第42話 ノーパンクアルミタイプ

 重い空気はあまり改善されていないが、30分程かけて何時もの小部屋に到着する。


 「これから、ここのビッグマウスを今宵が倒すから、倒したら魔石の回収と血抜きをしてリヤカーに積んでほしい。積載荷重は300kgで20匹が丁度積めるかどうかだと思う。ここを倒したら直ぐに次の部屋へ行くからそこで丁度20匹で何度も往復してもらう感じになるけど、お願いするね」


 買ったリヤカーはワンタッチ折り畳み式のノーパンクアルミタイプだが、積載量が多く、ダンジョン仕様になっている。


 ただ、これだけの仕様でもオーク一匹では積載荷重をオーバーしていて積む事はできない。

 一匹500kgから600kgと重い。

 本格的なリヤカーなら当然に載せる事ができるけど、デカいし高いのだ。


 「そう言えばビッグマウスの血抜きと魔石の取り出し方は3人ともわかる?」


 ポーターをしているから最初から出来ると思って指示していたが、念のために聞いてみる。


 「大丈夫です」

 「じゃあ今宵、こことあっちの部屋お願い」

 「わかったー。行って来るね」


 スタタタッ ザンッ


 「倒したからあっちも行って来る~」

 「了解」

 「す、すごい」

 「じゃあ2人はここで血抜きと魔石取り。魔石は集めたら後で俺に渡してね。死体を集めて置いてくれる? ここで少し待っていてね。もう一人はリヤカーを引いてついて来て」


 30分以内に戻らないと2人の前にビッグマウスが沸いてしまうので、それまでに向こうを終わらせて戻ってこなければならない。


 「じゃ、じゃあ私がついて行きます」


 そう言うとマコトがリヤカーを押してついて来た。


 「あ、お兄ちゃん。今血抜きして魔石を取りだしてる所」

 「あいあい、じゃあ少しだけ待ったらこの端のマウスから積んでいこうか」


 しばらくして10匹を積み込むと、最初の部屋に戻る。

 そこでもう10匹を積み込み魔石を受け取る。


 「じゃあ悪いけど、桃香ちゃんと聡君でギルドに持って行ってくれるかな? 今宵はついて行って俺たちのパーティで卸しておいて。昨日行った方じゃなくて、ギルドの方ね」


 一応昨日はギルドの素材売り場の話や使い方も話しておいたから俺がついて行かなくても大丈夫と思う。

 マコトを残して他の二人に最初に行ってもらうのは、あの姉弟のどちらかだとまだ会話を続けられる気がしなかったからだ。

 妹なら……妹ならあの雰囲気をなんとかしてくれる!


 俺はリヤカーに外から何が積んであるか見えないようにシートをすると、移動する様に促した。

 血が隙間から滴り落ちているが……、到着する頃には丁度良く血抜きされている事だろう。


 「じゃあお兄ちゃん行って来るね。二人ともいこっ」

 「わかった」


 そう桃香が言うと、聡君がリヤカーを引いて行った。

 と言うか弟君全く喋らないな。

 急に切れたりしないよね? まあ切れたのは俺か。


 「今回はマコトに残ってもらったけど、同じように行ってもらう感じになるけど大丈夫?」

 「は、はい大丈夫です。でもたったこれだけの時間で20匹も倒している人を見たのは初めてです」


 あー、俺もこの部屋を見つけた時にはビックリしたもんなぁ。

 実際にはここを知っている人はそれなりにいるはずだけど、1階層で狩りをする人は少ない事と2階層に行くまでの主要な道から大きく反れている事からわざわざ来る人がいないのだろう。


 でも今日みたいにリヤカーで3人くらいで往復するなら、かなりの稼ぎになるだろう。


 「1階層で狩りをする人自体少ないしね。マコトはビッグマウスを倒した事はある?」

 「私ですか? 実はないんです」


 ポーターと言う役割からもしかしたら倒した事がないかもとは思っていたが、やはりか。

 簡単に倒せると分かれば、3人ひと塊でしか動かないという事もない気がする。


 「他の二人も?」

 「聡は最初に来た時やポーターだけに専念しようとする前には倒してました」


 男の子が頑張った感じかな?


 「そうか。1階層に出る魔獣はスライムとビッグマウスでどちらも魔獣の方から攻撃を仕掛けてくる事はない。スライムなんて殆ど見かけないしね。この小部屋は30分毎に魔獣がリポップするから、3人が帰ってくるまでにたぶんこことあっちはもう一度倒す事になるんだけど、俺が補佐するからマコトも倒せるようになってみない?」


 まあ、ダメ元で聞いてみる。

 児童養護施設を出た後や施設の他の人のためにここで倒せるようになっておけば十分生活できると思うからだ。


 「……」


 「怖い? 嫌がらせで言っているんじゃないよ。こないだポーターの仕事で嫌な目に合ったように、それに今回俺も嫌われるような言い方をしちゃったけど、自分たちで倒せればそういう嫌な思いもしなくて良い。理不尽な目に合う必要はないんだ」


 「矜一さんを嫌いになんてなりません! 私に倒せますか?」


 「倒せるか倒せないかなら倒せるよ。倒した時に切る感覚がイヤかもだけど、そこは慣れてもらうしかないかな。じゃあこの剣を持っておいて」


 俺はこっそりともう1本、剣をアイテムボックスから取り出してマコトに渡した。


 「お、沸いたみたい。ちょっと行って来るからここで待っててね」


 俺はそう言うと返事を聞くのを待たずに小部屋に入り、9匹のビッグマウスの首を斬り倒してマコトの居る所へ戻った。


 「じゃあマコト、一匹ビッグマウスを残しているから倒してみようか」

 「は、はいぃ」


 恐る恐るという感じで部屋に入るマコト。

 いや、さっき10匹倒している所を見ているし、今までも他の人が倒している所を見てるよね? 

 今回1匹なんだからそこまで緊張は必要ない。


 「大丈夫。今までだって移動中にビッグマウスはいただろう? ほら、あそこの隅に逃げているからゆっくりと近づいて剣で攻撃してね。剣を振る時は俺が近くにいないか確認して気を付けながら振ってね」

 「は、はい」


 まさかビッグマウスでこれだけの緊張感がこちらに伝わって来るほどとは思わなかった。

 何故か俺もドキドキする。頑張れ!


 そろりとマコトは近づき、俺の位置を確認するとビッグマウスに向き合った。

 マウスはどちらに逃げようかと身を縮こまらせている。


 「や、やぁ!」


 掛け声とともに剣がビッグマウスに当り倒す事に成功する。


 「うん、倒せたよ。頑張ったね」

 「は、はい!」


 今宵も肉を斬った時の感触を最初は嫌がっていたし、その後を見て可哀そうと言っていたから、俺はマコトを少しの間そっとして他の9匹の魔石を取りだす。


 「マコトが倒したビッグマウスもこっちへ持って来て魔石を取りだしてね」

 「はい」


 こうして同じ事を次の部屋でもして少し話していると、今宵たち3人が戻って来たのだった。

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