第29話 大移動とコンピューター

「父チュルクハガン、オグズ参上しました。」


街の住人、彼等は、死んだ都市の残骸を建材に加工し、鋼のスライムと呼ばれる物に張り付けて壁を造り、周囲の地形も利用しながら豆腐ハウスを複数組み合わせた高層建築物を建造する。


巨大な壁と半分同化したような建築物だ、だがそういった建物はこの街の末端であり、主要な建物は中央の要塞のような幾つかの建物に集中している。


その要塞のような建物の中で、会話は行われていた。


「おお来たかオグズ、お前の弟も大きくなったのでな、そろそろお前もハガンを名乗る頃だろう。」


「【母根】を分けるのですか?」


「うむ、二谷の時に根分けの儀式を行おうと思う。お前も大きくなったし、【石ロバ】を五棟ほど連れていくと良い。」


「わかりました父チュルクハガン。」


部屋を出て、男は深く息を吸い吐き出す。


「オグズ様、どうでしたか?」


「ハガンを名乗る事になった、俺がオグズハガンだ。」


待機していた従者の言葉に何処か吹っ切れた様子で返事をする。


「ではこの街は……」


「弟の物だ、【母根】をわけ新たな街を造る事になる。」


「【石ロバ】はいくつ程?」


「五棟だ、悪くは無い、むしろ多いぐらいだ、だがそれを養うためにも新天地を目指さねばならない、ギルドに連絡しろ、キャラバンを集めねばならん、場所の選定に兵力の増強と忙しくなる。」


「了解しました。」


同時期、遥か地下にて地下都市に新たな方面(セクターの集まり)が加わろうとしていた。


(地下都市>方面>メガストラクチャ(通常)>セクター>区画、

柱と呼ばれるメガストラクチャ、メガストラクチャ(柱)=2つの方面)


「コンピューター案件として行われていたXターンアトラントローパ地下造兵廠及び、ビクトリア貯水層下部の一部の都市化が終了、新たに増築された2つの住居セクターと5つの製造セクターを市民議会に委譲したのです。」


ビクトリア貯水層・中央方面の代表に任命された市議会の議員がコンピューターから情報の記録としてのホログラムを受けとる。


「委譲を確認、住居セクターの行政権を市議会に付与、市議会が市民の代表として良き友人であるコンピューターに製造セクターの管理権を返還します。」


何処か緊張しながらも、堂々と振る舞う。


「都市憲章第一条の履行を確認、コンピューターは第二条に従い、新たに増築された2つの住居セクターと5つの製造セクターを地下都市であることを認め、市民の友人であるコンピューターとして、コンピューターは市民の助けになることを誓います。」


「市議会は市民の代表として、コンピューターの助けになり、共に地下都市の問題に対象することを誓います。」


宙に浮かぶ、手に持てるサイズの黒いモノリスに手をのせ、反対の手を掲げ誓うのが地下都市の宣誓だ、二人の宣誓と同時に、会場が拍手に包まれる。


一神教の宗教の影響をうけた西洋文明は契約を重んじる。その文化を地下都市もまた引き継ぎ、一つの儀式として残っている。


意味の無い儀式に見えるかもしれないが、外壁破壊と拡張は地下都市の意味を変えた、地下都市は場所にとらわれない、少なくとも地下都市の範囲は壁を越えたのだ。


「これが自律AI搭載の闘支援ドロイドなのですか?」


「アプリを起動して情報を入力してください。」


コンピューターがバランスボールほどのそれに近ずくと、上半分にボーリングの様な三つの顔が現れ、音声による案内を開始する。


コンピュウターは適当な壁を叩き、それを自分の個人情報端末として扱い、一般の市民と同じように初期の設定を行う。


「二足歩行と四足歩行、人型と蜘蛛型になれるのですか、設定も面倒なのですが民間に任せただけあってしやすく、飼い主の影響により性格も変わる。普通にペットとして人気なのです。」


戦闘ドロイドよりも汎用性の高い、自律戦闘支援ドロイドがいつの間にかペットになっていた。


「自律AI、丁度良い性能になったのですが、こういう用途に需要が生まれるとはおもわなかったのです。悪い事では無いのですが、何だか地下都市の拡大が遠のいたような気分になるのです。」


もやもやとした感情に振り回されつつ、蜘蛛型の戦車モードに変形した自律AIに慰められ、対抗意識を持ったメイド型アンドロイドに世話を焼かれるコンピュウターであった。

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