第26話 ゴールデンウィーク➀

 次の日の朝。

 今日からゴールデンウィークで5日間学校はない。

 昨日家族に俺の体形が驚かれた事もあり、タイミングが良かった。

 5日あれば多少体形が変わっていてもなんとかなるだろう。


 「お兄ちゃん、今日はダンジョン?」


 今宵が朝食を食べながら聞いてくる。


 「おう、ゴールデンウィークはダンジョン三昧しようと思ってる」


 俺は両手を広げて『すしざんまい』のポーズをしながら答えた。


 「良いなー。今宵も連れて行ってよ!」


 そのポーズに今宵はピクリとも反応せずに俺にダンジョンに連れて行くようにおねだりする。

 ア、アレ? 古かったかな? 動揺は悟られないようにしないとな。


 「んー? 良いけどお前、今日は学校だろ?」


 ウチの高校と違って今宵の中学は週6日制だったはずだ。


 「え? 良いの? やったー! じゃあ明日はー?」


 「んー? まぁ良いよ。でも今宵って探索者登録してたっけ?」


 「ううん、まだー」


 「なら明日は朝からまずは探索者登録だな。ウチの高校目指すなら先に入って慣れておくのも良いと思う」


 「わかった! 楽しみ」


 「言っておくけど明日は1階だけだからな」


 「わかってるって。お兄ちゃんは心配性だなー」


 妹と軽口を叩きながら俺も朝食を摂る。


 「じゃあ今宵もう行くね!」


 「おーう。気をつけてなー」


 「はーい、いってきまーす」


 今宵は食器を台所に持っていくと元気よく飛び出していった。


 「朝から慌ただしいやつ」


 「矜一、今宵を連れて行くならちゃんと見とくのよ」


 台所で家事をしていた母親が心配してくる。


 「わかってるって。ご馳走様」


 俺も台所に食器を持っていき、自室へ戻って着替える事にした。

 ダンジョンに行くために防御力のある制服に着替えようとすると、上はダボダボ、下はブカブカという有様だった。


 「これは防御力より行動にマイナスすぎるぞ……。制服をまず学校に買いに行くか」


 ウチの制服は付与がかかっている上に指定のワッペン(東校は蒼龍)があり、このワッペンを関係者以外が付けて着ていると犯罪になるというおまけ付きだ。(OB・OGはOK)


 「しかし、幾らだろう。母さんに……、いや昨日10階層まで行った時の魔石は全て貰っているからそれで行けるか? ただ魔石は貢献ポイントも付くはずだから貰い物だと売れない可能性もあるか」


 魔石の買取が気になったので学校端末でネット検索する。

 この端末は電話も出来るし超万能ツールだ。


 ネット検索によると、探索者協会の隣、素材・解体所の逆側に企業の魔石買取ブースがあるらしい。

 ネットによると貢献ポイントはもらえない代わりに企業が直接買い取るので買取価格が高く、またその時に企業が積極的に集めている魔石の場合は更に買取価格がアップしてると書き込まれていた。


 「まずは魔石を売りに行って、買取価格が低ければ母さんに相談かな」


 俺はダボダボの上着を着て、ぶかぶかのズボンをベルトで固定して買取所に向かった。



 魔石買取所に到着すると、空いている受付があったのでそこへ向かう。

 ここに入る前にアイテムボックスから大容量のスポーツバッグに魔石を入れ替えたが量が多すぎて手に入れた3分の1程の魔石しか入れられなかったので、7階層以上の魔石だけを入れてきた。



 「すみません、魔石を売りたいんですが」


 「はい。こちらでお預かりします」


 受付のお姉さんの指示に従い俺はスポーツバッグをカウンターに載せる。


 「この中の全てをお願いします」


 「わかりました。査定しますのでこの番号札を持って呼ばれたらまたここへお願いします」


 「わかりました」


 回転を上げるためか査定中は一度席を離れるみたいだ。

 受付のお姉さんはスポーツバッグを奥へ持っていくとその後、次の人を対応していた。


 俺は初めて来る場所であるので、興味津々で周りを見渡す。


 「なになに、買取強化中の魔石一覧か」


 壁に貼ってある掲示物に書かれている内容を読んでいく。


 「お、ミノタウロス(ボス)1.5倍買取中!」


 タイミングよくミノタウロスは買取の値段が上がっているみたいだ。

 ミノタウロスには一撃だけ入れた後は倒し方や注意点を聞きながら、矜侍さんが倒すのを見ていただけだったが為になった。


 まあただのパワーレベリングとも言う。

 まさかあれだけ修行して細かく練習していたのに最後がパワーレベリングというのも想定外ではあった。


 矜侍さん曰く、既に基礎は出来ているので実践の雰囲気に慣れさえすれば強さに問題はないという事らしかった。

 寧ろ、下位層でやる時間が勿体ないそうだ。

 各階層で出現する魔獣はボス以外は1回ずつは倒してはいる。


 「38番札のお客様ー。3番窓口までお越し下さい」


 掲示物を見たり、ダンジョンの事を考えていると俺の番号札が呼ばれた。3番窓口に向かい席に着くと、


 「こちらが魔石の買取値段表になります。合計価格に問題がない場合はサインを宜しくお願いします」


 渡された買取値段表を見る。

 合計金額36万2400円。


 次いで詳細を見ると、ミノタウロス18万、オーク&ハイコボルドホブゴブリンの魔石は全て同じ値段で1つ1200円×152個の18万2400円


 まさかの30万円越えだ。

 ミノタウロスは正規の値段なら…ええといくらだ? 

 12万……かな? ちょっと計算が怪しいがたぶん合ってると思う。



 「はい、これで大丈夫です。端末に入金お願いします」


 俺は端末をかざし読み取ってもらう。


 「はい、これで終わりです。矜一君、私今日は18時で上がりなんだけど晩御飯とか一緒にどうかな?」


 「え⁉ 何で俺の名前を?」


 急に名前を呼ばれ、しかもなぜか夜ご飯を一緒にしようと誘われて困惑する。


 「あはは、端末に入金する時に名前とか見なきゃ出来ないからわかるよー。天然さんかなっ」


 何が面白いのか分からないが、お姉さんはニコニコと名前が分かった理由を教えてくれる。


 「あ、ああ。そうなんですね。びっくりしました」


 「あは。で、どうかな? 美味しいお店を知ってるの。その後は矜一君次第で好きにして良いのよ♡」


 う、うーん? こんな綺麗なお姉さんと食事とか正直緊張するから遠慮したい。

 しかも食べ終わったら俺が何処かエスコートするとか無理でしょ。

 カラオケかボーリングくらいしか……。

 それに何よりも今は外食ではなく家で家族と一緒に食事が摂りたかった。


 「すみません、今日は夜遅くまでダンジョンにこもる予定で、その後は家族と食事の予定がはいってるんです」


 「そっかー、残念」


 「お姉さんみたいな綺麗な方に誘ってもらえて嬉しかったです」


 「おー? 蒼月君ってもしかしてたらしなのかなー? 私は美月楓みつきかえでよ。私の番号を矜一君の端末に登録しておいたからまた今度行こうね」


 番号登録? いくら綺麗な人でもさすがに怖い。

 端末をかざした時だろうか? 


 というより、なぜ俺と食事に行きたいのだろう。

 30万もあるから奢ってもらえると思ってるのかもしれない。

 とりあえず、ここは無難に流して帰ろう。


 「はい。楓さん。ではまたです。有難うございました」


 「矜一君またね。何時でも連絡してね」


 「はい、お疲れさまでした」


 俺は挨拶をして退店した。

 30万もあればさすがに制服は買えるだろう。

 俺はお金を手にして学校へ向かうのだった。


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る