第41話 狭量

 俺と妹、それと児童養護施設の3人でダンジョンに向かう。

 リヤカーは3人に任せている。

 だって俺ら二人には必要がないからね。


 今宵がなぜかマコトを見てあの人より良いかーとか一人でぶつぶつ言っているのが怖い。

 あの人って誰だよ。まさか椿の事じゃないよね? 

 椿の事は普通に椿ちゃんと呼んでたはずだからね。


 ただ、昨日ギルドで見かけた時に今宵が気づいてたにも関わらずスルーしたのが気がかりではある。

 まあ気にしても仕方がないか。


 「3人は1階層なら単独で動く事はできる? 今日はビッグマウスを倒してその死体の血抜きと魔石取りをして一定数、肉が集まったらギルドに売りに行ってほしいんだけど大丈夫? まあリヤカーを押すのと何かあった時のために2~3人で行ってもらっても良いけど、こちらからは俺か妹のどちらかが付き添う。ただ、3人+1人で移動するとダンジョンに残るのが一人になって血抜きや魔石取りをこっちでする事になって意味がない」


 少し言い方がキツイ自覚はある。

 でも一応お礼でポーターをしてくれると言うのなら、こちらが気を使って多くの事をすると3人といる意味が無くなってしまう。

 ダンジョンに入りそう言って話しかけると、3人は目配せをして話し始めた。


 うーん、今宵のパーティメンバーになってくれたら良いけど、今宵は既に空間魔法も使えて差が現状でも開いているし、低階層のしかもポーターしかしないなら本当に意味がないんだよなぁ。


 むしろ、こっちは全力も出せない上に3人に気を配る必要がある。

 アイテムボックスがある以上、低層でのポーターは必要がない。

 箱庭で訓練する前であれば凄く嬉しかった事なのに、タイミングが違うと真逆になってしまった。


 「できれば3人で一緒に行動したいです」

 「そう……。わかった。じゃあお昼までは一緒にお願いするね」


 午後からは妹と二人で上の階層に行きたい。

 ぶっちゃけ気分が憂鬱だ。


 「はぁ」

 「お兄ちゃん? どうしたの?」


 今宵が俺の溜息に反応して聞いてくる。


 「今宵。はっきり言う。貴重な時間を無駄にしていると思う」


  俺は小声で今の気持ちを今宵に伝えた。


 「え? でも……仕方なくない?」

 「はぁ……」


 俺のせいで移動している皆の空気がなんとなく重い。

 だがこれは俺が悪いのか? 

 完全な押し売りだ。

 お礼と言うなら、邪魔をしない事が一番ではないのか? 


 今宵は既に空間魔法を覚えてしまっているから、少しの空き時間でもステータス偽装を覚えてほしいし、伝えたい事も沢山あるのだ。


 無言で1階層を移動する。

 目的地はビッグマウスがくあの小部屋2部屋だ。

 大体これから行く小部屋にしても、この3人が俺らの居ないうちにここに来れば幾らでも稼げることになり、俺としては秘匿したい情報を晒す事になる。


 妹はそう言う観点から見ても甘すぎるのではないだろうか? 

 まあもうこの1階層は、この3人がこれから狩りをするために教えると思って諦めるしかないか。

 ダンジョン前で彼女たちがまた絡まれたりするよりも、よほど良い事は確かだ。


 「これから向かう場所ではビッグマウスがたくさん出現して、何度もギルドと往復する事になるけど、場所の情報とかは秘匿してほしい」


 俺のせいで空気が重いが、言うべき事は言っておく。


 「お兄さんなんで急にそんな感じになったんだ? アタイ達何かした?」

 「いや、ぶっちゃけて言うと、お礼と言うなら言葉だけで終わってほしかった。これから向かう場所は秘匿したかった場所だし、君たちが知ったらそれだけで稼げる場所だ。他の人には言わないでほしい」

 「なんだそれ。アタイらの事、信用してなさすぎ」


 うーん。俺が場を乱しているのだが、自分の感情がなにかダメだな。


 「ごめん。3人分の時給を払うからここで契約終了で」


 俺はお礼をしてくれている相手に失礼と分かっているのに、3000円を取り出して桃香に渡す。


 「だから何なの? お礼だからお金はいらないって言ってるじゃん」

 「ちょ、ちょっと桃香!」


 「いやだから、お礼と言うならその言葉だけで充分だって言っているだろ? 何でポーションを使って助けた挙句、秘匿してる狩場に連れて行く必要がないのについてこられて文句を言われる必要があるんだよ!」


 「お、お兄ちゃん言い過ぎ。らしくないよ? どうしたの?」


 「いや、言わせてもらう。大体俺達だけなら必要のなかったそのリヤカーの値段だって98000円だ。3人が付いてくると言うから買ったもの。ついてくる必要がないと言ってもお礼だからと言ってついて来て、しかも1階層ですら一人で移動もできず、階層も2階層までしか行けない。他の探索者がポーターとして君たちを雇わないのは、2階層まででは基本的にポーターの意味がなく、1階層で稼ぐ人からすれば払う時給の方が高くなる。お礼をしたいという気持ちは純粋に嬉しかったけど、そのお礼がこちらにとって嬉しくないのならそれはお礼にならないだろう?」


 一度不満を口にしたらもうダメだった。年下の子にこんな事を言うつもりはなかった。でも妹が空間魔法を覚えた今はタイミングが悪すぎる。


 今宵はあまり分かっていないが、空間魔法を覚えるという事はそれだけ危険を伴う事だ。既に壁以外でもスキルを覚えてしまっている。


 他人と関わる前に、一刻も早くステータス偽装を覚えさせたい。

 だけどお礼と言ってついてくるのに、こちらがずっと気を使う。こんな時間は耐えられない。


 「俺に恩を感じているなら、この3000円を持ってもう関わらないでくれないか。ああ、そのリヤカーもあげる。今後のポーター活動に使えるだろう」


 家族の身の安全……、スキルや魔法の秘匿性を考えるとなぜか自分がたもてない。


 「な、なんだよそれ。なんだよそれ! そんな言い方ないだろ。アタイ達は物乞いじゃないぞ!」


 「桃香!」


 「いや、そうだね。3人は悪くないよ。でも、ポーターの役割をするなら荷物を運ぶ事に関して、言われた事はある程度できなければいけない。でも君たちは背負子しょいこを持っているわけでもなかった。どんな荷物を運ぶ想定をしていた? 3人がひと塊でしか動けないというのも、自己防衛には必要かもしれない。でもそれは雇う側からすれば気に掛ける事ではないよね。今回はタダと言うけど、だからと言ってポーターの仕事をするのなら、自分たちの好き勝手していいわけじゃない。でも君たちはそうしたい。だからそれに対して俺は必要がないと言っているだけだ」


 はぁ。なんかもう自分自身の口調も嫌だし、今日の探索自体をしたくなくなってきた。

 ただ、だからと言って訓練を怠る事もできないが……。


 「矜一さんごめんなさい。それでも何かお礼をしたいんです」

 「それならマコト一人で十分だろ? 他の二人は必要がないし、マコトを一人で残した場合に、俺たちが信用できないなら3人で帰ってもらっていいよ」


 そもそもだ。確かに俺の言い方はきついし急のように思えるかもしれないが、ついてくること自体が不要なのだ。


 1階層では問題がないとはいえ、俺がやられたように他人に攻撃を受ける事だってある。

 そこまで考えて今宵の他に3人にまで注意を払うという事はしたくないのだ。


 1階層は魔獣が自分から攻撃してくる事もない。

 その移動に3人全員で移動する必要があるポーターに需要があるだろうか?


 「お兄さん、アタイらは3人で居たいんだ。指示に従うからお礼させてほしい」


 いや、何もわかってないよね。


 「はぁ。倒した魔獣を乗せてギルドに行くのは3人じゃなくて一人か二人でできる? 俺か今宵が付くから合計では2~3人だけど、一階層は魔獣が襲って来ることもないから君達3人全員で行く必要はない。勿論、3人で運ばないと無理な時はそうしてもらうけど、そうでない時に全員で動いてポーターがクライアントをおいていくのはおかしいと思う」


 と言うか、現状だと一人だけ残られても気まずいから嫌なんだけどね。

 しかし本当に俺はどうしちゃったんだろ。

 なぜかこの3人は信用できると思ってたし、仲間として一緒に探索ができたら良いなとも思っていたが、結局は常に3人一緒、単独では動けない。


 こちらの秘密だけ一方的に知られてしまうと状況だけで考えたら……マイナスだと考えてしまった。

 融通が少しでも利けば俺の感情も違った気がするんだけどな。


 3人はひと塊になって話し合っている。

 ここで帰るという判断になったとしてもこちらは一向に構わない。


 「矜一さんの指示にしたがうので、お礼させて下さい」


 マコトが代表して俺に伝えてきた。


 「うん。わかった。じゃあ行こうか。宜しくね」


 途中から俺が本気で言っていると分かったのか、今宵は何も言わず静観していた。  

 すまんな妹よ。

 気を使わせて。 

 俺は自分でも何でこんなにアツくなったのかがわからないんだ。

 根本的には必要のない事を今、したくないというのが大きい気はするけどね。







―――――――――――――――――

今回の話はあまり好かれる内容ではないと思いますが……、主人公は少し強くなっていてもまだ心が強くなれていません。

自分の事なら耐えれても家族に不幸がある可能性を考えるとダメでした。

一章ラストへ向けての展開です。

見守って下さればと思います。


また、ここまで読んでくれている方々、フォロー、応援、星、レビューをくれた皆様にいつも本当に感謝しています。

 


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