第11話*お兄様といっしょ(4)
森の入り口まで引き返し、ふたりは別れた。
何度か振り返ってヨミに手を振るアヤを可愛らしく思いつつ見送り、彼は背後の茂みに視線を流す。
「…そこにいるんだろう?カイト」
わずかな沈黙の後、声をかけた茂みの中から舌打ち混じりにカイトと呼ばれた獣人の少年が姿をあらわす。
「はじめから気づいてたくせに、俺だけ泳がせるのやめてくれない?ムカつくから」
ヨミがダガーを投げつけて隠れ潜んでいたプレイヤーたちを追い払った時、カイトは的から外されていたのだ。
手っ取り早く何らかの範囲魔法を使わなかったのは、カイトにも攻撃がヒットしてしまうからだろう。
「気に障ったのならあやまるよ」
「いいよ、余計にムカつくから」
せっかく今度こそヨミの索敵をくぐり抜けたと思っていたのに。
獣人の少年はライフル銃を手にしている。彼はガンナーだ。
ヨミをつけ狙うプレイヤーのひとりだが、それとは別に、プレイヤーキラーキラーでもある。
「掲示板でも噂になってたし、何の酔狂かと思って見てたけど、あの子と兄妹になったの?『お兄様』とか呼ばせてたけど。それにしても…相変わらずやることがえげつないよね。ブリュンヒルデをあの子に渡すなんてさ」
「見てたのかい」
「わざとらしいな。あんたが俺に見せてたんだろ。他は追い払ったくせに」
「あぁ、彼女にアレを渡すところを他の連中に見られたくなくてね。君は口が固くて、ランカー争いにも興味がない。実力もイモの中では最も見所があるから見逃しておいたよ」
「ウエメセすぎて褒められてる気がしないんだけど」
「そうかい?僕は褒めているつもりなんだけどね」
「それで、見所のあるイモになんの用?」
ヨミはここではじめてカイトを振り返る。
「君も知っての通り、すでに攻略サイトや情報掲示板では件のドラゴンや彼女の存在が噂にあがっている。今日僕が彼女と接触したことで、これらのことは拡散され、確定事項となって伝わるだろう。とすれば、僕だけではなく、僕への意趣返しに彼女をつけ狙う輩も出てくる。ブリュンヒルデを渡しはしたが、どうも彼女に使う意思はなさそうだ。僕が傍にいる間はいいけれど、不在時を狙われては困る。そこで、君を雇いたい」
「つまりあの子を護衛しろってこと?」
「あぁ。一種の保険にね。ただし、あくまでも影の存在でいてほしい。悪質なプレイヤーは裏でキルしてもらって構わない。君の得意とするところだろう?…もちろん、報酬はリアルマネーだ」
「いいよ、乗った」
カイトは承諾する。
カイトも古参プレイヤーだ。ヨミとは馴れ合わない程度に交流があり、彼は時折、ヨミから報酬を受け取り、オーレリアン・オンライン内でのリアルマネーが絡んだ仕事を請け負っている。
「追跡のため、君のアドレスに彼女のIDと日常生活形態予測から割り出した平均ログイン曜日と時間を教える。次に彼女がログインした時点から、仕事開始とする。契約期間は僕が終了を告げるまで。いいかい?」
「わかった」
カイトは頷き、続ける。
「これって公式からの嫌がらせなんでしょ?公式のランカーに対する嫌がらせは今に始まったことじゃないけどさ、無関係のプレイヤーを巻き込むなんてらしくないよね。ヨミ、なんか知ってるんじゃないの?」
「さぁ?僕は彼らのすることもいちプレイヤーとして楽しむだけだよ。ただ、僕への嫌がらせに巻き込まれた彼女が不憫だからね…できうる限りの対応はしたいと思っているよ」
「あんたを
あの子の人間性を試すように、あんなチート武器を渡したりしてさ。
カイトは慣れた口ぶりで嘲笑し、姿を消す。
彼の態度にヨミが気分を害することはない。
「性格が悪い自覚はないのだけどな」
微苦笑しながらヨミは一歩を踏み出す。
ヨミと相対する女性プレイヤーは(時には男性プレイヤーも)、大概が落ち着きをなくし、心を惑わされてしまうものなのだが、アヤは戸惑いを織り交ぜつつも、どこか冷めた目でヨミを見ていた。さほど物怖じもせず、厄介、とばかりに。
少し気を持たせて操った方が扱いやすいかと思ったが、存外アヤの態度は揺るがなかった。おそらく、ヨミより年下の少女であるはずだが……中々手強いかもしれない。
「面白い。まぁ、好かれていない方が、僕としては遠慮なく甘やかせて楽しいけどね」
妹という新しいおもちゃを手に入れた高揚感にヨミは薄笑みを浮かべた。
よもや、アヤに天然属性と判断されていたとはつゆほども思わず。
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