて、交換条件で良い評価を貰えるといった所でしょう?」


 「そ、そんなこと……。しかもその今にも見てきましたという様な顔はなんなのよぉ。確かに親睦会の飲み会に誘われて行く度に二人きりになろうとか評価の話をしてくる先生方は学年主任を筆頭にいる事は事実よぉ。でもそれを何で知ってるのよぉ」


 ふっ それは冴木先生が自分が顧問をしたくなくて俺にリークしたからですよ!

 俺はそこで手もみしながら悪徳商人の様に話しかける。


 「そこで、ですよ先生。部活の顧問をやって実績を作るというのは。確かに出来立てだと実績も何もないと思うかもしれません。ですがしなくても良い仕事を増やしてまでやるという気概や部員をまとめるという事はクラスをまとめるという事と同じ! そこを実績として強調すれば良いんです」


 「う、うーん。確かにそうかもだけどぉ。でもめんどくさいのは嫌よぉ」


 あと一押しだなと思い俺は畳みかける。


 「大丈夫です。特に何か指導をしてくれる必要もなく、先生は名前だけを貸してくれたら良いんです。それに外部出身という事でイヤミも良く言われるんですよね? そういうイヤミや行きたくない先生同士の付き合いを断るのに顧問の仕事があるというのは最適だと思いませんか?」


 桃井先生の組んでいた腕が解かれ、少し前かがみになってきた。


 「た、確かに。嫌な誘いを断るには良い方法かもしれないわぁ」


 そうでしょう。そうでしょうとも。


 「それと桃井先生がもし俺たちの顧問をしてくれたら冴木先生がその評価を校長に言ってくれるって言ってました。現役A級探索者のお墨付きですよ!」


 俺は冴木先生の了解は取ってはいないが、桃井先生を俺たちに売ったのは冴木先生なのできっとこの話をすれば校長辺りに桃井先生の良い話をしてくれるはずだ。


 「さ、冴木先生が!? そ、それならやろうかしらぁ? 玉の輿いけちゃうかしらぁ。校長先生も渋いのよね」


 玉の輿はどうでしょう? 

 それに校長先生はさすがに既に結婚してるだろ? してるよね!?


 「きっといけると思いますよ! そう言えば桃井先生の事が気になるって言ってました!」


 「!! わかったわぁ! 私、貴方達の顧問やりまぁす!」


 キター!! ふう。

 一仕事終えた俺は一杯やりたい気分だよ。


 「あざまっす! では追って連絡しますので宜しくお願いします」


 「はぁい。冴木先生にも宜しくねぇ」


 「勿論です。桃井先生のチョロ……勇姿は冴木先生に言っておきますね!」


 俺と桃井先生は満面の笑みを浮かべて握手をする。


 「では失礼します」


 俺たちはそう言って準備室を退室した。

 途中から七海さんと葉月さんが一切発言をしなかったけど大丈夫だろうか?

 俺は退室して少し経った後で後ろをついて来ていた二人をみる。


 「蒼月君……訪問販売とかしたらトップセールスを記録するんじゃないのー?」


 七海さんの口からセールスの話がなぜか飛び出して、しかも俺への評価が下がったように感じる雰囲気だ。


 「ちょっとビックリ! 大体、冴木先生が校長に良いように言ってくれるとか絶対そんな事を冴木先生はいってなかったよね!」


 葉月さんもなぜか俺の評価を下げた感じで冴木先生の話をしてくる。

 いやいや、顧問が見つからないって話から桃井先生を乗り気にしてゲットしたんだよ? 

 正直すごく褒められると思っていたのに意外だ。


 「訪問販売とかは知らない人とはあまりしゃべりたくないから無理かな……。冴木先生は桃井先生の事を教えてくれたのが冴木先生なんだからきっと大丈夫だよ」


 「もー、そんな安請け合いみたいな事してしらないからねー」


 「そうよ!」


 「まぁまぁ。とりあえず顧問も決まったしどういう部活にするか考えようよ」


 俺はそう言って二人をいなすのだった。







 


 

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