第34話 キーサリー戦役《後編》

俺達は撤退の時間稼ぎの為にゲリラ戦を行う。先ずは奴らの頭に血を上らせる為に、俺が進撃して来る奴らに『溶岩弾(マグマバレット)』をお見舞いしてやる。俺の狙撃で頭に血が上った馬鹿共が突っ込んで来た所を俺が奪取した魔法銃で狙撃させる。

すると奴らはビックリするだろう。何故俺達と同じ武器があるのか?と。

そしてその後に自分達が圧倒的有利だと思って居たのが自分達も殺される可能性がある事に気づく。ココが狙い目である。

鍛えられた兵士達なら死ぬ事への恐怖に耐性があるから反撃可能だ。だがそうじゃない一般人がちょっと訓練受けました程度でその恐怖に打ち勝てない。つまりパニックを起こす。そこに向かって隠れていた伏兵が襲い掛かる。近距離の乱戦では魔法銃は効力を発揮出ない。

そして敵が引いたら追撃して追い返す。そしてまた俺達は障害物のある場所に引っ込む。

それで戦況が膠着すれば更に時間を稼ぐ。また来るようなら同じ様にやるだけだ。今度はそいつらの置き土産も使って戦えば更に向こうの連中が死ぬ。

勿論、俺達も必死だ。何せ撃たれたら死ぬからね。俺なんか今の膝当ての上にミスリルの膝当て付けたし。

因みに弓兵は志願した連中に魔法銃を持たせて魔法兵と共に待機だ。

歩兵と槍隊は両側に散って潜んでいる。騎馬隊は乱戦に持ち込んた後で横っ腹から突っ込んで離れる予定。

かなりのリスクがある戦い方だなあ。


俺はとにかく乱戦前の掻き回し役と乱戦時は的確に敵を沈める。『隠密』を使って秘密裏に敵を倒す。最悪ヤバくなったら敵方に『隠密』を使って入り込み【エナジードレイン】を掛けて3時間くらいついて回れば勝手に大勢死ぬけど…見つかったらアウトだからなぁ…。


帝国軍がこちらに向かってやって来る。今回は1万位はいるのだろうか?

先ずは俺が進撃して来る奴らに『溶岩弾(マグマバレット)』を【暴走する理力のスペクターワンド】を使ってぶち込んでやる。

何人か射程距離外から殺られてビックリした様だが、指揮官らしい奴が怒りまくっている。

思い通りの展開。帝国軍は走って距離を詰めてきた。そして自分たちの射程距離に入って構えようとした途端俺達からの射撃を受けてパニックを起こした。

まさかの敵から同じ兵器の攻撃を喰らうとは思わない。

このタイミングで俺は指揮官に『溶岩弾(マグマバレット)』を撃ち込んでやる。

指揮官が殺られて更にパニックになる帝国軍の射撃隊は逃げる様に下がって行く。

これで落ち着くまでは攻めて来ない。

俺は『隠密』を使い大分前の方の岩陰から立て直しを計っている指揮官らしい奴を狙撃する。射撃隊は更にパニックになりしばらく収集が着かない。

俺は元の場所に戻って、しばらく待つ。

俺のもう一押しがかなり効いた様で、再度攻めて来るまでに3時間以上掛かっていた。


今度は指揮官らしい奴を手当り次第狙撃して行く。すると1人だけ『溶岩弾(マグマバレット)』を防いだ奴が居たのでソイツのいる方向に魔法銃を集中する様に指示をお願いした。

そしてソイツに狙撃が集中するとソイツに隙が出来たので『溶岩弾(マグマバレット)』で仕留めた。

すると帝国軍はまた崩れて撤退を開始した。

どうやら仕留めた指揮官はかなり上の方の指揮官だった様だな。

それからは中々攻めて来る様子も無さそうなので副長が俺達の撤退を指示した。

だが、帝国軍は俺達の左側に回り込んできていた。『眼』の画像で状況を把握した俺は直ちに副長に知らせると「そこはもう手を打ってある」と撤退の命令を出した。

は?いつの間に手を打ってたのか?…俺は再び『眼』に上空から探らせる。

俺達の左側から突っ込んで来ようとする為には急な丘を越えねばならないが、その上にウチの魔法兵がいつの間にスタンバイさせられており、土魔法と水魔法で土石流的な攻撃を仕掛けてかなりの被害を出させていた。つまり敵の動きを完全に読んでこの策を講じていたのだ。

いやはや……ウチの軍師殿はやる事がえげつないなぁ……。


俺達が【転移の森】に入る頃に、ようやく帝国軍が追い付いて来たが、主力はもう既に森の中へ逃げていた。

逃げる際に最後尾の俺に副長は何時もよりしつこく言ってくる。


「良いかラダル、くれぐれも深追いしたりするなよ。何があるか分からんからな!」


「大丈夫ですよぉ〜!任せて下さい!」


「とにかく、タイラーの言う通りにしとけ。分かったな?」


「お任せを!!」


タイラー副長はまだ何か言いたそうだったが、ゴンザレス隊長が引っ張って行った。


……俺はココで最大のミスを犯す事になる。


少しでも相手の戦力を削ぐ為に【エナジードレイン】を使ってこの付近の連中を全滅させようとしたのだ。そうすれば魔法銃も大量に手に入れられるから……。


帝国軍は俺が丁寧に痕跡を消した森の中で何人もの兵が転移で飛ばされてパニック気味だった。俺は『隠密』を使って帝国軍を避けながら【エナジードレイン】を発動させて全員を指定して待てば良いだけだった。もう既に1時間以上経ち、中々奥にも入れずに帝国軍はイライラしている状態だった。

森にいる間『眼』はしつこく俺に転移の場所を知らせて来た。何か信用無いのな……。

俺はとにかく奴らに見つからない様に姿を消しながら時間を稼いでいた。どうやら上手く行きそうだ…ウヒヒヒ。

少しづつ進みながら1時間程進んだ帝国軍に弱る者や倒れる者が出て来る…【エナジードレイン】でやられ始めて居るのだ。

ここまでは計画通りに進んでおり間違いなく帝国軍の殆どを仕留められると思っていた…。


俺は後が楽なので倒れた奴らの武器を集めようと少し移動を開始した。

段々と【エナジードレイン】で倒れる者も出て来ると、恐怖のあまり帝国軍は撤退しようとした。

俺はそのまま帝国軍について行き奴らの息の根を完全に止めるつもりだった。


フフフ……もう少しだな…上手く行きそうだ……。


そんな時だった。

俺が『隠密』を掛けたまま帝国軍兵士の脇を抜けようとしたその瞬間、【エナジードレイン】の効果で意識を失ったその兵士が俺の方に偶然倒れて来たのだ。

俺は咄嗟に避けようと右手後ろに無意識に下がった…いや“下がってしまった”のだ……。

その瞬間、俺の足元に転移の魔法陣が輝き出した!!!


「し、しまっ…」


俺はものの見事に転移させられてしまったのであった。




◆◆◆◆◆




「あの馬鹿は何やってんだ!!」


タイラーがあれ程しつこく余計な真似をするなと言って置いたのに!あの馬鹿は!!

オレは森の中を狩人に案内させて戻って来ていた。

あ〜イラつく…あの野郎タダじゃ置かねぇぞ!


「この先から見れると思いますじゃ…」


オレは下の方を見てみる…帝国軍がフラフラになっている?倒れる者も居る様だ。

何だこりゃあ??一体何が起こってんだぁ??


「どうです?ラダルは余計な事をしてそうですか?」


「…何でお前らまで来てんだ!」


タイラーは部隊を連れて来ていやがった!!

此奴らも馬鹿野郎なのか??


「どうせ何かやらかしてるんでしょ?それなら少し協力してやろうかと思いましてね」


「…チッ、勝手にしろ!」


「それにしても帝国軍の奴らおかしくないですか?倒れる者も出てる様ですね」


「うむ……まさか…アイツ毒でも使ったのか??」


すると突然ラダルの魔力を感じたと思っていたらその反応が急に消えてしまう!!


「何だ?今のは!!??」


「ラダルの魔力が…消えた??ま、まさか!」


顔を見合せたタイラーとオレは一気に走り出した!転移の場所は把握してるが、それよりもあの馬鹿だ!!

フラフラの帝国軍の奴らをぶっ飛ばしながら魔力の消えた場所まで走った!!


「なっ……あの馬鹿野郎が!!」


其処には帝国の兵士が倒れていたその隣りで転移の魔法陣が光っていた…チッ!あの馬鹿が!!飛ばされやがった!!


「こ、これは転移の……ラダルの奴…だからあれ程言ったのに…」


タイラーは膝をついていた…。

クソが!!オレはむしゃくしゃしたのでフラフラの帝国軍のヤツらを片っ端からぶっ飛ばして歩いた。


結果、2000名以上の帝国軍が死ぬか、或いは死にそうになってやがったと後から聞いた。まあ生き残りの奴ら全員にトドメはしっかり刺してやったがな。

こうして俺達は大量の魔法銃を手に入れる事が出来た。ラダルを失った代償に……。



退却が完了して俺達は国境線の警備に当てられた。俺達が持ち帰った大量の奴らの新兵器をここで守備に使うことが出来るからだ。

また、魔道具師達に早急に調べさせて同じ物の製造に当たらせている。

ミスリルの採掘を急がせて防具を作らせるのも鍛冶師総動員で行っている。

コレで帝国軍への備えを万事整えている。


物見櫓に登って遠くを見ていたオレの所にタイラーがやって来た。


「隊長……ラダルはまだ俺達に隠してた能力があった様ですね…それであんな真似をしたのでしょう…」


「フン、全くドジな野郎だ…戻って来たらガッツリお仕置きだ!!」


タイラーは頷きながらこう言った。


「フッ…そうですね…しかし不思議ですね…アイツなら帰って来そうな感じしかしませんね」


そうだ…あの馬鹿ならヘラヘラ笑いながら「恥ずかしながら戻って参りました!」なんて言いながら戻って来そうだ。

あの森の狩人達からは罠にかかった者が帰って来た事は無いと言っていたがな……。


「早く帰ってこい…馬鹿野郎…」




◆◆◆◆◆




主の気配がいきなり消えたの…。


何故か転移の罠にひっかかっちゃったの。

はあ…あれ程注意したのに全く理解不能なの…。

我との繋がる範囲外に…しかもかなり遠くへ飛ばされたのは間違いないの。

でも…我と『生命玉』は繋がっているの…だからそっちの方向へと我は向かう事にするの。

『生命玉』が繋がっている限り主は生きているという事だから仕方ないの。


かなり遠そうなのでどのくらい掛かるのやら我にも分かんないの…。


全く……今度の主は色々と世話の焼ける主なの…。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




いつもお読み頂きありがとうございます。

これにて第一章ラストで御座います。

如何だったでしょうか?

この後、ラダルに待ち受ける試練とは??

はぐれてしまった『眼』との再会は果たしてどうなるのか……。

さて、この後は閑話を三つ挟みまして第二章の開幕となります。

第二章も引き続きお楽しみ下さい。

皆様の応援に感謝で御座います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る