第21話 爆炎のアストレラ
「本当に宜しいのですか?コチラの品で?」
「ええ…何となく…コッチが良さそうなんで…」
「お持ちの品もかなり良いものですが……ではこちらという事で宜しいですか?」
「問題有りません。こちらでお願いします」
クロイフさんに念を押されたが何故かコレを買ってしまった。
遺跡シリーズ(勝手にそう呼んでる)の今回の買い物はガントレットである。
そう、結構良い物を持ってるにも関わらずである。それを知ってるクロイフさんは念押しして来たのだ。
俺も最初はチェーンネックメイルにするつもりだったのよ。コレなら今の俺の身体なら肩から胸元まで覆えるからね。
でも、何故か俺の勘がチェーンネックでは無くガントレットを選んでしまったのだ…。
まあ、このガントレットなら今のより大き目だから小盾的に使えるし、軽さも上なので良いのだけど。
とりあえず、今使ってるガントレットは売りに出す事にした。遺跡の武具はまず壊れないからね。魔力の通りも良くなるから悪い選択では無い…筈なのだけどね…何でガントレットを選んじゃったんだろう…。
「ではこちらをお受け取り下さい。モノは良いものですから安心なさって下さい」
「それは理解してますよ。多分コレで正解なはずです」
「そうですか……ところでラダル様、ハンバーガーの支店を増やす事にしましたが…」
「ほう、支店をですか?大分人気だと聞いてますからね。良いのでは無いですかね…まあ、そろそろ真似する輩が出て来る頃じゃ無いかと思うのですが……」
「ええ、劣化版の様な店が多数…」
「じゃあマトモな相手が出てきて、下手な価格競争に巻き込まれる前に上手く逃げて下さいね。仕入れてしまって何とかしなきゃイケないジャガイモはポテトチップスにして売るって手も有るんで」
「ぽてとちっぷす??」
「ジャガイモをもっと極薄にカットして揚げるとパリパリで美味しいんです。味付けは塩が基本ですのでフライドポテトの在庫が捌けると思いますよ。コレも真似される前に逃げれる様にして下さい」
「早速、やってみる事にしましょう。流石はラダル様…逃げる手も考えているとは…」
「専業で売るならもっとやり方も有りますけどね。劣化版ならまだ大丈夫ですが、マトモな大手辺りが出店して来たら要注意です。価格競争に巻き込まれるのは間違いないので、踏ん張る為には出店攻勢をかける必要が有ります。しかしそれには資金が膨大に必要になるから現実的では無いです。なら、儲けるだけ儲けたらサッと逃げるのが重要です。後は価格競争はあんた等勝手にやんなさいと。残りの少しばかりの利益…つまり尻尾はくれてやれば良いのです」
「尻尾はくれてやれ…ですか。フハハハ!!分かりました。では危なくなる前に仕入れを止めて、その…ぽてとちっぷすに変更して一気に売り捌きます。まだまだ大丈夫かと思いますがね!」
まあ、引くタイミングはクロイフさんに任せれば上手くやるでしょう。って事でテズール商会を出た俺はそのまま『ヘスティア食堂』に向かった。
「いらっしいま…な〜んだラダルかぁ〜」
「な〜んだ、アリシアかぁ〜」
「何よ!人の真似して!」
「自分が言われると嫌な事は人に言わない方が良いよ。客商売なら尚更だ」
「ムッ…」
「はい、アリシアの負けね。キチンとラダル君に謝りなさい」
マルソーさんが奥から出てきてアリシアにそう言った。アリシアは膨れっ面で「ごめんなさい…」と謝ったので許してあげる。
「マルソーさん、お店の方は…順調そうですね。何か足りない物とか有りますか?」
「今の所は大丈夫かしらね。薬草は来たばかりだし…」
「それなら良かった。俺もそろそろ遠征に出るかもなので…俺が居ない時はクロイフさんを頼って下さい」
するとマルソーさんが急に真剣な顔をして俺の手を取ってこう言った。
「必ず無事に帰るのよ。良いわね?」
「ありがとう御座います、マルソーさん」
俺の返事にマルソーさんは困った笑顔をしていた。必ず無事に…とは言えないし、フラグ立つみたいでイヤだからね!
店を出て、行こうとするとアリシアが声を掛けて来た。
「ラダル、ち、ちゃんと帰って来なさいよ!」
「おっ、心配してくれんのか?」
「そ、そんなんじゃないわよ!!」
おっ、コレって伝説のツンデレってヤツか??良いねぇ〜前世を含めて初めて見たかも!
「まあ、おこちゃまが心配する事は無いよ」
「ア、アンタも一緒でしょ!!」
おっしゃる通りでした…伝説のツンデレを初めて見てすっかりオッサン目線になってたわ。
俺は真っ赤な顔をしたアリシアの頭をポンポンとして手を振って別れた。
宿舎に戻ってガントレットの手入れをしてるとシュレンが「また、新しいの買ったのか?」と言うので「前のを下取りで何とか買えたよ」と答えといた。
その後、タイラー副長にはニヤニヤされながら「また変なの買ったな。オマエも好きだねぇ〜」と言われた…解せぬ。
次の戦場はローレシアである。
王国のメンツとしてはやられっ放しは我慢ならないって事でやる気らしい。
もうちょっと国内の方に力を入れないとアカンと思うのだけど…何でこれ程イケイケなのか?
まあ、ウチの侯爵閣下がそのイケイケの急先鋒だから何とも言えんのだがね…。
ヘルサードの方はガッツリやったらしいので其方からの援護は出来ないらしい。
俺達カルディナス軍は宮廷魔導師団の警護に当たる事となった。
宮廷魔導師団は王国最強の魔導師達が率いる魔法のエキスパート集団である。
四名の最上宮廷魔導師、通称【四帥】がそれぞれ上級魔導兵や中級魔導兵を率いて遠隔範囲攻撃を行う魔法の化け物集団である。
先のヘルサード討伐にも参加して大きな功績を挙げたと聞いている。
俺達は最上宮廷魔導師【四帥】の一人『爆炎のアストレラ』率いる炎帥魔導師団の警護である。
宮廷魔導師団は基本的には最上宮廷魔導師と上級魔導兵2人、中級魔導兵が10名の計13名のメンバーである。
【四帥】は上位四属性最強の魔導師の呼び名で”爆炎”、”極氷”、”轟雷”、”地獄”の称号を持つ。そして彼らは炎帥、氷帥、雷帥、地帥とそれぞれ上位四属性で分けられた魔導兵団を率いているのだ。
宮廷魔導師団を間近に見れるチャンスもそうそう無いので今から楽しみである。何しろ全ての魔法兵の憧れだからね!
俺がウキウキしていると隊長がやって来て
「お前、余計な事は絶対するんじゃねーぞ。分かったな?」
「ソンナコトシマセンヨ…」
「見張ってるからな。やりやがったら如何なるか分かってんだろうな?」
また何時もの様に隊長のパワハラを受けて心もボロボロですよ。
それを見ていた副長が苦笑しなから俺の方にやって来て
「最上宮廷魔導師は王家直属だからな、位としては公爵よりも上。仮に何か粗相が有れば直に国王陛下の耳に入る。即刻首が刎られるからな。だから釘を刺しに来たのさ」
宮廷魔導師コワッ!!なるべく近付かないようにしよう…。
そんなこんなで王国軍がやって来るまでフラムンド砦で待つ事になる。
そして2週間もしない内に次々と王国軍がやって来た。その中に炎帥魔導師団も来ていた。
カルディナス侯爵閣下を始めとしたカルディナス侯爵軍が膝を付いて待つ中、『爆炎のアストレラ』ことアストレラ=エルメス=リットバウムがやって来る。
「皆さん、面をお上げ下さい。カルディナス侯爵閣下、お久しぶりですね」
『爆炎のアストレラ』などと恐ろしい称号を持っているが、本人は小柄な赤く長い髪の美人さんだ。でもその魔力は途轍もない…ウチの隊長も大概なのだが、彼女の魔力はその質が違う。属性が魔力にモロに反映されてる感じ…太陽の様な物凄い火力を持っているイメージを感じる。噂以上の恐ろしさだな。…この人はヤバい。
「お久しゅう御座います、アストレラ様。ご健勝のご様子で何よりで御座います。この度の護衛任務を拝命し嬉しく思っております。必ずや我等が盾となりお守り致します故、ご安心下され」
「勿論頼りにしておりますよ。先のローレシア急襲の際の御活躍も聞き及んでおります。見事な戦術に流石は武門の雄だと、陛下も関心しきりでしたわ。しかもあのローレシアの”魔神”ゾード=ラウ=ダルムを一騎討ちにて倒したとか。素晴らしい部下をお持ちで羨ましく思いますよ」
「有能な部下に恵まれました。其処に控えしが我軍のゴンサレス=ルーデビッヒです」
「叙勲の際にお見かけしました。『鬼神ゴンサレス』殿のお噂は王都中に広まっておりますよ」
ゴンサレス隊長はアストレラ様に挨拶をする。
へぇ~ゴンサレス隊長ってルーデビッヒって家名なのか…初めて聞いたな…。
まあ、こんな感じで挨拶も終わり、アストレラ様が出ようとした際に俺の方を見て「おや、閣下の軍には中級魔導兵が居られるのですか?」と聞いている。
閣下は「はっ、何人かおりますがあの者は魔法兵で御座います。魔力は有るのですがちょっと特殊でして…」などと閣下は答えてる。「ほう…そう言えば魔力が歪な感じですね。若いせいなのかしらね…」等と言いながら侯爵閣下とテントを後にした。
変に目を付けられたかな…等と思ってると凄い顔をしたゴンサレス隊長がこっちを 睨み付けてる…ち、ちょっと…マジ怖いから!!まだ何もしてないから!!
◇◇◇◇◇◇◇◇
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