第43話 優しさは誰のために
「ただいまー。なんか査定は直ぐに無理だから明日入金だってー」
「お帰り。まあ数があるから仕方ないか」
と言うか魔石を取りだして渡したが、時間を考えるとそのまま魔石込みで査定してもらった方が良い気がする。
血抜きにしても直ぐに持って行く事もあり、ギルドでしてもらう方が効率が良いか?
首を切れば
待たずに移動中、血抜きしながらで良いか。
血がしたたり落ちるホラーだけど。
「とりあえず、こっちと向こうの部屋のマウスの回収をしたらもう一度宜しく。今度は俺がついて行く。今宵は次が沸いたら倒しておいて。魔石は取らずに首を切っておくだけで良いぞ」
「了解ー」
「3人のうち1人はここに残って今宵が倒したマウスを端に寄せたりしてくれ。倒して30分毎に出現するから気を付けてね。まあビッグマウスから襲ってこないから大丈夫とは思うけど」
「私、ついて行きます!」
「じゃあマコトともう一人……。まあ俺とマコトだけでも問題はないのか?」
「お兄さんアタイらはこっちにいるからマコトと行って来てよ」
うーん、確かに2人来ても意味がないか。
「わかった、じゃあ行くぞ」
そう言いながら俺がリヤカーを引く。
「はい。って矜一さん私がリヤカー引きます!」
つい体が動いてリヤカーを引いてしまったが、確かにポーターに任せるべきか?
「わかった。宜しく」
「はい!」
ダンジョン1階層を移動してギルドの素材買取・解体所に到着する。
「おはようございます。ビッグマウスの肉をチームで狩りしたんで売りたいんですが」
「いらっしゃい。おお? さっきも20匹持ってきた子がいたけど今日は早いうちから沢山だなぁ」
「あ、それもウチのパーティのやつです。ビッグマウスの狩りをしているのでこれから何度も同じだけ持ってくると思います」
「なにぃ? さっき20匹持って来てたけど今回も20匹なのか?」
「はい。この後も30分から1時間以内に1~2回は同じだけ昼もしくは夕方までその予定です」
「ほほう。今日は結構、解体の仕事がある事になるなぁ」
「それと、次から魔石は取りださずに持ってこようかと思うんですが、貢献ポイントは魔石込みの買取でも魔石分上がりますか?」
「お、おお。どの道解体する時に取り出すのは手間がそんなにかからないから問題ないし、肉だけでも魔石込みでも貢献ポイントはその分増えるから安心しろ」
「良かった。魔石を取りだす時間が勿体なかったので」
「これだけって事はあの小部屋か。頑張れよ」
「はい」
やはり、あそこの小部屋は知られてはいたようだ。
「査定は直ぐには無理だから此れも明日入金になるぞ」
「はい」
俺は査定前にサインをする。ギルドでこれをしておけば、後日承認する事なく入金される。ただ、査定前に承認する形なのでギルドの査定を信じる事にはなる。勿論、査定金額を見てからサインする事も出来るが、先にしておく方が楽だし問題ないだろう。
「じゃあ、戻ろうか」
「はい」
「そう言えば、マコトはレベル5? 何かスキルとかは持ってたりする?」
あまり聞くのはマナー的に良くはないのだが、ポーターをする以上、実力が分からなければ雇われない事も多いために、ポーターに聞く事は問題はないだろう。
「はい、今レベルは5です。スキルは持ってないです」
まあスキルはないのが普通か。今宵や、ウチの学校の確率がおかしいだけだもんな。
「他の2人も?」
「はい。レベルは5ですがスキルや魔法は持ってないです」
「わかった。ありがとう」
そうだ、折角だし今宵とのパーティについても聞いてみるか。
「そう言えば、マコトって養護施設のためにポーターしてるんだよね? 安全に稼げたらポーター以外もする気はあったりするの?」
「安全に稼げるならそうですね。でも普通にアルバイトは中学生では無理だったんです。多くが高校生からで……。それで中学からでも出来る探索者になってポーターをしている感じですね」
「なるほど。さっき戦ってもらったけど、1階なら安全に稼げると思う。もしよかったらウチの妹と俺がいない時なんかに一緒にダンジョンに入ってもらえたらなと思うんだけどどうだろう?」
「私がですか?」
「いや、マコトだけじゃなく桃香や聡も一緒で勿論構わないよ」
「それだと他の2人にも聞いてみないとわかりませんね」
ふむ。桃香は確実に俺の事が嫌いだろうから無理だろうな。
「もしマコトだけ今宵と一緒にしてほしいって言ったらやってくれる可能性はある?」
「あ、戦い方とかは俺がきちんと教えるよ」
「矜一さんの指導……」
俺が教えるとかおこがましいし、男に教わるのは嫌かもしれない。
「まあ、今日帰るまでに考えておいてよ。ただ、遅くなると今宵はたぶんすぐに強くなるから、ついて行けない程に差がつくと一緒には無理だから」
「わかりました。今日帰るまで考えておきますね」
「うん。宜しく。折角だからビッグマウスを倒す時はさっきしたように沢山戦って経験しておこうか。今後のためにもそれの方が良いと思う」
「はい。矜一さんは何でそこまで優しくしてくれるんですか?」
優しい? 俺が? ダンジョンに来た直後は明らかに3人とは溝があったし今でも打ち解けられている気がしない。
ただ、ポーターの仕事をするために探索者に声をかけている姿が、俺の学校での状態の様に思えて抜け出せるならその方が良いと思っただけだ。
「うーん。俺は出来た人間ではなくて失敗続きなんだけど、ダンジョン前で3人が頑張っている姿を見たら俺も頑張ろうと思うし、こう言うと嫌な気持ちにさせるかもしれないけど、何処か俺の状態に似てる気がしてね」
「矜一さんと私たちが似ている……。でも矜一さんはエリート高生ですよね」
高校生にエリートという言葉は何か似合わないなと思いながら、自分がエリートと想像すると苦笑が漏れる。
「世間から見ればそうなのかな? まあその中でも落ちこぼれなんだよ」
「そんな! そんな事ないと思います。私を助けてくれたのは矜一さんだけでした」
ああ、あのポーションの事か。
あれにしたって話した事がある子たちが困っていたから素通り出来なかっただけなのだ。
「全く知らない人という訳でもなかったからね」
「あ、お兄ちゃん!」
話しながら移動していると、今宵がこちらを発見して手を振っていた。
俺は手を振り返してマコトに言う。
「ついたね、奥の部屋からビッグマウスを乗せて行こうか」
「はいっ!」
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