第14話 新たなる領地
カルディナス侯爵閣下の新しい領地は真北にあった王家直轄地であった。その地とローレシアとの国境になる山岳地帯が範囲である。
つまりは『侯爵にするからローレシアの事はお前に任せる』と言う事になるだろう。結構なぶん投げっぷりだな。
それでもカルディナス侯爵家としては喉から手が出る程に欲しかった海側の地を港と共に拝領したのだから文句は無いだろう。
海側の地帯を手に入れると言う事は”塩”を手に入れる事になるからである。
今までは高い塩を買わされて来たものが、今度は自領で生産はおろか売り手にもなるのだ。
しかも港を手に入れたので交易の幅も拡がる為に領内の経済活動が活発になる。
それと同時に山岳地帯も手を付けないと不味い。王家直轄地の頃はさほど此方には手を付けていなかった様だ。代官が港や塩製造の海側の開発に傾倒していた為である。
だが、カルディナス家は山岳地帯も経済活動の為に手を入れて来たので此方にもしっかりと調査を入れていた。
その警備を4番隊が担っていたのだ。
実は山岳地帯には明確な国境が定められていない為に、調査して自分の領地と宣言すれば自分の領地になるのだ。だから山岳地帯の調査にも手を抜かない。
ローレシアは山岳地帯を好んで領地にはしない様なのでコチラはしっかりと領地に変えてゆく。
魔物を間引き、人の手を入れていけば豊かな森となり、山岳地帯でも中腹までなら立派な村は出来る。カルディナス家はそうやって少ない領地を開拓して行ったらしい。その伝統が今でも生きてる訳だ。
「ラダル!!そっちはどうだ??」
「コッチは粗方終わりました〜」
「よし、今日はここまでだ!」
タイラー副長と俺は魔法兵と槍兵を率いて魔物の間引きをしていた。隊長と歩兵と弓隊は反対方向から、騎馬隊は下の方で里に降りてくる魔物を狩る。こうやって魔物を間引きした後で調査隊が入る事になっている。
調査隊は、生えてる植物や生息動物などを調べる。そうして村などの候補地を探し出し、そこを中心に開拓を進めて行く。
もちろんそれだけでは無い。当然、山岳地帯であれば一番の調査対象は鉱物などの採掘である。
そろそろ帰る支度をしてるとちょっと先の方に居たシュレンが声を掛けて来た。
「お〜い、伍長〜何か光ってんぞ〜」
俺がそちらに向かうと岩壁に見た事の無い青み掛かった光る鉱石が出ている。
「おお!何か大発見なヨカ〜ン!!」
直ぐに調査隊の人を呼ぶと熱心に鉱石を調べた後「ちょっとこのままで!!」と言って直ぐに転がる様に走って行った。
「こりゃあひょっとして…」
「ああ、来たねコレ…」
集まった4人で話していると調査隊の隊長が10人くらい連れてやって来た。
「隊長、コレです…」
「うむ…」
そう言って隊長は鉱石を熱心に調べだして他の人も色々と調べている。俺はローグに副長を呼ぶ様に言った。恐らく俺らはかん口令が敷かれる筈だ。
「君は警備隊の責任者…では無いな?」
「私は伍長のラダルです。今、副長を呼びに行かせております。もう少しお待ち下さい」
「そうか、この件に付いては…」
「我々は調査隊隊長の御命令に従いますので御安心下さい。御命令を徹底させる為に副長を呼んでおります」
「うむ、宜しい。では待つとしよう」
しばらくするとタイラー副長がやって来た。
「何かありましたかな?ゼリス隊長?」
「おお、良く来たタイラー殿。コレを…」
タイラー副長は鉱石を見て重さを確認し、魔力を通す…すると途端に渋い顔になった。
「こ、これは…むう…何とも不味いモノが出ましたね…」
「ワシも同意見だな。だが見なかった事にする訳にもいかん…直ぐに閣下にお知らせせねばならぬな」
「了解しました。おいカシムは居るか?」
「副長、アッシをお呼びで?」
「大至急、閣下の元に行き『青が見つかったので至急お出でになります様に』と伝え、閣下をコチラにお連れするのだ。馬を使って行け。分かったな?」
「了解でさあ。んじゃコレで」
カシムは副長付の斥候で俺が”忍者服部君”と呼んでいる人だ。動きが恐ろしく速くて目で追うのも難しい。最初に見た時はこの異世界にも忍者が居たか!!と感激したものだ。まあ、前世では本物見た事ないんだけどね。
しかし、これ程大事になるとは…こりゃあ間違いなくミスリルだな。やっとファンタジーの基本、ミスリルに出会えた訳だ。へぇ~ミスリルってこんな感じの原石なのか…知らなかったわぁ〜。何か遺跡の杖に出会って以来のファンタジーに出会った感じがする。
「ラダル、お前達はこのままこの場所の警備に当てる。誰も近づかせるなよ。勝手に近づく奴は直ぐに攻撃しても構わん。全てオレが責任を持つ」
「了解しました。この場の警備に着きます。近づく者は始末します」
「ゼリス隊長も他の調査隊員は絶対に近づかぬ様に周知徹底願います。このラダルは優秀ですので、無闇に近づくと確実にヤラれますので御注意を…では」
「分かった、周知徹底させる」
俺達四人はココの警備を任された。
俺はすぐさまこの場所に魔導具で結界を張った。そしてその結界を解く鍵をタイラー副長に渡した。
「おいおい…こんな魔導具何でお前が持ってるんだ?」
「話せば長くな…」
「急ぎで…」
「…ローレシアの街で見つけました」
「ああ…なるほどね…上手い事やりやがったな。じゃあコレは閣下がいらっしゃるまで預かって置く」
「では我々は任務遂行致します」
この結界用魔導具は使い方が良く分からなかった中にあった魔導具で、クロイフさんに相談した際に判明した物だ。基本的に貴族が入り口や金庫、旅先のテントを張る時に使う物らしい。外からは見えなくなると同時に防御も張られる。結構強い魔法や物理攻撃を防ぐので便利だと言う。
俺の『溶岩弾(マグマバレット)』は流石に無理だが、普通のバレットが貫通しないので強度はお墨付きである。
ただし、地面(または床)に置く必要があるので、あのローブの様には使えない…チッ!嫌な事をまた思い出しちまったぜ!
俺達4人は3人で警備して1人を休ませる交代制とした。簡易テントを張り、そこで仮眠を順番に取らせる。
閣下が来るまでの10日間で人の襲来は無しで魔物の襲来は8回と、まあ一応警備らしい感じではあったかな。
10日後にやって来た侯爵閣下はタイラー副長より渋い顔をしていた。ミスリルの出土は喜ばしい事では無いのかな?
タイラー副長は結界を鍵で解き、閣下を案内する。しばらくすると閣下とゼリス隊長とタイラー副長が戻って来た。
タイラー副長は袋に入れた俺の魔導具を俺の横に置いた。わざわざ持って来てくれたのか…流石は副長だな〜。
「…間違いなく”青”だな。デンバー、直ぐに陛下にお知らせせよ。此れより此処は1番隊が警備する事となる。封鎖される事となるので以後は絶対に近付く事は許さぬ。尚、この件は全て忘れろ、良いな!」
「「「ハッ!!」」」
そこに居る全員が侯爵閣下の御言葉に同意する。デンバーとは近衛師団の隊長で閣下の懐刀である。デンバー隊長はそのまま山をかけ降りた。
侯爵閣下が帰る際に俺を見つけて声を掛けて来た。
「ラダルか、元気にやってる様だな」
「ハッ!侯爵閣下より賜りました伍長の責を果たす為、職務に励んでおりまする!」
「うむ、良くぞ申した。一層励むと良いぞ」
「ハッ!有り難き御言葉!恐悦至極に存じます!」
侯爵閣下はニコリとされてお戻りになられた。
俺はまさか声を掛けられるとは思ってなかったのでビックリしたが、何とか無事に台詞は言えた様である。そんな俺に苦笑しながらタイラー副長がやって来た。
「お前はそんな挨拶何処で覚えたんだ?良くスラスラと出てくるものだな」
「伍長たる者、その位はキチンと学んでおります」
「クックック…隊長に聞かせてやりたいなあ」
「止めて下さい、止めて下さい」
「何で2回言った?」
「大切な事なので2回言いました」
タイラー副長は大笑いしながら俺の頭をポンポン叩く。
俺は小声でタイラー副長に疑問をぶつけた。
「副長、あのミスリ…いや”青”でしたっけ?アレが出ると何が厄介なんですか?」
「お前…まあ仕方無いか…アレはな、王家に進呈しなければならなくなるからだ」
「しかし、此処はカルディナス辺境領ですよね?所有権はコチラに有るのでは?」
「正に其処がな…厄介な所だ。所有権はコチラに有るが、貴重な物だから王家に進呈する必要がある。それが忠誠の表れって奴さ。そうする事で王家の面子を保てるし、コチラは領地をしっかりと治めている証になる。だがコレから厄介なのは割合の交渉が待ってんのさ」
「ああ…なるほど…利益だけ考えると目を付けられるし、王家への比率が高過ぎるとナメられるって事ですかね?」
「…ホントにお前は頭が回るな…まあ、そんなトコだ。後は他の国が知ればコチラに戦争を仕掛けて来るしな」
そうか〜今ミスリルが出ても厄介なだけなのか…王政ってめんどくせー。しかもローレシアとの国境が近い場所なのも問題だなぁ…向こうが領土を主張してくるかも知れんし、そうなれば戦争勃発ですよ。
「誤魔化しが利かない様に王家より代官も派遣されて来るからこれも面倒だ。変なのが来ると最悪だからな」
「ああ…確にそうですねぇ〜」
こうして俺達は此処の警備の任を解かれたが、調査隊の警備は終わった訳では無いのでこのまま続行するのである。
副長からも改めてかん口令が俺達4人に言い渡される。当然漏らせば死罪なのは言うまでもない。俺は命が惜しいならこの件について忘れる事にしろと他の3人にも話した。
その後、調査隊による山岳地帯の調査は3ヶ月後に冬が来た為に一旦終了となった。
冬が終わったらまた再開となる予定である。
冬の間は特に何も起こらなかった。
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