第49話 精霊の湖

野宿なのに宴会をした翌日、俺は早朝から料理を始めた。どうせこの人達二日酔いでしょ?だから朝は食べやすい薬草スープのうどんを食べさせようとうどんを捏ねていた。


《主は何を作っているの?》


「うどんだよ」


《うどん?パンを作る工程に似てるの》


「まあ作り方は近からず遠からずって奴かな」


俺は丸くした捏ねた小麦粉に固く搾った濡れタオルをかけて小一時間ほど寝かせる。

その間にスープを仕込んでいく。二日酔いに効く薬草の組み合わせであっさりスープを仕込むのだ。

出来たスープを一旦冷まして旨味をギュッ引き出す。

その最中に寝かせてた生地の玉をタオルで包んだ俺の金槌で平たく伸ばしていく。重量を重くして伸ばして畳んでを繰り返す。遺跡の金槌は魔力で重くなるのでコシを出す為のコネには最適だ。足で踏まなくても重量を掛けれるからね。

生地を均一に伸ばしてから麺切りの工程に差し掛かる。麺切りが終わる頃にはスープが冷えて旨味を引き出した頃だ。そのままゆっくり加熱していく。

その頃になると凄い顔をした皆が起きてくる。スープの香りに引き寄せられるが二日酔いなので体調激悪な様子だ。

俺はそのまま麺を茹でて、茹で終わった麺を水で冷やして洗いながらザルに取り出す。

そのまま適量を器に入れて温かいスープを入れる。いわゆる『ひやあつ』である。

俺がうどんを啜ってると皆も興味津々で見てるので同じのを作ってやる。


「コレは美味いな……二日酔いでも食べられるよ」


「こんな料理は初めてだよ……コレは何という料理なのですかな?」


「コレはうどんって麺料理ですよ。麺の練り方やスープを変える事で色々なアレンジが出来ますね」


起きてきた者から順番にスープを啜ってる。そのうち皆のうどんを食べる速度が上がってゆく。

2杯目を食べる者まで出たので何とか二日酔いから復活させられたようだ。

その後仕度をしてから州都に向けて出発した。

バリグナタ州の州都であるムロルドは後三つの村を超えた先にある。馬を使っているので倍以上の速さで村に向かう事が出来た。


次の村であるセレドラでは先触れが行っていた為に、村長を始めとした村のお偉いさん達にエラい歓迎を受けてしまった。

何かまた宴会になりそうなのでヤバいと踏んで、俺は慣れない乗馬でケツが痛いのでと、疑惑の眼差しで俺を見るアシュのおっちゃんに後は任せて先に宿へと連れて行ってもらった。

アシュのおっちゃんには申し訳無いが人身御供になってもらうとしよう……フフフ。

宿でゆっくりしながら『眼』に村を中を見回りさせる。

香辛料はちょっと高めなのかな?思ったよりも種類は少ない。

他には何もなさそうなのでかなり上空から村の周りを見させる。すると俺達が向かう東の方向に何かが光るのが見える。『眼』にそこまで行かせると湖と言うには少し小さいだろうか、綺麗なコバルトブルーの池があった。

更に高度を下げる様に言うと『眼』はそれ以上高度を下げない。


《これ以上はムリなの》


(ん?何かあるのか?この池は?)


《この池は精霊の縄張りなの》


(精霊?!!そんなのホントに居るのか??ファンタジーキタコレ!!)


《居るに決まってるの》


(じゃあそこ行けば精霊に逢えるのか??)


《止めた方が良いの》


(は?何で?)


《精霊はわがままだから関わらない方が良いの》


(わがまま……って……)


《関わるとろくな事にならないの》


(でもさ、精霊から何か貰えたりするんじゃないか?金の斧とか銀の斧とか……)


《そんな斧好きはいないの。不幸な事なら押し付けられるの》


(それって単なる悪霊じゃねーか!!)


《主は上手いこと言うの》


(なぁ……この世界の精霊はそんなもんばっかりなのか?それならもう精霊じゃなくて良くね?)


《でも精霊には間違い無いの》


「まあ、とにかく面倒事はゴメンだわ。戻って来なよ」


《そうするの》


『……貴様ら先程から無礼な発言ばかりしておるが……余程我を愚弄したいと見えるな……』


えっ……何で俺と眼の会話に入って来てんの??


《だからろくな事にならないと言ったの》


(ちょ、ちょっと……何でこの会話に入って来てんの?)


『それは私の結界内に入って来てるからじゃ』


(……おーい!お前結界内に入ってるってよ)


《……たまたまなの》


(……全部ソイツのせいです)


『……とにかくコイツは預かった。取り返したくばこの湖に来るがいいぞ』


(……眼よ短い付き合いだったな)


《主は見捨てるつもりなの……》


『き、貴様!こやつを見捨てるのか?!』


(だって面倒くさそうだって眼が言ってたから……)


『何とふざけた奴じゃ……せっかく来れば何かを上げようかと思って居たが……』


(それって不幸なヤツですよね?)


『そ、そうとは限らんぞ……』


(ホントに?不幸なヤツで無ければ行きますけど……)


『それは来てのお楽し……』


(さようなら……)


『ちょ!待てよ!!』


(じゃあ良い物なんですね?不幸なヤツじゃないと貴方命かけられます?)


『うぅぅぅ……よ、よかろう……』


ちょっと怪しげだが『眼』をこのままにして置くのも可哀想だからな。俺はアシュトレイおっちゃんに手紙を残してからこっそりと精霊の湖に向かった。


『隠密』を掛けて宿を抜け出した俺はそのまま街の外まで走って行く。何があるか分からんので念の為にフル装備で出撃する。

村の外に出る門には近衛騎士団の人が2人居たが『隠密』を発動している俺には全く気が付かなかった……近衛騎士団としてコレは大丈夫なのだろうか?

とりあえず村を出た俺は『眼』が送って来ていた画像を頼りにジャングルの中を走って行く。途中に魔物と出会したが華麗にスルーしてそのまま湖に向かった。

ったく……何でこんな事させられてんだろう……何か段々とムカついて来たぞ……。

湖に近くなった時、突然結界の様なものを感じ取ったのでストップした。


『ほほう……約束を違えず良く来たな』


「約束は守るタチなんでね。この結界はな〜に?もしかして罠?」


『そ、そんな訳はあるまい……この湖を隠す為だけの物だ。決して貴様を嵌めようとかそのような事は一切か……』

「早く結界解いて」


『……よ、よし……解いたぞ……』


ったく……ボケたバー様の話しじゃあるまいし!早う解けっつうの!!俺はこう見えてとても忙しい身なの!いや……何かマジで腹立ってきたぞ!!ぐぬぬ……。


『こ、心の声がダダ漏れなんだが……』


「聞こえちゃった?まあ、聞こえるようにやってるんですけどね!!」


俺はそのまま湖の方に急ぐ。

すると湖の手前でデカい蛇の魔物が道を塞ぐように出て来た!!


『フハハハハ!!その魔物に勝ったら貴様の……』


俺は話も聞かずに無詠唱で【暴走する理力のスペクターワンド】を左手で握りながら『溶岩弾(マグマバレット)』の3倍弾を連射し大蛇の眼を潰した。素早くスペクターワンドをベルトに差して仕舞うと直ぐに金槌に魔力を込めて蛇の横っ面をフルスイングでぶん殴る!!

蛇の魔物はぶっ飛んで動かなくなった。

そして湖にそのまま到着すると、湖の真ん中に『眼』が捕らえられているようだ。


「さて、『眼』を放してもらおうか。それと今のはどう見ても話しと違う様にしか思えないのだけど?ねえ?どうなの?」


『そ、そんな……あの大蛇は……』


「はーやーくーしーてー!!!」


『あ、はい……ただいま解放します……』


『眼』は解放された様でコチラにやって来た。


《酷い目にあったの》


「まあ、お前は自業自得だけどな!!」


《主がきびしいの……》


「あーたーりーまーえーでーしょーーー!!大体お前は結界が有るって分かってんのになんでハマってんのよ?おかしいだろ?あ?、それに……」


俺がそのままガッチリ説教していると


『あ、あのう……』


「はぁ?何?今色々と忙しいんですけど!」


『き、来てくれたのでな……と、とりあえずお話を……』


《主はもっと冷静になるの……》


「はぁ?それお前が言うの?ねぇ?ああ???」


『ま、まあまあ……こやつも悪気は無かったんだから……その辺で……』


「ん?ちょっと待て……何で俺が悪者になってんだよ!!オマエら2人共ふざけんなよ!!」


『ひっ!!』


「とにかく精霊!お前はとっとと姿を見せろ!!」


カチキレしてる俺の目の前の湖に、正座をしながら湖面に女の精霊が現れた。




◇◇◇◇◇◇◇◇




いつもお読み頂きありがとうございます。

今回はファンタジー王道の精霊回です。

ラダルは随分と激おこですけど大丈夫でしょうか?


皆様の応援を頂きまして星の数やPVも伸びております。本当に感謝しております。

更新頑張りますので宜しくお願いいたします。

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