第53話 帰りたいわけじゃないんです、でも

エルザ妃が最後に私のところにきてから、何日も私は考えていました。


ルカは私に、国へ戻るなといいました。

オズワルドは、私を王命で追放したものの、今や私を国に連れ戻そうと必死に探していて、

エルザ妃は私に、王とオズワルドを倒せば国に戻れる、だから自分のところへ来て力を貸してと言いました。


それで、私はどうしたいのだろう。

国に帰りたいかと言われたら、帰りたいわけじゃないんです。


本当に正直なことを言えば、私は、地位にも立場にも、神殿での質素ながら安楽な暮らしにも、全然未練はありません。追放されたときも、悲しかったけれど、別に国に戻れなくてもいいと思っていました。


後ろ盾がなくなれば、昔、母と細々と生計を立てていた頃に戻るだけです。あの頃だって、私はとても楽しかった。もう亡くなってしまったお母さまは、私に生きる術をたくさん教えてくれました。

追放されてすぐ、私が森でルカに出会わなかったら、私は多分、ラブールかサイラスあたりの国に出て、経歴を隠し、一人で聖魔術師かなにかで生計を立てていったことでしょう。


もし、私が追放された後、リディス王国が今まで通り、平和に続いていたなら……そして、ルカに出会っていなかったら……。

私、国には二度と戻らないってはっきり決められたんじゃないかなって思うんです。


でも、そうはならなかった。


私はルカと出会い、仲良くなり、リディス王国は聖女の結界を失いました。

リディス王国の人々が、聖女の結界を失ったせいで、魔物に襲われ、死んでいくのだとしたら……私は助けたい。


そして、ルカのこと。


私は、どうしても、ルカの呪いを解きたい。

私をずっと助けてくれて、ここにきてから、ずっと楽しい日々を一緒に過ごした、お兄さん。

あの人に、死んでほしくない。


エルザ妃は言っていました。

自分は長くないと。自分が死んだら、ルカも死ぬと。

エルザ妃の呪いを解けば、ルカの呪いも解けます。でも、呪いを解くために、彼女のところへ行けば、王とオズワルドを倒すことに加担することになるでしょう。


彼女のところに行けば、ルカの呪いも解けるかもしれない。聖女の結界も、私の力で元に戻るかもしれない。でも、王家の政治に巻き込まれるのは間違いない。


これからルカに、私がエルザ妃のところへ行って、ルカの呪いを解きたいと話したら、きっと止められてしまう気がします。

ここに、この森の家にいなさいと言われて、引き留められる気がする。


何か根拠があるわけじゃありません。でも、ルカは、自分の命よりも、私の安全を、優先してしまうような気がするのです……。


じゃあ、ルカに言わずに、エルザ妃のところへ行った方がいいのだろうか、でも……。

もし、エルザ妃のところまで出向いた先で、彼女の呪いを解くことができなかったら?

もしそうなったら、私はいったい、どうしたらいいのだろうって。



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