第75話 婚約者
次の朝、登校中に俺は椿に話しかける。
「昨日1勝したみたいだよね。おめでとう」
俺は昨日の夜に端末でクラスメイトの戦績を確認していた。
それによると九条レンが2連勝、一ノ瀬さんと椿、そして堂島君が1勝1敗と1-4クラスから合計で5勝を挙げていたのだ。
「……ありがとう。でも学年ランク1位に言われると煽られているのかと思う人もいると思うから他の3人には言わないで」
今後対戦予定が基本的にないので3日天下の学年ランク1位の事を椿に言われる。
煽るようなつもりは当然のことながら一切ない。
でもネガティブな時はそう思えてしまうのかもしれない。
「ごめん。わかったよ」
「それよりも東三条さんとはどうだったの? 矜一が帰ってから二人の話題で持ち切りだったよ」
「特に何も……。東三条さんの家に行っておしゃべりして帰っただけかな?」
「そうなの? クラスだと東三条さんの戦いが見られるって盛り上がってたけどやらないのね」
「新入生代表だよ? 俺は勝てない戦いはしない(キリっ」
「そう……」
クッ……。
カッコつけてみたのに……。
「でも昔の矜一ならもしかしたら……(ボソ」
「え? なに?」
「……いいえ、さあ行きましょう」
「うん」
教室に入り席に座る。
引き戸をあけてすぐ席があるって最高だね。
もし俺が逆側の窓際主人公席なら「おはよー」とか「ちわー」とか言いながら入る面倒さがある。こちらなら帰りもすぐに廊下だ。
それにこの廊下側は物理的にたむろできないのがまたいい。
主人公席みたいに仲間でワイワイたむろできる空間がないからね。
ここでたむろすると通行の邪魔になるからね。
ボッチには最高。
もうボッチではないけどね!
ただこの場所の弱点は休憩時間や放課後にもたついて支度をしていると、「ちょ、邪魔」なんて言われることくらいだ。
「あ、あおっちー。昨日は東三条さんとどうなったのー?」
一人で最下位席を堪能していたというのにそれを壊す声がやってきた。
「猪瀬さんおはよう」
「おは~☆ それでどうだったの?」
「どうもなにも、特におしゃべりしただけ、みたいな?」
「え~? そうなん? でも対戦申し込みに来てたんだよね?」
確かに放課後に東三条さんが来た時は俺に対戦申し込みに来てたはずが、一度断ってから彼女の家で話していた時も特に対戦の話はでなかった。
「そうなんだけど学校で断った後は普通に会話しただけだったよ」
「なんだ~。面白そうな対戦が見られると思ったのに」
「いやいや、どういう面白さか分からないけど相手は新入生代表だからね」
「でもあおっちの戦い見てたら1-4クラス相手にあんなに余裕だったからわからないじゃん!」
「1-4クラスとの対戦はこっちを完全に舐め切ってたからね。油断大敵」
「あたしも今日勝てたら良いんだけどさぁ」
今日の放課後はクラスの残り半分が1人2戦する事になっている。
「昨日は何人か勝てたみたいだし猪瀬さんも頑張ろう!」
「おー!」
そうこうするうちに放課後になった。
今日は七海さんと葉月さんの対戦があるために、一緒に闘技場へ行こうと声をかける。
「七海さん、葉月さん一緒に行こう」
「「うん」」
俺は席から少し二人の席の方へ寄って話しかけていると出入口から声がかかる。
「蒼月はいるか!」
まさかまさかの2日連続で俺へのお客だ。
俺はそちらを見るとキョロキョロしていた男と目が合った。
「テメーかっ! 俺の
俺はそう言われながら胸倉をつかまれて持ち上げられる。
即座に俺は思考加速を発動し状況を判断しようとした。
そもそも天音が誰か分からない。
そして胸倉を掴んでくるという行為は既に一触触発どころか攻撃を受けていると判断して良いだろう。
だけど、胸倉を掴むという行為自体が相手が俺を一方的に攻撃ができると判断している事になる。
俺は一時的に脱力する事で体の重心を下げ相手の体勢を崩すと左腕を掴まれている相手の腕の内側に回して振りほどく!
さらにそこから相手の顔面を目掛けてストレートを放った。
「おやめなさい!」
俺はその声を聞き、自分の拳を相手の鼻先で止めた。
「く、くそっ テメー!」
男は俺がパンチを止めた事に舐められたと判断したのかいきり立つ。
「だからお止めなさいと言っているでしょう?
俺はこの喧嘩を止めた東三条さんに顔を向ける。
「ごめんなさいね、蒼月君。貴方と昨日おしゃべりした事を真一さんに話していたら急に怒り出してしまったのよ。ほら、謝って自己紹介なさいな」
東三条さんは俺に謝ると、俺の胸倉を掴んだ男へ謝罪と自己紹介を促す。
「クッ。俺が何でこんなやつに」
「真一さん?」
「う、俺は
「蒼月 矜一です。いきなり喧嘩腰で掴むのはやめて下さいね」
取り敢えず言いたい事は言っておく。
「あ、蒼月君。大丈夫なようで良かった。でも私たちもう行かないと……」
七海さんから声が掛かる。
そうだった。
彼女たち二人はこの後に対戦があるために俺に付き合わす訳にはいかない。
「ごめん、七海さんと葉月さん。話を終わらせたらすぐに観戦に行くから」
「「うん」」
そう言うと二人は早足で闘技場へ向かっていった。
そして俺たちを興味深げに見ていたクラスメイトも対戦がある人たちは移動していく。
「蒼月君、お取込み中だったようね? ごめんなさいね」
東三条さんがそう謝るが、こちらとしてはなぜ絡まれたのかが分からない。
「それよりもどうしてこんな事をしてきたの?」
俺は鏡 真一になぜ突っかかって来たのかを聞いた。
「そりゃあ、天音には俺がいるというのにお前が出しゃばるから!」
「え? どういうこと?」 「痴情のもつれ?」
まだ残っているクラスメイトがざわつく。
とりあえず天音さんというのが東三条さんの事だという事は分かったが、出しゃばるとは一体どういう事だろう。
「ですから真一さんの勘違いだと言っているでしょう? そもそも
「「ええええ!」」 「椿、本当なのか?」
クラスが今まで以上にザワついた。
まだ残っていた椿をクラスメイトが注目する。
端末で何やら送っているやつさえいる。
いや誤解だから!
九条が椿に本当かどうか聞いているが、椿はなぜか答えない。
どうしたんだ椿。
いつものあの冷たい感じの表情で早く否定して誤解を解いてくれ。
「私様が自ら陣頭指揮をとって調べましたもの。毎朝ご一緒に登校もしている仲ですよ。わざわざ聞く事は無粋でしょう」
東三条さんが追い打ちをかける。
陣頭指揮をとって俺の事を調べたって……。
「そ、そうなのか。心配させやがって」
鏡君が納得しているが……、こっちは何にも納得できる事がなかったんですけど!?
俺はそう思い椿を見るが一向に椿が口を開く事はなく、さらには九条たちを振り切って帰ってしまった。
これもう明日のクラスの話題確定だろ。い
やまだ今日の1-4のクラスの対戦結果次第ではそちらが一番の話題だろうか。
七海さんと葉月さんは確実に勝つだろうし。
クラスメイトの対戦をただ観戦するだけの予定だった放課後が、とんだスキャンダラスな午後になってしまったものだと俺は現実から逃避するのだった。
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