第31話 ゴールデンウィーク⑥
風呂を出て食卓に向かう。
「お兄ちゃん出るの遅い! ご飯前に今宵が入れなかったじゃーん」
ステータスを見てスキル取得に時間をかけたせいで、今宵を怒らせてしまったようだ。
「ごめんごめん。レベルが上がったから嬉しくてステータス見ちゃってたよ」
「え! お兄ちゃんレベル上がったの!? わー!! おめでとう!」
「矜一ほんと!? 良かったわね。うぅ」
先ほどまでふくれていた妹が一瞬にして笑顔になって祝ってくれる。
料理を食卓へ配膳していた母親もやって来た。
俺がレベルが上がらなくて困っていたのを家族は知っているので、心から祝福してくれるのだ。
母親なんて泣いてしまった。
「あ、心配かけちゃってたよね。ごめん。でもありがとう」
「お父さんは今日遅くなるみたいだけど、明日の夜ご飯はお祝いね。お赤飯炊かなきゃ」
「わー、やったぁ!」
「あー、赤飯は食べれない訳じゃないけど、せっかくだからすき焼きが良いかなー」
「あら、矜一はお赤飯嫌いだったの?」
「えー? 赤飯にすき焼きで良いよー」
むむっ。
俺はあのパサパサ感があまり好きじゃないんだよね。
でも妹が楽しみにしてるなら仕方ないか。
「じゃあお米とお赤飯、両方炊くわね」
さすがウチの母親だ。
俺のお祝いだから意見を言ってみたらちゃんと意を組んでくれたみたいだ。
そう言えば、どこかの掲示板で『米を食う』って表現で論争があったのを思い出した。
そこでの米を食うというのがおかしいと言う意見は、「生米では食べない。お米は炊くものでしょう、ご飯と言いましょう」と言うものだった。
と言うか、お米を食べると聞いて生米を食べると思う人はどうなの?
普通は思わないよね。
誰かとの会話で「今日の昼ごはん何食べる?」「うーん、麺が良いかな」と言う時に生麺を食べると思う人なんているの?
ラーメンとかうどんやそば、スパゲッティの事だよね。「今日の昼ごはん何食べる?」「うーん、米が良いかな」なら丼もの、定食、お寿司などの事だよね。
パンが好きな人をパン派と言う時に米派の人の事をご飯派と言うの?
そもそもご飯の意味は白米を炊いたものだけではなく、食事と言う意味がある。
そう考えると『米を食う』と言う表現は間違ってないと言う事だ。
でも論争になっているように、指摘を受けると考えさせられることは確かだ。
「矜一? どうしたの難しい顔して。明日は白米とすき焼きよ」
どうやら、思考の彼方に旅立ってしまっていて母親に心配されたようだ。
「ちょっと考え事してた。すき焼き嬉しい」
そもそも言い方なんて通じれば良く、その表現を使う場所ではどちらも通じているんだから否定する必要性がそもそもないんだよねと結論付けた。
その後、妹がダンジョンの話をせがむので料理を食べながら3階層までの話をした。
「明日楽しみだなぁ」
「今宵は初めてだからな。1階層だけか2階層までだな」
「わかってるって。お兄ちゃんが修学旅行の時におみやげで買ってた木刀をかしてよ」
やはり発想が我が妹。
俺も初めては木刀を持って行った。
箱庭の修行があったせいで既にとても懐かしい気持ちだ。
「武器に困ると思って学校でちゃんと今宵用の剣を借りてきたから、それを使えば良いぞ。刃物だから扱いは慎重にな」
「ほんと!? ありがとー!」
「ちょっと矜一。ちゃんと今宵の事、見なきゃダメよ」
「わーってるって。安全第一だよ」
「そう? わかってるなら良いけどね。今宵も気を付けなさい」
「はーい」
今宵は薙刀を持ってたはずだが、それは使わない様だ。
中2の頃までは椿と一緒に習っていて大会には一切出なかったが、なんと当時の椿より強く、出れば3年生を差し置いて全国大会も優勝するかもと言われていた程だった。
それなのになぜか急に興味をなくしたと言ってやらなくなったのだ。
「今宵、今日は夜更かしせずに寝ろよ。ゴールデンウィークでギルドも混雑するだろうから、朝早い段階で登録しに行くぞ」
「ふふ。はーい」
今宵はよほど嬉しいのかニコニコしていた。
お風呂の恨みは完全に忘れられているようで良かった。
俺は食器を片付けて自室に向かうと、探索者協会で貰った小冊子を手に取り今宵に渡しに行く。
俺はその後、少しだけ学校の予習をしてから眠りについたのだった。
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