16.お昼寝の後に④

「……わかるの?」


 リルフは、私に対してそのようなことを聞いてきた。そのいじらしい様子に、私は可愛いと思わずにはいられない。

 だが、私はその考えをすぐに振り払う。リルフは、真剣に聞いているのだ。私も、真剣に答えなければならない。


「わかるよ。あなたの雰囲気は、前の姿と変わっていないもの」

「そ、そうなのかな……?」

「うん」

「あうっ……」


 私は、ゆっくりとリルフの頭を撫でた。すると、リルフは気持ち良さそうな顔をする。

 その様子を見て、私は思わず笑ってしまう。本当に、あの小さかった姿と変わらない仕草だったからだ。


「まあ、あなたがリルフであることはいいんだけど、問題はどうして、この姿になったかだよね……」

「あ、うん。そうだよね……」

「あなた自身にも、原因はわからないの?」

「わからない……ごめんね、お母さん」

「別に、謝らなくてもいいんだよ。リルフが悪い訳ではないんだから」

「うん……」


 リルフが、どうしてこのような姿になったのか。それは、謎である。

 だが、この子は元々不思議な生き物だった。この現象に関しても、あまり考えても仕方ないのかもしれない。


「それにしても、お母さんか……」

「あっ……嫌だった?」

「そういう訳ではないよ。ただ、そう呼ばれたことは、今までなかったから、少し驚いただけ」


 お母さんと呼ばれて、私は少しむず痒い気持ちになっていた。そう呼ばれたことはないので、なんだか不思議な感覚だ。

 というか、リルフは私を本当に母親だと思っていたようである。刷り込みの話は、本当だったようだ。


「さてと、あなたの姿が変わったことを、とりあえずエルッサさんに知らせるべきかな……あ、その姿なら、厨房に入っても、問題ないかも」

「そ、そうだね……」

「……リルフ、ちょっと待って」


 布団から出ようとしていたリルフを、私は引き止めた。その姿を見て、そうせざるを得なくなったのである。

 リルフは、一糸纏わぬ姿だったのだ。考えてみれば、リルフは何も着ていなかったのだから、それは当然のことである。

 前の姿なら、それは問題なかったのだが、今の姿では大問題だ。とりあえず、服を着てもらう必要がある。


「今、服を出すから、それを着て……あ、リルフは、男の子なの? 女の子なの?」

「わからない……」

「わからない……そっか。まあ、私の服は女物だから、男の子だったら我慢してね?」

「それは、大丈夫。男物も女物も、よくわからないから」

「そっか……」


 リルフが、男の子か女の子か、それは本人にもわからないようだ。

 この子には少々悪いが、着替えの時にそれとなく確かめてみるとしよう。人間の姿であるなら、男女の違いもわかるはずだ。

 こうして、私はリルフに服を着せるのだった。

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